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9話:大嘘ストーカー



 朝の日の午前に当たる時間、俗に朝の朝と呼ばれる。朝の日が続く三日間は比較的犯罪者がおとなしい。と言ってもいないわけではない、目立ちたがりだったり、捕まるかどうかのギリギリのリスクを楽しむためだったり、あるいはあまりに健康的な朝型のために、夜に犯罪を行うことが無理だったり。


 しかし、そういった者たちは例外であり少数、しかし、ある意味での油断が、そこには確実にあった。


「油断があると助かる。これが犯罪者の気持ちか」


『まさか、監視カメラを雪夏の家に取り付けるとは、ストーカーと言うんだっけ?』


「家の内部までは映像を取れないから、内部にも仕込みたいところだけど……監視カメラ、俺の要求水準を満たすものだと高いな……」


 朝方、不知は雪夏が登校し、雪夏の母親がそれを見送った後、雪夏の家と周囲を監視するように、隠しカメラを設置した。ブロック塀の隙間に、巧妙に隠した。


 不知はクロムラサキにストーカーとなじられるが、それを無視する。そんなことは百も承知でやればければいけないことだったし、クロムラサキも理解しているはずだと思っていたから。


 理由を理解しているのにも関わらず、言ってくるのは、不知をからかいたかったという理由に他ならず、不知は反応するに値しないと判断した。


 しかし、黒と紫のモヤは首をかしげるように、何度も何度も不知の顔を覗き込むので……


「──っく、俺はストーカーだ!!」


『きゃはは!』


 不知はやけっぱちになって自分がストーカーであると宣言すると、クロムラサキは笑った。それを見て、不知はやれやれとため息をつく。面倒な上位存在ではあるが、不知は意外と悪い気分じゃなかった。


『ズルいなぁ雪夏は、不知にストーカーをやってもらえるものねぇ。私はストーカーをやってもらいたくてもできない、殆ど不知の脳内に住んでいるようなものだし、不知には私の場所が伝わってしまう』


「ストーカーをして欲しいだなんて変わってるな……けどそうだな。確かに俺はお前の存在を感じられる……逆もしかりだろうが……」


『からかってばかりだと、良くないし、お前にお返しをやらないとね。実はお前が寝ている間に、私は情報収集をしてきたんだよ』


(何……?)


 通行人の気配を察知した不知は心の声で、クロムラサキとの会話を続行する。


『不知は聖浄学園で生徒の自衛力を高めようという議論がなされていることに、関心を持っていただろう? だから朝の夜、校舎に誰もいないタイミングでその会議の議事録を見てきた。それで分かったのは、自衛力強化の流れを推進しようとしている人物の名だ。論道香里奈ろんどう かりな、彼女は副学園長で、重要なポストについているがまだ若く、40代。そして彼女の意見に乗っかる形で、学園長を始めとする、他の教員達、そして理事長も彼女の意見に賛同している』


(論道、確か俺が筋ダルマから助けた先輩、あの女生徒も論道という苗字だった。珍しい名だし、血縁者である可能性が高そうだ。調査をする場合、先輩を切り口とするのもありかもな……その会議、論道香里奈の意見に反対をしていた者は?)


『殆どいない、というか反対していたのは一人だけ、男性教員の海凪竜蔵うみなぎ りゅうぞうという者だったかな。確か魔法については分かっていないことが多く、魔法を日常的に使用した子供が通常通りの発達をするかまだ不透明、だからまだ避けるべきだと言っていた。自衛の手段は、魔法以外の所で用意すべきと言っていた』


(なるほど、海凪竜蔵は魔法に否定的な立場の人間か……というか、その感じだと自衛力を高めるっていうのは、生徒に魔法を使わせる、その訓練をするという話だったのか。これでは生徒を守りたいのか、魔法を使えるようにしたいのか分からないな)


『魔法を使わせたい? どういうことだ? そこに何の意図がある』


(魔法という新たな力が、次の時代の中心技術であることは明白だ。そこで聖浄がいち早く魔法の力を活用し、魔法の最先端、ブランドを構築することで、聖浄の影響力を高める。そういった思惑があるのかもしれない……言ってしまえば魔法エリートとでも言うべき者達を学園から輩出するのが目的だ。もしそれに成功すれば、実質的に異七木の軍事、技術、政治に深く食い込むことができるし、派閥形成も可能なはずだ)


『いやいや、流石に考えすぎじゃないか? たかが学び舎がそのようなことを狙うのか?』


(聖浄が普通の学校ならば、俺も考えすぎと思っただろうな。聖浄学園の歴史は浅い、創立から10年程度しか経っていない、だが……今の時点でエリート校扱いされているし、各分野で高い実績をあげている。特進クラスからは難関大学への進学が当然の事となっていた。まぁ、異世界転移で他県の難関大学に行くルートは断たれたわけだが……ともかく、聖浄は高い戦略性を持って運営されてきた。だから、元から聖浄の派閥をエリート層に作ろうとしてるんじゃないかと噂されていた)


『ああ、元からそんな噂があったのか。けれど、お前の言うことが本当なら、聖浄はまるで、国の中枢に入り込もうとしていたみたいだね。そういった野望があるなら、強い思想があってもおかしくはないか』


(異七木が異世界に転移して、元は小さかった権力が、あらゆる場所で肥大化している。元はローカルのしょぼい一局でしかなかった異七木テレビは、この世界の情報を牛耳っているかのように振る舞い始めた。警察と警備隊は、最早軍隊のような立場で、ちょっとした町工場も魔法と組み合わせた技術が使えるなら、まるで大企業かのような扱い……なら聖浄学園はどう肥大化する? もとから野望を持っていた組織なら、どこまで肥大化する……?)



◆◆◆



「ねぇ聞いてよ不知くん! お母さんてば、足引っ掛けてスプリンクラー壊しちゃったんだよ? それで落ち込んじゃって、どうしよーって泣いてうざったくて」


「なんか雪夏はお母さんに対していつもキツイよね。大事なものが壊れてしまったら、誰でも悲しいと思うけどな」


 朝の夕方、全ての授業が終わり、皆が下校を始める時間。筋ダルマの事件があってから、部活や校内への居残りは自粛されている。


 校門前、帰り際に不知と雪夏は話していた。二人は大抵、この場所で別れ、それぞれの帰路につく。帰る方向が違うため、一緒に帰ることはない。


「だってさぁ、いやなんだもん……お母さん、最近わたしに甘えてくるっていうか、子供っぽいっていうか……なんだか私、お母さんにしっかりしろって言われているみたいでさ。お母さんにしっかりして欲しいって思うのは、わたしだって同じなのに……」


(雪夏からすると頼りない感じの母親なのか……そう言えば、俺は雪夏の家族のことを殆ど知らないな。もちろん自宅なんて行ったこともない……これはチャンスかもな)


「まぁ、実際俺達は高校生で、大人になりつつあるんだ。それだけ雪夏もお母さんからみて大人になったってことなんだろう。けど雪夏の悩みも、お母さんの悩みも、解決できるかもしれないな」


「え……? ど、どういうこと?」


「実は俺、スプリンクラーの修理ができるんだ」


「え、えええええええええ!? そんなピンポイントなことどうしてできるの!?」


「まぁ……人しれぬ特技っていうのは、案外あるものだよ。今日は忙しいから無理だけど、後日雪夏の家にお邪魔してもいいかな? 俺がスプリンクラーを直すよ」


「え!? 不知くんがわたしの家に!????」


 雪夏からすれば考えてもみなかった突然の提案、不知が自分の家、自分の部屋に来るかもしれないという可能性……雪夏は混乱した。いや、帰ってすぐに自分の部屋だけでなく、家全体を掃除しなければという考えに囚われる。いや、家とか部屋だけでなく、自分の身も綺麗な状態にしておかなければ、と尋常ではなく焦ってしまう。


 内心ありえないと思いつつも、雪夏は不知と男女の”そういったこと”がありえるかもしれないと、どうしても考えてしまった。雪夏の顔は真っ赤になって、心臓の鼓動は早くなる。


「駄目だったかな?」


「いいよいいよ! 全然いいよ! でもちょっと準備があるから、できれば三日、いや二日ぐらいはまって欲しいな! じゃ、じゃじゃじゃぁ月曜日に! わたし帰るね~、あはははは」


 雪夏は目をぐるぐるさせながら、猛ダッシュで、不知から逃げるように立ち去っていった。


「一体どうしたんだ……? あの焦りよう……もしかして雪夏の家は……尋常じゃないレベルで汚いのか?」


『お前も筋ダルマに家を汚染されてるから人のこと言えないだろう?』


「っく……」


 不知はクロムラサキのツッコミに、悔しそうに息を詰まらせた。


『それにしても不知、お前がスプリンクラーの修理までできたとはなぁ~、お前はなんでもできるねぇ』


「いやできないが」


『え? でも、スプリンクラーを修理するって言ってたじゃないか』


「俺はスプリンクラーの修理の仕方なんて知らないぞ。合法的に、自然な形で雪夏の家に侵入するために嘘をついただけだ。しかし、どうしような……スプリンクラーの修理方法をどこかで学ばないと、嘘つきになってしまう……」


『なってしまうじゃなくて、すでに嘘つきなんじゃないかなそれ……』


 スプリンクラーを修理できる。それは不知が咄嗟についた嘘だった。不知は約束の三日後までに、スプリンクラーの修理方法を習得する必要があった。


『ま、お前ならば可能か。やり方さえ誰かに教えてもらえれば……』





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