第3話『銀の戦士』⑥
優は正面から飛び掛かった。全力で右の拳を繰り出すが、簡単に受け止められた。そのままパンチの連打にキックも混ぜた攻撃を浴びせたが、全て弾かれ、一撃も相手に届かなかった。
「この程度か」
「まだまだぁ」
優は攻撃を続けるが、このままでは通用しないのも理解していた。そこで、相手が余裕を持って受けている今、一手を講じた。
「マッハキック!」
突然、間に挟むキックを、瞬時にパワー・スピードを増幅させる必殺のマッハキックに切り替えたのだ。ハイキックが倍速以上のスピードで戦士に叩き付けられると、相手のガードを蹴散らし、顔面に炸裂した。ただ、戦士は微動だにせず、吹っ飛びもしなかった。
「……やるな」
戦士はそう呟くと、攻勢に転じた。優と同じようにパンチとキックを乱れ打ちしてくる。ただ、優と違うのは、その全てが的確に優の顔面や身体に命中している事だ。ガードしても弾かれ、かわそうにも追尾して当ててくるような攻撃で、優は次々に食らってしまった。しかも、速度・威力共に結構なもので、なす術がなかった。
「くっ」
優は何とか後転して敵の攻撃を外し、「フラッシュ!」と叫ぶと、強烈な閃光を放った。最初の怪物を倒した際にも使った目くらましだ。そして、相手が一瞬怯んだのを確認すると、飛び上がり、空中からのマッハキックを放った。
「これで俺に勝てる算段か? 甘い……。覚悟しろっ!」
目は見えているのか、戦士はさっと身構えると、先程カメレオン型に放ったような下からの飛び蹴りを発射した。銀色の閃光が宙に伸びて行き、キック同士がぶつかり合う。空中で破裂するような衝撃が起こった。
「ぐあっ……」
撃墜されたのは優の方だった。怪物のように粉砕はされなかったものの、激突した右脚から全身に強烈な痛みが走り、地上に落下した。遅れて、宙で銀の弧を描いた戦士も脇に着地した。
「手加減はした……。これでわかっただろう。もう手を出さない事だ」
戦士は倒れている優を見下ろしながら言い放った。優は何とか起き上がろうと身体を動かすが、全身が痺れており、上手くいかない。
「ぜ……ったいに……諦め……ない」
いつものセリフを口にはするものの、身体がついてこなかった。
「その強い意志だけは認めよう。だが、意志に強さが伴わなくては戦えない」
「待って……くれ……俺は……」
優は相手の足を掴み、追いすがろうとするが、
「時間がない。そろそろ警察とやらも来るだろうから、ずらからせてもらうぞ」
戦士はそう言うと、優の首筋に一撃を当て、意識を刈り取った。そして、気絶した彼を肩に担いでその場を離れたのだった。