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48話:隠者、上位者



「うおおおおおおおあああ!! 物理最強! 物理最強! 物理最強!!」


 ナンゾーとアドミラルアンサーの融合体、ナンゾーアンサーが両手を真っ直ぐに伸ばし、ガイドレールを展開すると、完成したレールの始点で自身の頭部を挟み込む。


 ナンゾーアンサーは大口を開き、口内から金属の欠片を吐き出す。それは魔力と電磁力によって破滅的な物理加速を実現する。物理世界に内包することが不可能な程の圧倒的なパワー、オーバーレールガンは世の理をも崩壊させる──起こる事象は時間の喪失、光りより先に動き、不可知の強撃を殲滅対象へと遂行する。


「──っぐはッ!? ダメージっ……まるで見えん……本当にこれが物理現象なのか? 魔力運動の観察で、対処ができない……強い……ナンゾーアンサー、今まで戦った誰よりも……」


 ナンゾーアンサーのオーバーレールガンは、その弾丸をナイトメア・メルターに直撃させる。ナイトメア・メルターはスーツについた触手を使うことで時間の制約を超えて、完全防御をすることが可能なはずだったが、たった今完全防御ではなくなった。魔力に意思を伝え、その魔力が未来へと送られることで、触手は自立稼働による魔法の防御を行う。しかし、ナンゾーアンサーのオーバーレールガンはそもそも時間という概念を喪失させるために、魔力を未来に送るということが不可能となってしまった。


「褒めても何もでんゾーッ? サーツサツサツサツ! まぁ滅殺した暁には、貴様の墓を立てて、週二日お参りしてやろうッ! どうやら、噛み合っているみたいだなァ、なんとも都合よく、気に入らんなァ!」


「都合がいいのに気に入らないのか? 興味深いな……」


「時が喪失した”ここ”なら、貴様にも分かるはずダァッ! 時がなくとも、運命という因果が、それを紡ぐ意思が介在することをッ! ここにある、上位者の策謀の意思がッ……! ……気に入らん! ワレハイの力だけでは勝てんと、決めつけ、余計なことをッ……! クソがァああああああああああ、死ねええええええええ!!」


 ナンゾーアンサーがオーバーレールガンを構え、何もないはずの空間を”狙った”


 ──フォーーン!


 オーバーレールガンの弾丸がからの隙間に命中する。すると金属の弾丸は粉々に砕け散り、同時に激しいプラズマを発生させた。プラズマは雷のように暴れて、空間に隠れた存在を顕とする。


『──……ッ!? ナゼダ……オマエハ、ショウリ、シタイ、ノデハ、ナイ──ノカ?』


 赤と白の仮面のタイルで出来た機械のような半人半獣の男の幻影が、空間に映し出された。


「──なにっ? あのタイルはまさか……クラックタイルと関係があるのか? そこにいた……? いつから、なぜ今まで見えなかった……?」


「ワレハイも時を失って初めて気づいた所だッ、事象の根幹は意思、目に見える現実は数多ある意思の表現、生み出す結果に過ぎないッ! つまり、極論意思以外は飾りなのだァッ! 飾りは取り繕い、本質を隠す。そして時は、因果を操る意思を隠す、巨大な虚飾だったというわけダッ! ……ッ、ワレハイがドラゴンに異常執着したのは……このカスに誘導されていたという訳かッ……!」


「時間感覚の喪失は、同時にこいつの隠れる場所を奪った、そういうわけか? 時の裏に隠れた介入者……ナンゾーアンサーを勝たせようとしたというのが本当なら……俺を、殺そうとしているのか……?」


『アルーン、オマエハ、ワレラノ、カテトナル、サダメ。ウケイレロ、オマエノ、ダイジナ、スベテガ、キエル、コトニナル、ゾ?』


 仮面の半機半獣の男がナイトメア・メルターの背後の方を向く。


(アルーン? もしかして……クロムラサキのことを言ってるのか?)


『──っッ……!? 痛い、頭がっ……嫌な気持ちが、押し寄せてくるっ……不知、逃げよう……! こいつに関わっちゃ駄目』


 不知にしか見えないクロムラサキの幻影が頭を抱え、地に倒れ込む。苦痛に体を震わせ、泣いていた。その涙は実体を持たず、何も濡らすことはない。ただ虚空に消えゆくだけ、けれど、クロムラサキのその苦しみと悲しみの感覚は、不知へと共有されるものであり、不知にとっては現実と同じだった。


「お前……クロムラサキに何をしたんだッ! こんな苦しい感情を、よくも! 俺の、俺の大切な家族にッ!! 許さん! 消滅させてやるッ!!」


 不知は激昂する。幼かった自身を見守り、孤独から救ってくれたクロムラサキを苦しめ、涙を流させた、仮面の機械獣人の存在が許せない。クロムラサキが戦いを望まなくとも、不知はコレをころし、消滅させなければ気が済まない。


 不知は過去を思い出し、クロムラサキとより深く繋がったからこそ、最早他人事ではない、自分事、それ以上に感じた。


 そうしてクロムラサキと深く繋がった不知の脳裏に、一つのイメージが、記憶が刻み込まれる。


◆◆◆


『あ、ああ、いやああああああ! あつい、あづい、け、けして、もうころし、ころして──』


 クロムラサキの過去の遠い過去の記憶、クロムラサキの目が、実際に見て、感じた記録。


 仮面の機械獣人が機械の杖から黒と青の炎を放出し、拘束されたクロムラサキを焼いている。その炎は消えることはなく、慣れることもない。永遠の苦痛を与える炎は、苦痛へと慣れる、適応するという事象が起きるその瞬間に、それを燃やすからだ。


 その炎は炎自身に呪われている。いつか燃え尽き、消えるという結果を燃やすから、終わりが来ることはない。


「アルーン、お前の力の全ては我々のために消費されるべきものだ。我々の世界はお前の力を前提に成り立っている。だからお前を永遠に閉じ込めなければならない、殺すこともない。そもそも不滅であるお前を殺す方法を、我々は知らない。さて、では今日も貰っていくとしよう、感謝する──我々の糧となってくれることを」


 仮面の機械獣人が鋭い爪でクロムラサキ/アルーンの腹を切り裂き、手を差し込む。機械獣人はそのままアルーンの金属で出来た肋骨を握り、へし折り千切ると、肋骨の一本を金属の箱のようなケースにしまった。


『あ、ああっ、あああああああっ!!?」』


 かつてのアルーンはただの痛みには耐えられるはずだったが、炎がソレを燃やしてしまったために、炎で焼かれる以外の痛みも、アルーンにとって、初めて味わう激痛と同じになる。


 不滅であるアルーンの失われた肋骨は、喪失を埋めるように再生を始める。再生の痛みもまた、慣れることはない。


 黒と青の呪炎は痛みを消すことを許さない。炎がアルーンに許すのは生み出すことだけ、機械獣人の世界を回す燃料を、アルーンに提供させる為に必要な機能だったから。


 そんな苦しみが、一つの文明が興り終焉を迎えるまで続いた。途方もない過去、今へと続くかつての現実。



◆◆◆



 クロムラサキの苦しみが、途方もない情報量で、現実感と共に不知へと共有される。


(クロムラサキ、こんな苦しい思いを、隠していたのか。思い出していたのに、俺に気を使わせたくないから? 馬鹿な、お前は俺の家族だ。お前は、お前が俺の側に居てやっていると思っているのかも知れないが、そんなのはお門違いだ。俺はな、俺だって、お前と出会ったあの時から、俺がお前の側に居てやる。寂しい思いはさせたくない、そう思ってお前の側にいるんだッ!)


『っ、不知……でもこれは、私の痛みで──』


「──黙ってろ、痛みを共に背負う覚悟ならとっくに出来てんだよ。全然気楽だね、だって──独りじゃないから」


『う、うう、不知……この子は本当に……いい子で、生意気だよ……』


 不知は倒れ込んだクロムラサキの手を両手で優しく、握りしめた。クロムラサキの震えは止まって、再び立ち上がる。


 するとクロムラサキのもやが薄れ、かつての彼女の姿の一部を取り戻した。銀色の金属の手。


『──不知、お前に力を』


 銀の手から金と銀の光りが帯のように伸びて、ナイトメア・メルターのスーツへと、不知へと浸透していく。


 ナイトメア・メルターの黒と紫のスーツに黄金の光のラインが浮かび上がる。鼓動と共にそれは光を発し、不知の心にそっと寄り添った。クロムラサキの凄惨な過去の記憶を見て、憎悪の感情で動こうとした不知の心を人に留まらせた。


 その黄金のラインは、クロムラサキが不知の幸福の未来を思う、純粋な願いで出来ていた。憎悪に支配され、人をやめて欲しくない。クロムラサキのそんな願いは、不知へと純粋に突き刺さる。無視なんてできるわけもない程に、強く、切実な願いだった。


「おいレールガン野郎。こいつはお前にとっても敵、それでいいんだよな? だったら俺達の戦いの前に、共闘と行かないか? 俺はこいつが気に食わない、こいつの思い通りにさせたくない」


「共闘? ほう、中々に面白い提案ダッ! いいだろうッ! その話乗ってやるッ! だが、こいつはどう見ても幻影だ、どうやって倒すつもりなんだァッ!?」


「力を使う。さっき貰って、初めて使うモノだがな!」


 ナイトメア・メルターに新たに刻まれた黄金のラインが光り輝き、黄金の魔力は溢れる。それは黄金のオーラとなって、ナイトメア・メルターの新たな力を現象する。


「──【最終闘争・シルバークレイン・リアライゼーション】──!!」



 ナイトメア・メルターの黄金のオーラが解き放たれ、時を失った空間を奔る。


 ──光りが、幻影を具象する。現実化/物質化が仮面の機械獣人をナイトメア・メルターと同じ土俵セカイに引きずり降ろす。


「──これで触れられるなっ!」


 ──ガオオオオオオオオン!! ナイトメア・メルターの強烈な左ストレートが物質化した機械獣人の顎を撃ち抜く。


「ッグ、ッガッ!? カンショウ、サレタ、ダト?」


 ナイトメア・メルターに殴られ、地へと転がされた仮面の機械獣人はナイトメア・メルターを見上げた。


「サーツサツサツサツ! 物理ダメージが通るのカッ! 物理最強のワレハイが居たら勝ち確定ダナァッ! 見てたんだろう? 薄汚いチキン野郎ッ! こいつの威力が分かるだろうッ!? なァ!?」


 ナンゾーアンサーが両手を、オーバーレールガンを構える。仮面の機械獣人はその威力を知っている。恐怖が機械獣人の体、肉の体を駆け巡る。震えという生きた実感は、不都合な現実を魂へと理解させる。


「──ヤ、ヤメロ! ワレワレハ、オマエノ、ミカ──」


「うるせぇッ! 死ねエエエエエエエエエエァ!!!」


 ──フォーーーン! ズギャアアアアアン!!


 金属の礫が無慈悲を与える。上位存在としての力、非物質的な力を全て、現実、物質化へと落とされた仮面の機械獣人は、魔法の力によってそれを防ぐことは叶わない。


 礫は機械獣人を穿つ。その体を開き、臓物を解き放つ。


 かつてこの者がクロムラサキ/アルーンから奪い、自身へと組み込んだパーツが解き放たれる。


「グアアアアアアア!!?」


 二つの絶望が、仮面の機械獣人を見下ろしていた。




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