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第4話『忌まわしき過去』③

 頂上へ着く頃には夕方になっていた。三人が辿り着いた時の天候は薄曇りであった。高所の為か、蒸し暑さはなく、ややひんやりとした風が吹いて気持ち良いくらいだった。時間も時間だし、辺りには誰もいない。今から下山しても暗くなりそうで、優は少し不安を感じた。


「本当にこんな所に宇宙人が来るの?」


 優は尋ねた。空から来る相手との会見が高い所というのは理解出来なくもないが、あまりに普通過ぎる場所で信じ難かったのだ。


「約束した地点はここだ」


 そう答える父の表情は固かった。前代未聞の事態を迎えようとして、珍しく緊張しているのかも知れなかった。


 それから三人はしばらく黙って空を見上げていた。曇天のせいもあってか、空の色は灰色が濃くなり黒に近くなっていった。


「時間、間違えているのかも……」


 母がそう呟いた時だった。暗灰色の天上に、星のような煌めきが一つまたたいたかと思うと、それが流れ星のように光の糸を引いて、優達の近くへ落ちて来た。


「き、来た!」


 父が叫んだ。光の物体は優達から30メートル程離れた平地に着地した。大きさは3メートル四方くらいで、UFOと言うには少し語弊がある感じで、光の繭のような形状をしていた。もっともUFOの定義などあってないようなものなので、これがUFOだと言われればそうなのかも知れない。


 着地した発光物体から人間、いや、明らかに地球上の人間ではない怪人が姿を現した。二メートル近い高身長に銀色の肌、頭に一角獣のような角を持ち、人間で言う白目は黄色く光り、黒目は青かった。肩や肘、膝からも棘のように角状の物体が生え、全く別の生物がやって来た事を実感させた。何処となく威圧感もあり、優は自然と後退りしていた。


 その怪人が近付いて来る。父が真っ先に歩を進めて近寄った。


「ウォーグさん、ようこそ地球に」

 父が歓迎の言葉を述べると、怪人は

「サコガワ?」

 と外国人のような発音で確認してきた。そして、優には解読出来ない、おそらく相手側の言語で何やら言葉を交わすと、二人は握手した。


「シェイクハンド、友好の印」

 父が日本語で説明すると、「アクシュ……だったかな」とウォーグは返す。

「凄い! よくご存じで」

「キミの送ってくれた資料で大体は理解した」

「アレだけで? 日本語の上手さといい、とんでもない理解力です」

 父は驚いていたのだが、その後に奴が言った言葉に、優も驚かされる事になる。

「これから我々のモノになる星の文化だ。把握するのは当然の事……」


 優はおかしな発言だと思ったが、それを口にする事は出来なかった。ちらりと父の顔を見ると、彼もそれをわかっているのか表情が強張っていた。


「サコガワ%$’$#!?*……」


 ウォーグが自分達の言語で何か言うと、父は黙って彼に付いて行く。その時、父は確かにぼそりと「優、好美、すまん……」言った。優はその後ろ姿を黙って見ているしかなかった。ウォーグは父を光る物体の中に入れると、二人の前に戻って来た。


「さて……」


 確かに日本語でそう言うと、上から見下ろすような顔付きで優と母の顔をじっくりと眺めてきた。


「父さん……、父は?」


 優は思わず尋ねた。先程の父の様子もおかしかったし、ウォーグが何を考えているのかよくわからなかったからだ。ウォーグは笑みを浮かべたようだったが、信じられない一言を告げた。


「お前の父はこの星を売った」

「星を……売った? どういう意味です?」

「お前の父は相当宇宙への探求心が強いようだ。この星の情報と引き換えに、我々の技術・知識を伝授する約束を交わしたのだ」

「父さんが……。しかし、星を売るとは穏やかじゃない」

「はっきりは伝えていないが、薄々感付いていた事だろう。我がこの星を征服しに来た事をな。わかっていて、我々に加担した。すなわちこの星を売り渡した事になろう」


 ウォーグは胸を突き出して高笑いした。その声はこの世のものとは思われない不協和音のようで耳を塞ぎたくなった。


「待って下さい。貴方はこの星を侵略に来たのですか」


 優は混乱しつつも尋ねた。目の前の怪人が恐ろしくて仕方がなかったが、ここは聞かない訳にはいかなかった。


「何度も言っている。その通りだ。さあて、お前達はどうする? これを知った以上、選択肢は二つだ。父と同じく我らと行動を共にするか、さもなくばここで死ぬか」


 優は平然と言い放つウォーグに圧倒されていた。足は震え、身動きも出来そうにない。


「母さん……」


 恐怖のあまり、思わず母を見た。母も震えていた。しかし、ゆっくりと優の脇へ歩みを進めてきて、口を開いた。


「私は信じません。主人がそんな事をする筈がありません」

 凛とした表情でそう言った。


「ほう。我を前にしてそんな言葉を吐くとは、なかなか肝が据わっているな」

 ウォーグの青い目が優と母を凝視してくる。

「少し時間をやろう。今すぐに死ねと言うのも酷だからな。よく二人で相談するがいい。ただし、逃げたら殺す!」


 ウォーグはそう言うと、一度背を向けてUFOへ戻って行った。


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