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第3話『銀の戦士』②

 バスに揺られ大学に着くと、二人は駐車場へ向かった。昨日の今日でどんな様子か探りたかった為だ。予想通り、警察のほか、野次馬とマスコミが群がっていた。大学の事務職員も出ていて、声を張り上げて学生に寄り付かないよう指導しているようだった。


 現場に近付こうと歩みを進めていた時、駐車場から戻って来る学長の速水とすれ違った。彼は警察やマスコミの対応に追われたのか、渋い顔をしていた。


「お、事件現場を見に来たのかね。あんまり近付かれても困るんだがな……」

「お疲れ様です。昨日はありがとうございました」


 優は頭を下げた。咲もそれに合わせて同じ仕草をした。


「ここ数日の事件には本当に参ったよ。もっと防犯体制を強化しないとかもなあ」

「お察しします」

「それにしても、車が溶けるなんて前代未聞の異常事態だよ。工学部生だけに、化学兵器でも使ったのか……」

「そんなに酷い様子だったんですか。テレビで観た程度ではよくわかりませんでしたが」


 優は嘘を吐いた。まさか見たとは言えないし、話を繕っておけば大丈夫だと判断しての事だ。しかし、速水は

「ふうむ。君もここの駐車場利用者じゃなかったかね」

 と優を怪しむような顔付きをした。予想外の反応に、優もこれには虚を突かれた。


「き、昨日はバスで通学したもので。で、今朝のニュースを見たらとんでもない騒動だったものですから……」

「そうか。誰か目撃していないかと思ったんだが。最初に発見した学生は、自分の車が大破しており、ビックリしたそうだ」

「大変な事故だったんですね」

「事故なんだか、事件なんだか……。故意にやった可能性の方が高そうだなあ」

 速水は苦々しい顔をして呟く。その時、優の背後から声が掛かった。


「おお、これは良いタイミングでお集まりだ」


 振り返って見ると、例の探偵・風間が立っていた。バス停前からもうここまでやって来たのか。


「何だね、君は」

 速水が不機嫌そうな顔をして尋ねる。


「失礼。こういうものです」

 風間は名刺を取り出し、速水に渡した。速水は見て取ると、さっと名刺を上着のポケットにしまい込んだ。

「探偵さんが何の用かね」

「言うまでもなく、昨夜の事件とこれまでの殺人事件のお話を伺いたいといったところです」

 風間は優達に対する態度同様、笑みを浮かべ、速水の品定めでもするかのようにじろじろと見ていた。


「いくらキャンパスがオープンになっているとはいえ、こんな時期に君のような不審な人物に出入りされると困るんだよ。今日のところはお引き取りいただけないかな」


 速水は厳しい口調で言った。彼の言葉の通り、大学のキャンパスは比較的開かれており、食堂や図書館の一般利用を認めている上、近所の老人が犬の散歩やジョギングに使っている実情もある。


「ほう。不審な人物ねえ……」

 言われた風間は、速水の顔を凝視する。まるで速水の方が不審者であるかのような目付きだった。


「君ぃ! 失礼だろう」

 さすがに気になった優が割って入った。風間の正面に立ち、学長から離そうと試みる。

「わかりました。今日のところは学長さんへお話を伺うのは諦めましょう」

 風間は両手を広げて降参のポーズを見せた。


「では、次の約束もあるので失礼するよ」

 速水は表情を緩める事無く、速足で事務棟の方へ去って行った。それを見送ると、風間は優達の前に立ち塞がった。


「さて、学長さんは諦めたが、先程の話だと、あなた方からはお話を伺えるんですかな」

「一体何が聞きたいんです?」

 優は観念した。講義があると言いたいところだったが、こんな風に現場を見に来ているのを押さえられては言い逃れも出来そうにない。


「お二人に聞きたい。殺人事件といい、昨日の事件といい、何か目撃していませんか」

「何も見てません。私は死体を見ただけです。警察にもそう答えてます」

 咲が答えた。


「お二人がこんな風に一緒にいらっしゃるのはそういう関係ですか」

「さっきも答えた通り、ゼミの先輩・後輩という関係でしかない」

「では、何故、迫川さんの家からお二人で出て来られたのです? 夜通し研究内容について語り合っていたとでも?」


 優は衝撃を受けた。風間は既に二人の調査をしていたのだ。


「そんなプライバシーに踏み込むのが探偵さんのお仕事ですか」

 優はこんな風に返すのがやっとであった。風間はまた笑みを浮かべ、

「私の聞きたい事はそんな事じゃありませんよ。ただ、お二人が急接近したのには何か事件と絡む事情があるのではないかとピンときた訳で……」

 と言った。優の腕を咲が掴むのがわかった。この追及に彼女も不安を覚えたのだろう。


「出来れば正直に話して欲しい。ひょっとしたらですが、あなた方は殺人の加害者……、いや加害生物をご存じなんじゃないですか?」

「加害生物? 人間による犯行じゃないと言うのですか」

 優はとぼけて聞き返した。しかし、内心は冷や冷やだ。


「あくまで知らない振りをするんですか……」

 風間はより鋭い目付きになって睨んでくる。幾多の武道の試合で強敵と立ち会ってきた優だが、風間にはそれに勝るとも劣らない迫力があった。

「仕方ない。私の中ではあなた方は間違いなく見ていると確信している。だからお見せしましょう」

 風間はスーツの胸ポケットからスマホを取り出して操作すると、それを見せてきた。

「これは……」


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