第4話『忌まわしき過去』⑧
「……とまあ、これが過去に起こった事の大体だ」
優はそう言って水を啜った。話し込んだせいか、カレーはまだ半分以上残っていた。時計を見ると、1時間以上も喋っていたようだ。
「そんな事があったんですね。先輩がどんなに大変だったか、これでよくわかりました」
咲は驚いたような、感心したような顔で優の顔を見ている。興味津々で聞いていた為か、彼女のスパゲッティもほとんど減っていなかった。
「先輩のお父さんとお母さんは……」
「生死はわからない。だが、俺は生きていると信じる」
「そう……ですよね」
「うむ。俺も諦めたくない」
優の言葉を聞き、咲まで辛そうな表情をしている。
「そんな顔をするなよ。俺まで不安になってくるじゃないか」
「す、すみません。じゃあ、話を変えますけど、お話にあった銀の怪人が、今日出現したという銀の戦士なんですね」
「そうだ。姿格好も同じだったし、雰囲気も間違いなく同一人物だろう」
優は自分の言葉に間違いがない事を確信していた。今日出会った銀の戦士は、姿格好はもちろん、喋り方や態度もあの時の『銀の怪人』と同一だったように思う。
「先輩の話を聞いている限りでは、確かに悪い人には思えません。ただ、相当厳しい人なんでしょうね」
「うむ。俺があの時の高校生とは気付いてなかったんだろうが、やっぱり自分から見て弱い者を一緒に戦わせてはくれないようだ」
「そんな、先輩が弱いなんて事はないです」
「いや、俺は弱い。そこは認めざるを得ん」
優は言い切ったが、咲はまだ反論があるようだった。整った顔立ちがややきつい表情になっている。
「その……単純に強い弱いって言えばそうかも知れないけど、先輩の心の強さは負けてないと思います!」
「桜花……」
優は驚いた。咲がそこまで自分を買っていてくれたとは。
「先輩は、そんな事があったのに一人で強い気持ちで戦って来たじゃないですか。今の話でも、本当に『絶対に諦めない』のが伝わってきましたよ。そんな先輩が弱いなんて事はないです!」
「ありがとう」
優は咲の目を見て礼を言った。彼女は照れたのか、恥ずかしそうに顔を逸らした。
「そんな風に言ってもらえて、今までの苦労が少しは報われた気がする。そして、やっぱり俺は……絶対に諦めないからな。ウォーグを倒して、両親も取り戻す!」
優は嬉しかった。人知れず行って来た戦いを認めてくれる咲に、心底感謝したい思いだった。そして、今の言葉で改めて「絶対に諦めない」精神を思い出し、再びウォーグ達に立ち向かう意志を固めたのだった。
「まずはお互い食べましょうかね」
咲が笑顔で言う。優も苦笑すると、二人共、残っている食事に再び手を付けた。冷めてはいたが、優には美味しく思えた。
第4話終わりです。ご感想等いただけると、大変喜びます。