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第4話『忌まわしき過去』⑦

 次の瞬間、優は何者かに抱き抱えられて、空を飛んでいた。眼下に赤い光に伴う爆発が起こり、その被害から彼を守るかのように銀の光が温かく包んでいた。優を救ったのは銀の怪人だった。


「あ、ありがとうございます……」


 優は抱えられながら振り向き、自分を助けてくれた者に礼を述べた。


「お前さえ、早く逃げてしまってくれれば……。ウォーグを逃した代償は高く付くかも知れん」

「す、すみません……」


 優がこの場にいたが故に、彼が全力で戦えなかったのは間違いない。足手まといであった事は否めなかった。


「悔やんでも仕方のない事だ。ただ、奴がこの星に居座るとなると、大変な事になる」


 銀の怪人が語る日本語を聞きながら、優は責任の重さを痛感していた。まだウォーグが起こした爆発は煙を上げていた。


 銀の怪人は爆心地から離れるように軽快に飛んだ。どういう身体構造なのか、特に翼がある訳でもないが、飛空能力を持っているようだ。優は車に乗っている程度の速度が出ているように感じた。


 いつの間にか銀の怪人は身体の輝きを消しており、二人は真っ暗な中、空を飛んでいた。しばらく暗闇の宙に揺られると、優は市内の大きな店舗の駐車場の端っこに降ろされた。もう夜になっていて、田舎の店の駐車場にはほとんど客もいない。近くに人影もなかった。


「ここでいいか。俺も目立ちたくはないんでな」

「は、はい」


 何処となく見覚えのある場所だったので、ここからなら一人でもどうにかなるだろう。優と怪人は向き合った。


「お前も大変だったな」

 身体の光を消した怪人が呟く。

「いえ……俺のせいですみません」


 自分の判断ミスで大きな禍をこの星に残してしまったのだ。父母の消失ショックと併せて、精神的なダメージは大きかった。


「さっきはああ言ったが、気にするな。俺がお前の立場だったとしても、やっぱり逃げられなかったかも知れん。むしろ、先程見た事は忘れるんだ。何もなかったものとして、平和に生きていけばいい」

「そんな事……出来ません。父も母も失って、忘れるなんて!」


 優は反論した。


「残念だが、両親の事は諦めろ。もし、俺が奴を打ち倒せた時、運が良ければ帰って来る。そのくらいの気持ちでいた方がいい」

「くっ……」


 優はどうにも出来ない自分が腹立たしかった。しかし、彼は確かに「俺が奴を打ち倒せた時」と言った。


「あなたが……戦ってくれるんですか?」

「ああ。俺は奴を追ってこの星に来た。このまま戻る訳にはいかない。だから、後は俺に任せるんだ」

「俺にも……何か手伝えませんか」

 優の切なる思いだった。だが、相手は両腕でバツ印を作り

「ダメだ。気持ちはわからんでもないが、お前ではどうにもならない」

 と言うと、軽く優の両肩を叩いて背を向けた。


「待って……」

 優は追いすがろうとしたが、

「さらばだ」


 彼は振り返る事無く、高速で飛んで行ってしまった。銀の光は放っておらず、あっという間に姿は見えなくなった。


 それから優は失意のまま歩いた。1時間以上は歩いたと思うが、疲れて何も考えられなかった。というより、何も考えたくなかった。あまりに色々な事が起こり過ぎて、自分の中で整理も出来なかったし、考えれば嫌な気分に陥りそうで、ただひたすら無心で歩く事だけに集中した。


 そのまま同じ市内に住む叔父の家へ向かった。父の兄であり、優は子供の頃からよく相手をしてもらい、親戚では最も頼りになる者だった。叔父は突然の訪問に驚いていたが、深夜にもかかわらず、快く迎えてくれた。優は真実を話して泣き出したい気分でもあったが、ここは堪えてK山で遭難したという脚色した話を伝えた。


「とにかくまずは警察に連絡だ」


 叔父はそう言うと、すぐに警察に電話をした。とんとん拍子に話が進み、K山へ捜索隊が出る事になった。そのまま叔父の車に乗って、最寄りの警察署にも出向いた。その流れで、優が山中で警察に電話したのも明らかになり、色々と尋ねられた。


「君は襲われている、と言ったようだが、何があったんだね」

「父母とはぐれた後、野生の動物に襲われました。それで救助を依頼したんです」


 その時はまだ母もいたが、警察も怪物に惨殺されている事から死人に口なしと思い、優は嘘を吐いた。また、宇宙からの侵略者が来たなどと話しても、頭がおかしいと思われそうで、とても口には出来なかった。そもそも警察でどうにかなる相手ではないのは、目の前で見て思い知っている。


 しばらく取り調べのように尋ねられたが、話せる範囲で伝えると、納得したのか「君も疲れているだろうから」とこの日は解放された。


 その後も警察から捜索の結果を聞きつつ、何度か事情聴取されたが、嘘を疑われる事なく、また、宇宙人の侵略などという話に及ぶ事なく、いつしか話を聞かれる事もなくなった。K山の事故は山火事という扱いになったようだった。確かにウォーグの熱で岩が溶けたりしたのも事実で、山火事のように思えなくもない。優は無難な落ち着き方だと思った。新聞にも『K山で遭難、大学教授と妻が行方不明』と報道されたし、捜索隊も山火事の跡を見つけただけでUFOの痕跡は発見出来なかった。


 優はしばらく叔父夫婦が面倒を見てくれる事になった。高校卒業までは住まわせてくれて食事や親代わりをしてもらった。N工業大に入ると共に、自宅に戻り、一人で自活するようになったのだった。幸い親の財産で、受験も生活もどうにかなった。


 その間、先日の第一の殺人まで、ウォーグ達が姿を現わす事はなかった。優はあの日以来、奴らに通用するだけの戦力を整え、自己鍛錬を重ねて来た。その成果がパワードスーツであり、戦闘術であった。


 スーツは一から研究して、どうやったら筋力を高め、五感や反応速度を高められるかを突き詰めていった。また、ウォーグの高熱爆破を見て、スーツには耐熱・耐火はもちろん、耐冷・温度調節を備えた。最初は出力が強過ぎたり弱過ぎたりで身体を慣らすのさえ厳しかったが、何度もデータを取って、着用して動作する事が可能になった。そして、咲が襲われたあの日、最初の戦いに身を投じる事となったのだった。


 また、優は剣道・柔道・空手など、あらゆる武道の稽古に励んだ。元々それぞれ初段クラスの実力はあり、あの日以降は怪物と戦う為、より実践的なスタイルで各種を極めんとした。大会などでもほぼ入賞クラスの実力で、優勝するような者とも遜色はなかった。柔道や剣道などは、県外の大学からスポーツ推薦の話があった程だ。


 それもこれも全てはウォーグと戦う為だ。銀の怪人にああは言われたものの、何としても自力で両親を取り戻したかったし、奴をこの星に残してしまった責任を取りたかった。優はその為にこの数年間を費やしてきたのだった。



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