第5話『逆襲』⑤
猛烈な勢いで優は落ちて行く。そして、甲羅の突撃が結構効いて痺れており、頭から落下する体勢を立て直す事が出来ない。
幸い、意識はある。だが、このまま頭から落下したら命も危ういだろう。いくらスーツの力があるといっても、この高さからの衝撃に耐える事も、痺れた体で空中を落ちながら体勢を変えるのも、なかなか難しい課題であった。
暗闇の中でも優のマスクの暗視スコープは周囲の状況を捉えており、気付くとタワーの半分以下の高さまで来ていた。このままではマズいと思い、眼下に見える大きな松の木へ身体を向けようと試みた。木に引っ掛かるなり、葉っぱがクッションになればブレーキも掛かるかも知れない。
「くっ」
少し距離があったが、優は何とか枝の一つを掴んだ。このまま木で止まれれば、と思ったが、あえなく手に掴んだ枝は勢いで折れ、落下は止まらない。しかし、これで頭の位置は上向きになったので、脳天から落ちる事はなくなった。
「マッハキック!」
優は空中で飛び蹴り気味にマッハキックを繰り出した。その標的は、事務局棟裏のグラウンドの金網で、マッハキックのお陰で普通なら届かない位置まで身体が伸びた。だが、マッハキックの威力は金網を突き破ってしまい、結構な勢いで地面に激突気味に着地した。土のグラウンドには衝撃で大きな穴が空いた。
「痛てて……」
さすがに足への衝撃は半端なかった。ただ、地面が土だった事と、予想外にスーツにクッションが効いていた。咲の言っていた衝撃吸収性が発揮されたようだった。
「やるじゃないか、トレーナー」
優は咲の顔を思い浮かべていた。今の着地で結構な衝撃が両脚にあったが、おそらくは無事で、咲の改良がなければ骨折やヒビが入る程度のダメージを負ったかも知れなかった。同時にどてっ腹に食らった一撃も、一度は身体が痺れる程だったが、既にほぼ回復していた。思った以上に、衝撃吸収性が良くなっているようだ。
「さてと……」
優は身構えた。空から降ってくるものを感知したからだ。上を見上げると、巨大な甲羅が空から降って来た。優はそれをバックステップでかわすと、
「マッハキック!」
地面に突き刺さった甲羅に、必殺のマッハキックを飛び蹴りで食らわせた。だが、やはり鉄壁の甲羅の前に跳ね返されてしまった。
「やはりダメか……」
ある程度、効かないと想定して放ったものの、必殺技と見込んでいる攻撃がこうも通じないのはやはりショックであった。
「グルップ~ッ!」
亀はまた甲羅から身体を出すと、不気味な叫びを揚げて向かってくる。マスクのお陰で暗闇は問題ない。優は突進をかわし、頭部や腕に攻撃する。甲羅以外への攻撃は有効なようで、パンチやキックが当たる度に、亀は呻き声を揚げた。
優は敵の甲羅の堅さはともかく、十分戦えている実感があった。これもスーツの出力を上げた事が大きかった。反応速度や攻撃を繰り出すスピードが、間違いなくこれまでより上がっているのが実感出来た。
「このまま押し切って勝つ!」
優は相手が振り回してきた右腕をかわし、カウンター気味に顔面を打ち抜こうとマッハパンチを繰り出した。しかし、次の瞬間、亀の頭は消失した。
「何っ」
亀はまたも甲羅に身を隠したのだった。そして、その甲羅が空中で回転して、ぶつかってきた。たちまち優の身体は吹っ飛ばされ、土の地面に叩き付けられる。
「くっ」
「グルプップ~ッ!」
この怪物達は言語能力はないようだが、戦闘における学習能力は高い。その証拠に亀は格闘は諦め、甲羅に籠って身体ごとぶつかってくる戦法に変えたようだった。こうなると、マッハ系の技すら通じない優は分が悪い。
調子に乗った亀は、突進系ではなく、落下系のアタックをしてくる。5mくらいの高さに上がっては地面にいる優目掛けて落ちてくるのだ。優がかわしてもグラウンドをボールのようにバウンドして、また5m程度の高さに上がってまた落ちてくる。亀が落ちた土には大きな跡が付いた。これを食らったら結構なダメージとなりそうだ。
段々と落下のタイミングも速まってくる。何とかかわせるものの、気付くと優の身体は先程突き破った金網の方まで誘導されていた。これではこれ以上下がりようがない。
巨大な甲羅が落下してきた。優はギリギリサイドステップでこれをかわした。次の一撃をかわせる保証はない。やるしかない、優は決意を固めた。
優の右手から青白い光が伸びた。次の瞬間、優は落ちてくる甲羅に向かってジャンプして立ち向かい、青白い光を薙ぎ払った。
「くらえっ!」
「ギョエ~ッ!」
亀が絶叫を揚げる。優は松枝から譲り受けたレーザーブレードで、甲羅ごと亀型の怪物をぶった斬ったのだった。その切れ味は凄まじく、あの堅い甲羅が真っ二つになり、中に籠っていた亀の頭も綺麗に切り裂いた。
「す、凄い!」
着地した優は、自分で斬っておきながらあまりの威力に驚いていた。自分の脇に空中から断ち割られた甲羅が落下し、中に入っていた亀の肉体は大量の体液を垂れ流していた。もはや動く事はなく、完全に絶命していた。
その時、優のマスクは金網の外に動く人影を感知した。自動的にサーチしてフォーカスする。風間だった。奴は最上階の学長室から降りて来て、この戦いを見ていたのだろう。もしかしたら動画撮影までしていたかも知れない。
「待てっ」
優はレーザーを引っ込めると、金網を回り込んで奴を追った。しかし、その逃げ足は速く、金網を越える間にグラウンドの周りに生えている木々の中に姿を隠してしまった。優は「くそっ」と舌打ちしながらマスクの性能で再度周囲を見回した。しかし、生体反応は……
「な、何だと……」
マスクは風間ではない別の生体反応を捉えていた。木々の中に得体の知れない強いエネルギーが感じられる。
「なるほど。甲羅をぶった斬る程の力を持つか。雑魚共ではやられる訳だ」
日本語ではない呟きが聞こえたが、マスクは解読した。父が研究していた惑星ミョルドの言語だ。
「なっ、貴様は!」
「……我を知っておるか。何者だ?」
木々の中から優の前に現れたのは、怨敵・ウォーグだった。




