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37話:マフィアの魔術師



「逃げろ、逃げろ逃げろ!! 立ち向かおうとするな!」


 海凪の大声が聖浄学園の校舎に響き渡る。生徒たちは完全にパニック状態で、海凪の声が理解できていない。


 緊急時の避難訓練は全生徒が受けていた。けれど間近に迫る濃厚な死の圧迫感は、生徒達の訓練で得た記憶を忘却させる。


 マフィアが異特隊から逃げるための進路に聖浄学園が存在した。それだけの理由で、マフィアは聖浄学園の外壁を魔法を使って破壊、内部に侵入すると生徒達を人質として使うために襲った。


 マフィアが聖浄の外壁を壊すために使った魔法は爆炎と金属の棘の魔法で、それらの魔法は相乗効果で威力を著しく向上させた。


 それはまるで魔法がなかった世界のクラスター爆弾のようで、最初の一撃で12名の生徒が即死した。全身を金属の棘が貫通し、穴だらけとなって、瓦礫に押しつぶされた。


 ともかく、マフィアは奇襲を成功させて生徒たちの数人を一瞬のうちに人質とした。するとマフィアを追ってきた異特隊の動きは鈍化した。


「はははは! あたし達の関係者は容赦なく殺せても、関係ない、なんの罪のない子供は犠牲にできないわよねぇ!!」


 ピンク髪の筋骨隆々の男が異特隊の大隊長、オドロマに吠える。


「無駄な犠牲は出さない。しかし、お前達がその子達に手を出した瞬間、お前達の命運は尽きると知れ」


 オドロマにはなんの表情の変化もない。至って冷静で、いかにこのマフィア共を殺すか、それしか考えていないようだった。やるといったらやる、オドロマの纏うそんな説得力が、マフィアを動きづらくした。


「あんた達、ここであいつらを見張ってな、あたしは人質の一部を連れて籠城の準備をするから」


「ナルヴァーン様! 分かりました! やつらが少しでも不審な動きをしたらこっちの人質を使います」


 マフィアのオカマ口調の男、ナルヴァーンが人質を連れて行く様を、オドロマは黙って見守るしかない。ナルヴァーンは聖浄の体育館を制圧、そこで陣の構築を始めた。


「大隊長! やつら、おかしいですよ! ただのマフィアとは思えません……まるで傭兵か軍人のような……」


「確かに手際がいいようだ。もしかすると本当に元傭兵や元軍人かもしれんな……これでは他のマフィア達が敗北し吸収されるわけだ……だがなんだ? やつらの入れ墨は……みな腕に植物の葉か?」


 オドロマ達異特隊は聖浄の体育館を要塞化する様子を外から見守っていた。


「なんでしょうねあれ……なんとなく南国っぽい感じがしますけど……ライン引きを使って……何か文様、まさか……」


「間違いない、魔術だな。我々やこの世界のモノとは違った形式のようだ……まずいな、お前達今すぐに体育館を攻撃、破壊しろ!! 魔術を発動させるな!!」


「し、しかし大隊長! あそこには人質が!!」


「良いからやれ!! 私が対処する!!」


 異特隊の精鋭達は魔力強化されたグレネードを体育館に打ち込む。そんなことをすれば確実に人質を殺傷する結果となるが、オドロマの命令は体育館の破壊、彼らがそれを可能とする手段は、人質を巻き込むグレネードの使用しかなかった。


 人質の犠牲を良しとする、そんな選択に見える──だが、オドロマにそのような考えはない。


「ぐおおおおおおおおおお!!」


 オドロマは異特隊が放ったグレネードが体育館へと到達するその前に、体育館へと突っ込み、固有魔法を発動させる。


 ──固有魔法【サクリファイス・アグリゲーション】その魔法は影響下にある存在の受けるあらゆるダメージを、魔法使用者が代わりに受けるというものだった。


 体育館に存在する生徒たち45人が受ける魔力強化グレネードによる爆発の衝撃の全てを、オドロマ一人が受け止める。


「ぐああああああああああッ!!」


 オドロマの全身に亀裂のようなヒビが入り、そのヒビから大量の出血をする。ダメージを受け止めた反動だ。


 だがオドロマは全身から血を流しながらも止まることはない。そのまま前身を続け、逃走マフィアの指揮官であるナルヴァーンに拳を叩きつける。


「っぐ!? なかなか具合のいいパンチじゃない!! けどねぇ、あんたらもう手遅れなのよォ!! 魔術はもう、発動してるんだから!!」


 オドロマに殴られ、地を転がりながらナルヴァーンが床の文様、石灰で引かれた魔法陣に触れる。


 ナルヴァーンが魔法陣に触れた瞬間、魔法陣は赤黒い光を解き放ち、赤い魔力がベールのように薄く空間を満たしていく。すると、体育館だけでなく周囲の地面、床がうねり出し、腐敗臭を放つ赤い土塊へと変貌する。


 赤い土塊は隆起し、ドームを形成していく。オドロマ達異特隊と人質、マフィアを包み込むように。ドームが形成されていけばいくほど、当然、脱出のための穴も小さくなっていく。


「大隊長! このままでは脱出できなくなります!! 早くここから逃げなければ手遅れに──」


 オドロマの部下の一人が大声で叫ぶ、彼は本能で理解していた。ナルヴァーンが展開したこの魔術の中にあれば、自分たちはきっと死ぬだろうと。魔術で生まれた腐敗臭を放つ赤き土塊が、異特隊の者達の体を徐々に侵食し、腐らせているから。そうであればと、ナルヴァーンの殺害を一旦諦め、ドームから脱出した後、態勢を整えるべきだと、叫んだオドロマの部下は考えたのだ。


「──退路などなぁああああああいい!! ウオオオオオオアア!!!」


 オドロマは腐った土塊で出来た地面を蹴り上げ、まだ塞がっていなかった脱出経路を自らの手、足で塞いでしまった。


「だ、大隊長!!! な、なんということを!! これでは我々が生き残ることは……」


「黙れ、確かにこの土塊は……我々の肉体を腐敗させ、力を奪うようだが、あの脱出経路は罠だとなぜわからん!! 馬鹿共がッ! 敵は逃げようと背を向けるお前達を、狙っているのだ!! 臆病風に吹かれおって……貴様、私が脱出を命令せずとも、自分だけでも生き残ろうと考えたであろう!? そんな者が数人も、精鋭が聞いて呆れるっ!」


「──っ……そ、そんな、勝手に逃げるなんて、あり、ありえませんよ」


「ならば貴様等の足先が穴があった方を向いているのはどう説明する!!」


 オドロマの言う通り異特隊の精鋭のうち5人の足先がオドロマが塞いだ穴の方を向いていた。この5人は、ナルヴァーンの魔術が発動してしまった瞬間に勝利を諦めた者達だった。


「私があの穴を塞がねば、我々の意思は残って戦う者と、逃げ出す者とで二つに別れ、逃げ出す者は確実に敵に殺された。そうなれば、我々は100%敗北していた。だが……穴は塞がれ、貴様らも戦うしか選択肢がなくなったわけだ。だからこそ意思は一つとなり、我々が勝つ可能性が生まれた。これで逃げなくて済む、よかったではないか!」


「へぇ……中々頭が切れるじゃない、大隊長さん? でお頭がいいなら、あんたの言う勝率がとっても低いこと、分かってるんじゃなーいの? ドゥフフフフ」


 頬に手を添え、勝利を確信したナルヴァーンは下品に笑う。


「3%もあれば十分!! 0%と比べれば、どこまでも希望があるではないか!!」


「ドゥアハッハッハッハ!! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!! かわいそー、あんた達の上司って最高に無能ねぇ~……逃げたら一人ぐらいは生き残れたかもしれないのに」


「確率がどんなに低かろうと、そこに道があるのなら!! 人は進んで往ける、絶望を踏み倒し、必ず勝利する! そのために私はここに在る! 目を覚ませ馬鹿共!! 貴様らが受ける全ての死の因果を私が受け止める! 私が倒れぬ限り、お前達は不死身だ!」


「あっ……体が、軽い……? これは、まさか……大隊長!? 我々に能力を!?」


 オドロマがまたも全身から出血し、血溜まりがオドロマの足元にできる。それと同時に異特隊の精鋭達の傷が消え、ナルヴァーンの赤い土塊による腐敗の影響を受けなくなる。


 オドロマは人質だけでなく、異特隊の精鋭達全ての腐敗によるダメージをも肩代わりしていた。


「本当に馬鹿なのねぇ、見た感じダメージを肩代わりしてるのかしら? こんな大勢の人間のダメージを一身に受けるなんて無理に決まってるじゃなぁい……すぐ死んで終わりねーん」


 ナルヴァーンの考えは至極真っ当、そうなるのが当然と言える理屈。だが、異特隊の者達からは怯えと弱気が消えていた。


「だから言っているだろう? 私が倒れたら、部下達も諦めがつく、逆を言えば、私が倒れなければ、部下たちも決して諦めない。私が倒れてから決めればいいだけなんだ、実に単純明快だと思わないかァッ?」


 血走った目で、吐血しながら、オドロマは仁王立ちする。その目には勝利の道筋だけが見えいていた。




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