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第5話『逆襲』③

 期せずして望む武器を手に入れた優だったが、その力は未知数で、期待の反面不安も大きいものだった。何しろ怪物相手の戦いでは、レーザーが作動しないなど、剣の不具合があれば致命的だ。試し斬りした限りでは特に問題もなさそうだが、頼りきる訳にはいかない気もした。


「すご~い! 映画に出て来る武器みたい」


 研究室に一人来ていた咲に見せると、やはりそんな感想を漏らした。こんな物は他人がいる時にはおいそれと見せられない。青白い光はやはり目立つし、法律は良くわからないが、下手をすると銃刀法違反に問われかねない。


「確かに凄い切れ味だが、3分しかもたないそうだ」

「そうなんですか。何だか充電も大変そうですね」

「さすが工学女子だな。その3分の為に長時間充電する必要もある」

「先輩、工学女子だなんて、ひょっとして馬鹿にしてます?」

「いや、そんな事はないよ」


 咲が少し頬を膨らませたので、優は慌てて否定した。だが、咲は細い目をしてじっと睨んで来る。


「先輩、やっぱりそういうところが意地悪ですね」

「そ、そうか……、すまん」


 冷たいと言われた事もあるように、確かに優は女性に対しても歯に衣着せぬ発言をしてしまう事が多かった。それは、工学部という異質な世界にいる事や、両親を失ってからは一人でいる事を好んだ為、一般の大学生のように気軽に女子と接していないのも大きかった。自分としては女子が苦手だと思った事はないが、そもそも接する機会が少なかったのは間違いない。咲と一緒にいると自分の未熟な部分がよくわかる。


「まあいいですよ。先輩が意地悪なのはよくわかりましたし、でも本当は優しいって事もわかってますから」

 そう言う咲の顔が意地悪くなっていた。

「何だか、俺の方が意地悪されてるみたいだなぁ」

「そんな事ないですよ~。出来の悪い後輩は、先輩にキツく言われると凹んじゃうんですからね」

「はいはい……」


 優は素直に返事をして引き下がった。


「それはそうと、使える時間と充電時間を考えたら、その剣だけに頼りっきりって訳にはいかなそうですね」

「そうだ。だから、やっぱりスーツの出力を上げたい。いざ怪物が出現した時にすぐに使えないのは困るから、大幅な改良は難しいだろうが……」

「本当にやるんですか? 私は反対。だって、先輩の身体が……」

 と咲には身体への負担を心配されたが、

「俺の身体を守る為にも桜花の目で判断して調整してくれよ」

「先輩、やっぱり意地悪ですね……」

 改めてトレーナー役を頼むと、渋々納得してくれた。


 同時に優は咲にも内緒で新しいスーツの作成に着手し始めた。これまでの戦いで、現在のスーツを超える、新たな装備が必要だと実感したのだった。それは単に今までのスーツの上位互換ではなく、これまでにない能力等を備える必要があった。まだ構想段階ではあるものの、武器の内蔵や、マッハパンチ・キック以上の強力な技を繰り出せるよう、研究を重ねるつもりだった。


 何故、内緒で開発するのかと言われると、当然、ゼミ内には話す気はなかったし、咲に言えば反対されそうだったからだ。一方でとんでもないものを作って驚かせてやろうという魂胆もあった。



 研究室に籠もりながら、優は気になっている事があった。例の探偵・風間の事だ。再度、現れてもおかしくないのだが、この日、彼は姿を見せなかった。咲もそれが気になっていたようで、

「先輩、あの人、来ませんでしたね」

 と夕方、研究室の学生が少なくなってきた頃、口にした。


「今日来てもおかしくなかったんだけどな」

「まさか……怪物にやられちゃったとか……」

「そんな感じはしないけどな。もっとも遭遇すればやられてしまうかも知れないが」

「それはそうと、スーツはどうだ?」

「先輩の言う通り、少し出力を上げておきましたよ。身体の負担が心配ですけど、先輩がやられるのも心配なので……」


 咲は渋い顔でそう言った。


「ありがとな。助かるよ」

「その分、衝撃吸収性を少し高めました。ダメージを吸収する為、今まで以上にエアーを噴出するように改めたんです。落下のダメージとか、少し抑えられると思います」

「ほう」


 優はスーツとそのデータを確認した。確かに咲の言う通り、出力は10%以上上げられているし、衝撃吸収能力も上がっている。


「やるじゃないか」

「えっへん」


 優が褒めると咲は胸を張った。冗談でなく、咲はなかなかの調整能力を示してくれていた。まさにトレーナーとして打ってつけかも知れない。期せずして、戦う上でのサポート役にピッタリな人選だったようだ。


 薄暗くなってきて、研究室には二人の他、誰もいなくなった。機械音が微かにする以外は、ほぼ無音の状態と言えた。


「静かですね」

「ああ」


 黙々とデータに見入っていた優は、顔を上げて咲を見た。

「先輩、私って役に立ってますか?」

 急に咲が不安気な顔で尋ねてくる。


「何を今さら……、勿論だ」

「足引っ張っていないかと心配で……」

「さっき、えっへんとか言ってたじゃないか」

「それは……強がりですよ。先輩も病院担ぎ込まれたりしてますし、本当に心配で」

「大丈夫だ。もしも、役に立たなきゃ立たないって言っているさ。俺がそういう男だと言うのはわかってるだろ」

「そうですね。先輩ってそういう人でしたね」


 咲は腑に落ちたかのような表情をする。優は、役に立ちたいと思ってくれている彼女がいじらしく思えた。だが、そんな事は口には出せないので、あえて言い返す。


「そうだ。自分で冷たいって言っていたじゃないか。忘れたのか」

「忘れてませんよ~。イーッだ」


 咲はアカンベェのような顔をする。そのひょうきんさに優も思わず苦笑した。しばらく二人で笑っていたが、咲はまた真剣な顔をして言う。


「先輩、私が何で不安になるのかわかりました」

「何だ?」

「こんな風に先輩の命を預かりながら、どうも距離感があるんですよ。だから、今度から私の事、苗字じゃなくて、咲って呼んで下さい」

「な、何でそんな話になるんだよ。距離感あったっていいだろう」


 優は恥ずかしくてとても名前で呼ぶ事など出来そうになかった。


「いいえ、距離感あります。桜花って言われると、先輩の威厳を感じちゃうんです」

「むう……」


 優が困った顔をしていると、外の方で何かが壊れたような音が響いて来た。研究室の中まで聞こえてくるなど、ただ事ではない。

「何だ?」


 優は部屋を飛び出して外に出ると、音のした方角を見た。ガラス張りのタワー、事務局棟の方で何かが起こったようで、うっすら煙のような筋が見える。


「事務局棟へ行って来る。スーツを」

「はいっ」


 優はパワードスーツを受け取ると、松枝から譲り受けたブレードの柄を持ち、事務局棟へ駆け出した。



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