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第7話ー①『暴君の呟き』

「あと少し……もう少しだ……」


 覗き込んだ自分の掌からは赤いオーラが立ち昇っている。しかし、その姿は人間、地球人のものだ。肌色と呼ぶらしいが、顔も手も土のような色をしている。


 この星には、「人の皮を被った……」などという言葉があるようだが、まさに今の我がそれだ。今の我はこうしてオーラを出す事も出来るが、人の皮を被っている。それも全てはあのカイゼルを倒す力を蓄える為だ。


 思えば奴との因縁はもう何年になるか。我が星々の制圧に乗り出してからの縁だから、もう数十年は経過している。奴は宇宙パトロールの新人で、上司に付いて我が軍に立ち向かって来た。最初はどうという事のない相手で、上司にくっついているだけのような存在だった。


 だが、奴は諦めの悪い男で何度も食らい付いて来た。ある時、奴の上司と決戦になり、圧勝の末、惨殺してやったのだが、それでも怯まず向かって来た。それが印象に残った。ちょうどこの前の地球人に似ていたようにも思う。


 その内、アメージングストーンなる宇宙の秘宝の噂を聞き付け、我と宇宙パトロールでの争奪戦が始まった。この秘宝、手に入れた者の力を信じられないくらい引き出すのだとか。そんな話を聞いた我は、宇宙パトロールの手に渡す訳にもいかぬ為、金に糸目を付けずに探索を行った。


 その結果、最初に見付けたのは我が配下だった。アメージングストーンは、とある星の鍾乳洞の奥に眠っていた。洞窟の奥深くへ潜って行った部下は、確かに闇の中でも輝く鉱石を手に入れたのだ。「今から持ち帰る」、そんな通信が入っていた。


 しかし、カイゼルはその通信を傍受し、配下が我にストーンを渡そうとする前にそれを打ち倒してしまった。結果、ストーンの力を手に入れたのは奴だった。奴は黒き仮面の戦士に変貌し、以後、我の配下を次々に打ち倒していった。


 形成は一気に逆転し、我以外、配下でカイゼルに敵う者はいなくなった。我自身はまだ十分に戦えたが、どんな部下を用いても奴に倒され、我は怒りに燃えた。


 我は一計を講じた。ある時、奴らを罠に嵌め、カイゼル以外を一網打尽にしたのだ。そのまま絶望し、意気消沈した奴を葬るつもりだった。しかし……


 奴は絶望などせず、感情が爆発した結果か、今と同様、銀の力が目覚めたのだ。「色が変わったくらいでどうした」と、勢い込んで奴を倒そうと向かって行った我は滅多打ちにされ、危うく命を落とすところであった。あまりの速さ、凄まじさに、全く手を出せなかった。あんな狂暴な強さは今までに経験した事がない。


 奴があの銀色の力に覚醒してから、その強さは一気に我を超えて行った。それまでは互角、若しくは我の方が圧倒していた筈だ。我がカイゼルの仲間達を殲滅した時、異変が起こったのだ。我への怒りに燃えた奴の身体が黒から銀に変わり、常軌を逸した力を溢れさせた。奴の持つアメージングストーン、その力に違いない。


 アメージングストーンの力の正体が一体何なのかはわからぬ。だが、とにかくカイゼルの奴が飛躍的に強くなったのは間違いない。単純に奴の力というよりは、ストーンの力としか言いようがない。あのような常軌を逸したパワーの上昇は、自力で起こせるものではない筈だ。


 ただ、我はそんなストーンの原理に興味はない。奴がどれだけ強くなろうと、我がそれを上回る強さを手に入れれば良いだけの事。強い者が勝つのではなく、勝った者が強いのだ。我はその論理で今まで戦い抜いて来た。我は負けてない。どんな手を使ってでも勝つ、それが我の強さだ。


 もちろんそれを凌駕しかねないカイゼルの強さは承知している。我もただ手をこまねいていた訳ではない。自らの肉体を練り上げ、赤いオーラを発現させた。まだ奴には及ばないが、それなりに渡り合うまでにはなった。


 そして、もう少しで我は奴を超える。この星に来て、そのヒントは掴んだ。まもなく我はさらなる力を得て、カイゼルを打ち倒す。その日を迎えるまで、我はこの臭いニンゲンの皮を被り続ける。あと少しの我慢だ……


 ただ、地球……人民の肉体の貧弱さはともかく、奴隷となる者も多く、なかなか良い星だ。資源も豊富で、今後の侵略の足掛かりに出来るだろう。我自身、今こうして本来とは違う姿でいても、肉体はともかく星そのものにはさほどの違和感を覚えない。


 いや、別の違和感はある。闘争を繰り返して来た我が生涯において、これほど平穏な時間があっただろうか。静かな時を過ごすという感覚のなかった我には、むず痒いような気持ち悪さがある。地球人との交配も然り、こんな行為は今までにない経験だ。我の血を引く者を地球人に産ませる、基本的に自分が主である我にとって、こんな事に意味があるのかはわからぬ。


 こんな平穏も我が本腰を入れて動き出せば一気に崩れて行くだろう。我の精神も肉体もそれを望んでいる。我に宿る赤いオーラが煮え滾らんばかりに身体に渦巻いている。今はそれを爆発させるまでの助走期間なのだ。


 あと少し、あと少しの我慢だ……



だいぶ時間が空きましたが連載を再開します。そして、第7話は主人公・優以外の呟きになります。

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