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第4話『忌まわしき過去』⑤

 母が犠牲になった為、追手は一体か二体になった筈だが、ずっと迫り来る足音が聞こえる。大して距離も空いてなかったので当たり前だ。そして、暗黒の中、何処まで逃げれば良いのかもわからない。母はどうなったのだろう。


 「絶対に諦めない」が信条の優だが、現実離れした悪夢のような展開に心が折れそうになる。前方にも闇が広がり、道がどうなっているかさえ見えない。このまま走っても、下りの岩場に入れば間違いなく転んでしまうだろう。


 その時、空に一つの星が瞬いたように見えた。絶体絶命の危機に陥っている優には、それが何かの希望のように思えた。いや、思いたかったから、その方向を目指して走った。後ろには怪物の息遣いが迫っている。


 もうダメかと思った時、前方に見えていた星が銀色の尾を引いて流れて来た。そして、走り抜けた優のすぐ脇に閃光を発して地面に落ちた。優も怪物もこれには驚いて足を止める。


 輝きの中から、姿を現わしたのは、銀の仮面、銀の装束を纏った怪人だった。闇の中でもそのまばゆい輝きは直視するのが辛い程だったが、この怪人には不思議と恐怖を感じなかった。


 怪人は呆然としている優に、

「ここは任せろ。行け!」

 と日本語で言うと、追って来ていた怪物に向かっていく。そして、目にも止まらぬ速さと凄まじい攻撃力で三つ目の怪物を圧倒する。最後に繰り出した光る拳は怪物の頭を砕き、動きを止めた。頭部を失った怪物の身体は地面に崩れ落ちた。


 逃げろと言われた優だが、あまりの圧倒的な強さに思わず見とれていた。怪人はそれに気付いているのかいないのか、続いてもう一体の爪を尖らせた怪物に向かって行く。


 怪物は鋭利な爪の生えた手を振り回して来るが、戦士は完全に見切っているようで、攻防一体で避ける動作をする事無く攻撃を命中させていた。攻撃を食らった怪物の頭が仰け反る。次の瞬間、銀色の怪人は地を蹴った。そして、下から飛び蹴りを食らわした。銀色の糸が空に伸びて行く。優の目にも怪物の頭が砕かれたのが映り、銀の光が暗黒に曲線を描いた。怪人は宙で反転し、優の隣に着地した。これで追って来た怪物は二体とも絶命した事になる。


 銀の怪人が優に近付いてくる。

「逃げろと言っただろう」

 発せられた言葉はまたしても流暢な日本語だった。ただ、日本人が喋るのとは少し違うイントネーションであった。

「あ、ありがとうございます」

 優は礼を言った。そして、思い出したかのように

「母が……母が僕を逃がして捕まったんです。お願いです。助けてください。貴方の強さなら……」

 と懇願した。戦士は首を振り、

「残念だが、自分が助かっただけでも儲けものだと思うしかないな」

 とにべもない様子だ。


「そんな……。力を貸して下さい」

 優は頭を下げて再度頼んだ。

「助けてやりたいのはやまやまだが、俺にも確約は出来んのだ。君は今ここに来ているのが何者かわかっているのか」

「ウォーグ……ミョルドという星から来た宇宙人だと聞いてます」

「そうだ。奴が何者か知っているのか」

「この星を征服に来たと……」

「そうだ。奴は宇宙の巨悪とも言うべき存在……。この星は標的にされたのだ。俺は奴を追ってここまで来た」

「だったら助けて下さい」

「それが出来るならな。俺も奴と戦って無事に済むかは保証しかねる……」


 優はやっと話の意味が理解出来た。彼は助けないと言っているのではない。ウォーグとの戦いを懸念しているのだ。


「そして早く逃げないからこういう事になる。とりあえず下がっているんだ!」


 彼がそう言うと、上空から何かが降って来た。物凄い風圧のようなものを感じ、優は思わず後退った。


 銀の怪人と優の前に現れたのは、話題となっていたウォーグだった。身体の周りに赤いオーラのようなものが発生していて、最初に見た時以上に強烈な圧を発していた。それを感じ取ってか、銀の怪人は優の前にしっかりと立ちはだかった。


「後ろにいるんだ。絶対近寄るんじゃない。そして、今となっては不用意に逃げるなよ。奴は狙い撃ちしてきかねんからな。そこの木の陰にいるんだ」

 彼は道の脇に立っている大木を指差した。

「は、はい」


 優が木に向かって動くと、

「フンッ」

 ウォーグが指から赤いビームのように輝く閃光を放った。だが、銀の怪人が瞬時に動いて拳で弾き返した。跳ね返った弾は岩を貫通して飛んで行った。


「何という威力だ……」


 怪人が防いでくれなければ、優は即死だっただろう。何とか大木まで辿り着いたが、岩を貫くような攻撃の前では決して安全地帯ではない。


「$%‘#!?>¥」

「¥~$?*」


 翻訳出来ない言葉で両者が言葉を交わしている。結構強い口調なので、言い争っているのは間違いない。幾らか言い合った後、ウォーグが笑った。


 それが合図だったかのように両者が激突した。二人は当たっては離れ、ぶつかる度に銀と赤の光が煌めく。暗闇という事もあるが、あまりの速さに武道を嗜んでいる優の目でも追い切れない。花火のように銀と赤の光がぶつかっては離れる様を見ている他なかった。


 数分その状態が続いたが、一段と赤い輝きが増したかと思うと、ついに銀の怪人が上空から地面に叩きつけられた。そして、宙に浮いているウォーグは、指からの赤いビームを乱れ撃ちする。狙いは銀の怪人のようで優の所までは飛んで来なかったが、何発も発射された赤い閃光弾は岩のように貫通はしないものの、確実に命中しているようだった。だが、


「ムァァッツ」


 そんな響きの叫びが聞こえたと思うと、銀の怪人は一層身体を輝かせ、地面を蹴り上げて下から上へ伸びる飛び蹴りを放った。この間、ウォーグから放たれたビームは銀の光に弾かれた。銀色の光の塊はそのままウォーグに激突し、赤い光を飲み込んで遥か暗黒の空まで伸びて行った。そして、流れ星の如く黒い空から銀の光を引いて、怪人は着地した。


 程なくして赤い流れ星も落ちてきて、地面に落下した。ウォーグだ。強烈なキックで天高く打ち上げられ、落下したものと思われる。よろよろと立ち上がったウォーグだが、まだ力は残っているようだ。


「ガァァァッ!」


 猛獣が唸るような声を揚げると、赤いオーラが一層増したように見えた。その様子を木の陰で見ながら、優は額から汗が流れたのを感じた。急に辺りの気温が上がったようで、異様に暑い。


 それは気のせいではなかった。ウォーグの赤いオーラが熱を発しているのだった。その熱は奴の足元の大地を溶かす程だ。優の目にも、奴の赤い光に照らされて足元の岩や土がどろどろに溶けているのが見えた。一体どのくらいの温度になっているのか想像出来ないが、惑星ミョルドの極端な温度下で奴らが生存出来ている事を考えると、おかしな話ではないのかも知れない。


「グウォワーッツ」


 ウォーグはもう一度叫びを揚げると、自身の周りの赤いエネルギーを右手に凝縮して、野球の投手のように放った。その大きさは2メートル四方くらいで球形をしており、かなりのスピードが乗っていた。狙いは銀の怪人、いや、その直線上には優がいる。速度からして怪人が避けた場合、優が避けるのは無理だろう。


「ムウッ」


 それを知ってか、銀の怪人は身を挺して赤いエネルギー弾を受け止めた。エネルギーの塊が破裂する。爆発のような赤い光が発生し、怪人の身体を飲み込んだ。優のいる辺りまで爆風と熱が届き、彼は身体を浮かされて尻餅を突かされた。果たして銀の怪人の安否は……?


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