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第5話『逆襲』⑥

 風間を追った筈だが、まさかの大ボス登場に、優は驚きを隠せない。見下ろしてくるような身長を持つ異形の者は、頭部の立派な一本角をはじめとして、肩、肘、膝にも尖った形状のパーツを備えていて明らかに地球の生き物ではない。K山の時のような赤いオーラは出ていないものの、奴の纏う圧倒的な雰囲気は、足を震えさせ、目の前で立っている事すら覚束なくなりそうだった。この相手には、スーツの出力を上げて剣を持ったくらいでは、どうにかなりそうに思えない。


 ただ、如何にウォーグといえども、手にしたレーザーブレードなら斬る事は出来る筈だ。そして、剣の技術なら通用する可能性はある。優は決意を固め、震えがきている脚を叩き、自分に気合いを入れ直した。


「この星の言語ではなくとも通じているようだな。改めて問う。何者だ」

「それを明かす必要はない」


 優は名乗って両親の事を尋ねたい思いもあったが、それは下策だと考えた。下手に素性が知れたら咲にまで危険が及ぶ可能性は高かった。何より風間を追ってウォーグが現れた事実を考えると、正体が奴だった場合、おそらく既にバレている事になる。


「ならば、無理矢理にでも口を割らせてくれるわ」


 ウォーグはゆっくりと歩を進めてくる。ナメているのか、全くのノーガード状態だ。しかし、そのプレッシャーは半端なく、気付くと自分の後ろにはバックネットの金網があった。自然と足が後退していたのかも知れない。


 優はレーザーの剣を出現させ、剣道と同じ構えを取った。剣の道を嗜んだ者として単純に見る限りでは、敵は隙だらけだ。ただ、遠い間合いからでは届かない。剣が届くまで近付いたところで一気に斬り抜けるつもりだった。


「ケンドーだったか……、このニホンの古武術……だな」


 そんな事まで知っているとは驚いた。となると、狙いを読まれている可能性も否めないが、今更後には引けない。優も相手の動きに合わせてゆっくりと足を前に進める。ウォーグの狙いは間合いに入った瞬間に脳天に腕を叩き突けてくる事だろう。しかし、この駆け引きは優の勝ちだった。ウォーグ自身が『剣道』と言った通り、自然とこちらの間合いになっていた。優は相手の腕が振り下ろされる瞬間、前進しながらその腕をレーザーブレードで斬り落とした。


「何……だと」


 あのウォーグが腕を斬られた事に驚いている。優は好機は今だとばかりに剣道でいう上段からの一撃を繰り出した。


「侮るなっ」

「くっ」


 ウォーグの憤怒の叫びは強烈なプレッシャーを生み出し、優は見えない圧力に阻まれて前に進めず攻撃を防がれた。すかさずウォーグは優の頭を掴み、金網に投げ飛ばした。その勢いは凄まじく、優の身体ごと金網を突き破り、グラウンドの土に身体を投げ出された。


「我は今激怒している……」


 バックネット裏にいるウォーグの身体から、K山の時のような熱気が感じられる。その熱は金網をも溶かし、回り込む事無く、真っ直ぐにゆっくりと優の方へ向かって来る。


「怒らせてしまったか。だが、右腕は奪ったし、冷静に戦われるよりは好都合か……」

 優は再びレーザーを発生させ、身構えた。

「キュウソ猫を噛む……だったか、お前達にはそんな言葉があるようだな。そんな状況を作った我自身に我慢ならん。もし急所を斬られていたら、絶命したやも知れん」


 ウォーグの熱はグラウンドの土を溶かし、泥と化した。そして、次の瞬間、新しい生物が産まれるかのように、斬った筈の右腕が再び生えてきた。


「何だと……」


 優は驚愕した。右腕を斬り落として少しは戦えるかと思った矢先、その腕が再生したのだ。しかも、奴の怒りは奴自身に向いているようで、予想外に冷静であるように感じられた。こんな化け物に通用するのか、不安しかない。しかし、先程右腕を斬り落としたのと同じように、再度立ち向かうしか道はない。


「確かにその剣は危険だ……だから、フンッ!」


 ウォーグは自らに気合いを入れるような仕草をした。すると、それだけで強烈な圧力が発生し、優の身体は吹き飛ばされた。その勢いで、持っていたレーザーブレードを落としてしまった。すぐさま拾いに向かおうとしたが、ウォーグは巨体に似合わぬスピードで、前を塞いできた。


「もう油断はせぬ」


 ウォーグは値踏みでもするように青い目でこちらを見てくる。「油断」ではないだろうが、先手必勝とばかりに優は即座にマッハキックを叩き込んだ。完全に顔面に命中した筈だったが……


「なかなかいい蹴りだ。並の配下であれば砕け散ってしまうだろう。だが、我には通用せん」


 ウォーグは平然としており、顔面を掴まれた。頭が砕けそうな握力だ。そのまま野球の投手のようにオーバースローで優の体をグラウンドに投げ付けた。


「ぐうっ……」


 自分の身体がボールのように地面をバウンドする。コンクリートじゃなかったのがせめてもの救いか。転がった後、何とか体勢を整え、また相手を正面に見据えるが、

「こんな怪物……現時点で勝てっこない……」

 さしもの優も諦めの言葉を口にしかけた。だが、拳は固く握られたままだ。


「だけど……絶対に諦めない……百万分の一でも可能性があれば、足掻いてやる」

「危険な芽はここで摘む。死ねい」


 ウォーグが突進しながら右の拳を繰り出してくる。まだマスクの性能は死んでいない。優は相手の腕の動きを瞬時に読み取り、これをすかすと、懐に潜り込んで一本背負いを決めた。柔をよく剛を制す、重く大きい相手でも勢いを利用して梃子の要領で潜り込んでしまえば投げる事は可能だ。これも鍛えた柔道の技が活きた。


「ほう……やりおるな。我を投げるとは……」


 先程の自分同様、地面が土の為、さほどのダメージは与えられない。ウォーグは簡単に立ち上がり、また向かってくる。

(冷静に相手の動きを読み、捌く)

 優はそう自分に言い聞かせて、マスクの性能を利用し、相手の動きを捌いて凌ぐつもりだった。その後繰り出されたウォーグの徒手空拳を、いなし、かわし、相手の体勢を崩し、何とか立ち回った。一撃食らえば全てが破壊されかねない恐ろしいプレッシャーの中、優はマスク・スーツの性能と、自身の体捌きで必死に対応した。これもスーツの出力を上げた事が大きかった。おそらく今までの性能ならば、スーツの方が付いてこられなかっただろう。


「なるほど……」

 一度ウォーグが後退した。

「お前は強い……。その着込んでいる服の性能もあるのだろうが、この地球上では一番と言って良いくらいだろうな。それは認めよう。だが、悲しいかな、圧倒的に力の総量が違う。この星の民は我らに比べて貧弱だ」

「力の弱い者が必ずしも強者に敵わないなんて事はない! 現に今、俺はお前と戦えている」

「それは我が本気を出していないからだ」

「出まかせを言うな」

 優は怒って反論したが、ウォーグは受け付けず話を続ける。

「惜しい……。お前がこれだけやれる事には驚いた。だから問う、我に仕えぬか?」


 目の前の怪物のとんでもない提案に優は驚かされた。青い目がこちらを凝視している。奴は冗談で話している訳でもないようだ。


「お前程の力があればもっと強くなれる。我はこの星の民など超越した力を与える事が出来る」

「俺を……勧誘しているのか」

「そうだ。お前程の才能を潰すのは勿体ない。この星を捨て、我と共に生きぬか」


(こいつ、こうやって父をも篭絡したのか)優はそう思った。奴の口振りからして、父も気に入られそうな対象だ。一瞬、父の姿を思い浮かべたが、優は再度拳を固く握り、

「断る! 俺達地球人は決して屈しない。そして、絶対に……諦めない!」

 と断言した。

「愚かな……。ならば、やはりここで死んでもらうしかないな。フンッ!」


 ウォーグは気合いと共に、自分の周りに赤いオーラを発生させた。これはK山で大爆発を起こした時と同じような状態だ。今まで以上の熱気が感じられ、夜なのに真夏の太陽以上の暑さが周囲を覆った。奴の足元周辺の土は泥になるどころか溶けてなくなっている。


「本気で行くぞ」

 ウォーグがそう言った瞬間、腹に一撃を浴び、吹っ飛ばされていた。

「がはっ……」


 優は内臓が潰れたかのような衝撃を受け、血を吐いた。マスクの性能でも全く反応出来ない速さだった。土を転がり、何とか起き上がったが、ウォーグは既に距離を詰めて来ていて、頭目掛けて蹴りが繰り出された。咄嗟に両腕でガードしたが、それでも5m以上吹き飛ばされた。ガードしても意識が刈り取られるような威力で、防御した筈の腕も粉砕されたかも知れない。


「これが……奴の本気……」


 両腕と腹部のダメージは半端なく、よろよろと起き上がるのがやっとだった。頼みのレーザーブレードもその手になく、絶体絶命だ。


 優のダメージを把握出来ているのか、ウォーグはゆっくり迫って来る。逃げる事も出来ず、距離は詰まる。凄まじい熱が顔を吹き付けた時、凶悪な表情が見下ろしていた。


「これで最後だ。さらばニンゲンの勇者よ」


 ウォーグが天から打ち下ろすような勢いで右の拳を放ってくる。もはや避ける事も不可能だ。さすがの優も目を閉じた……


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