第3話『銀の戦士』④
優は変身し、暴れている怪物の一体へマッハパンチを放った。
しかし、その頭蓋は鋼鉄のような堅さを誇り、パンチを撥ねつけた。むしろ打った優の拳の方が傷んだかも知れない。昨日の負傷も癒えていない為、無駄なダメージを負ってしまった。
今の一撃で怪物たちの注意が完全にこちらへ向いた。優が攻撃した方が岩の塊のような怪物、もう一体は舌を伸ばしたカメレオンのような怪物だった。どちらも全身が黒く、昨日倒した怪物と同じような皮膚をしている。
優は瞬時に判断し、カメレオン型に向かった。岩石型の硬さを考えると倒すのは容易でないし、動きも鈍そうだったからだ。背後の動きはマスクの性能で追える。岩石型に動きがあっても感知して避ける事は不可能ではない筈だ。
優はカメレオン型に飛び蹴りを見舞う。だが、相手は四つん這いになってこれを避け、ちょうどカメレオンが虫を捕食する時のように舌を伸ばしてきた。これが優の右腕に巻き付き締め付けてくる。結構な締め付けで、骨ごと砕きかねない強さだ。
「うおっ」
舌が急に引き付けてきて優の体は宙に舞った。そして、舌が右腕に巻き付いたまま、3メートル程の高さから、叩きつけられた。
「ぐあっ……」
何とか受け身は取ったものの、相応のダメージはあるし、こんな攻撃を繰り返されたら身体がもたない。再度の引っ張りを感じた優は、踏ん張って持ち上げられるのを防いだ。相手の舌を綱にしての綱引き状態で、気が抜けない。
その間に岩石型の怪物が迫って来る。スピードはないが、ラグビーの大型選手のように突進してきて剛腕を振り回してきた。こんな一撃を食らったらひとたまりもない。優はカウンターで相手の顔面にハイキックを決めた。
「ぐうっ」
だが、先程のマッハパンチ同様、硬質の身体に脚の方が跳ね飛ばされた。その勢いで、またもカメレオン型の舌に引っ張られ、中空から叩き付けられた。今度は右肩を激しく打ってしまった。衝撃で舌も外れたものの、元々痛めていた箇所だけにダメージは大きい。
「なかなかに二体相手というのは厳しいな……」
さすがの優も弱音を吐きかけるが、
「だが、俺は……絶対に諦めない!」
いつもの言葉を思い起こし、再びカメレオン型へ向かっていく。伸びてくる舌を腕で弾き、距離を詰める。しかし、脇から岩石型のパンチが襲い来る。マスクで感知した優は、咄嗟にジャンプしてそれをかわし、攻撃ではなく、岩石型の頭を踏み台にしてカメレオン型へ飛び蹴りを食らわせた。これは見事に顔面に命中し、相手を吹っ飛ばした。
「次はお前だ」
優は残った岩石型に狙いを定める。ここまでの攻防で打撃が効かないのは理解した。ここで優が取った方法は投げだ。相手の突進を呼び込んで、一本背負いで投げ飛ばした。マスクのサーチ推定では300kgとかなりの重量だったが、スーツの性能とテコの要領で難なく投げる事に成功した。
「どうだ!」
ようやく攻勢に転じ、意気上がる優であったが、敵は二匹ともまだピンピンとしていた。やはりマッハ系の技でも決めない限りは、奴らを活動不能にする事は出来ないようだ。
優は身構えた。ひとまず岩石型へ致命傷を与えるのが難しいとなると、まずはカメレオン型を倒すしかない。しかし、二体はゆっくりと並んで向かって来る。優はカメレオン型へ向かって行こうとするが、まさかの事態が起こった。
「ぐあっ……」
飛び掛かろうとしたところへ岩石型が、自らの身体から複数の岩石弾を放って来たのだ。不規則な無数の弾丸が襲い来る。マスクの演算機能で距離や速さの把握は可能だが、スーツの力を借りてもそれを避ける為の身体能力が伴わない。優は避け損なって一部を食らってしまった。そして、カメレオン型もこの機を逃さなかった、奴は再度舌をのばして、今度は腕ではなく、優の身体全体を縛り上げた。
「ぐううっ……」
縛り付けられて動けない優に、岩石型の破壊力抜群のパンチが炸裂する。ボディに一撃入れられて、優は身体が砕けるかと思った。かろうじて大丈夫なのは、スーツの防御性能のお陰だろう。それでも何発も食らってはいけない攻撃だ。
岩石型は一度後退して、助走して突っ込んでくる。次の一撃を食らったら命も危ういかも知れない。
「ちくしょう……、絶対に諦めねえぞ」
その意気込みとは裏腹に打つ手はない。しかし、今にも岩石パンチが顔面に振り下ろされるという瞬間、閃光が優の目の前を走った。
「な、何だ」
優の目前で岩石型は吹っ飛んでいた。そして、カメレオン型も舌を切られ、呻き声を揚げている。これで優の身体は自由になった。
「あ、あんたは……」
優の目の前に銀色の輝きが広がっていた。それは全身が銀色に包まれた新たな仮面の戦士から発せられる光だった。突如出現したこの銀色の戦士が、二体の怪物を吹っ飛ばしたのだ。