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34/50

34話:3つのヒント



 ──ペラペラペラペラ。


(なっ……ここからエッチなシーンに繋がるのか!? まさか……葬式で始めてしまうとは……罰当たりな……この人の話は展開が読めないから面白いな)


『あんましその小説を官能的に読めていないようだね……それはそれで不健全な気がするよ』


「あの人本読むの滅茶苦茶早くないか……?」


 千虎の部下は尋常ならざる速度で官能小説を読み進めるナイトメア・メルターこと不知に恐怖を抱く。千虎が目覚めるまでの間に本棚いっぱいの千虎のコレクション達を制覇してしまいそうだったからだ。


 けれど不知はこの官能小説であまり性的な興奮を得ることはできなかった。純粋に物語として楽しんでおり、自分とは思考回路が全く異なる登場人物達を興味深く思っていた。そんな不知でも、視覚情報、絵や動画でない媒体である小説というのは相性がよかったらしく、少しの刺激は得られていた。絵や動画、シチュエーションだけでは不知は達することができない。登場人物の心理描写等が濃くないとまるで乗れない、不知のそんな生態は世の流行とは真逆を行っており、彼の見る世界にはそういった刺激は皆無だった。


「う……か、かゆ、ああああ! かゆ、かゆすぎ!!」


「おお、目が醒めたようだな。思ったよりもかなり早いな……そうなるとこの女はかなりタフだったみたいだ……脳へのダメージが少なかった」


 医療用ベッドに拘束されたビッチ、千虎が目覚め、暴力的な痒みに目をかっぴらいている。


「あ! プラズママン!? ど、これ、どういうこと!? なんでうちは縛られて、か、かゆ、なにこれ! かゆすぎるんだけど!」


「お前はクラックタイルの関係者に魔法を仕込まれていた。その魔法はクラックタイルについての情報が外部へ流出しそうになると自動発動し、対象の体温を上昇させ、脳を高熱で破壊する。それでお前は脳が破壊されて死にかけていたから、俺の持っている万能回復薬で治療を行った。その激しい痒みは薬の副作用で、拘束したのはお前が体を掻きむしって傷ができるのを防ぐためだ。辛いだろうが耐えてもらうしかない……他にお前を生存させることが可能な策が俺にはなかった」


「え……じゃあうちを助けたってこと……? な、なんで……プラズママンてマフィアと敵対してるんじゃ……クラックタイルの情報が欲しいから助けたってことー? あ! ほんとだ……クラックタイルの名前普通に言えちゃう……そういえばなんか……今まではなんかあの変態の名前を言おうとすると謎の躊躇があったのよねぇ……マジだったんだぁ」


「情報が欲しいのもそうだが……どうもここは会話可能な者が多かったからな……そんな者達がお前を案じて涙を流していた。だとすると、お前が単なる悪人ということもないだろうと思った。お前達はクラックタイルと関わっているようだが……一体どういう関係性なんだ? それと……マフィアとしてどういった活動をしているんだ?」


「うち達は元々はマフィアじゃないんよ……なんて言ったらいいんかなー……半グレとも違うし……えっと、社会の除け者集めました! みたいな? 仲間がいないみんなで集まって、助け合って生きてただけなんだけど……なんか徐々に集団が大きくなっちゃって……そしたら外国人マフィアグループの一つと対立しちゃって……それでなんでか勝っちゃったから……そこの縄張りを引き継いじゃった的な……? てか、ちょ! やば、かゆかゆかゆ! 波が来たんですけど!! ちょっと! 誰か麻酔持ってきて!! これ感覚なくすしかないって!!」


「うっす! 持ってきます!!」


 痒みのあまり麻酔を求める千虎、部下たちはすぐにどこからか麻酔を持ってきて、それを使用した。麻酔が効き始めると千虎は落ち着きを取り戻した。


「社会の除け者? それは具体的にはどういった者達の集まりだったんだ?」


「えっとぉ、不倫しすぎて家追い出されちゃったおじさんとかぁ、家庭環境最悪で逃げてきた子とかぁ、鬱病のニートでしょ? あと盗撮で捕まったお医者さんとか、ギャンブルで破産しちゃった人とぉ、ホストに貢ぎすぎて借金したらお家から絶縁されちゃった子、あと親が新興宗教にハマっちゃって反論したら追い出された子とか……まぁ大体は追い出された結果ここにいるんよ。ちなみにうちは婚約者いたんだけど、自分の欲望が抑えられなくなって……浮気エッチしたらお家から追い出されちゃった、てへ」


「なるほど……色んなタイプの家がない者を集めたのか。なんとなく読めたぞ……烏合の衆に過ぎないこの集団をまとめ上げ、敵対マフィアを倒すまでに成長させた存在が千虎、お前ってことだな?」


「そゆこと~! まぁあ? 世間的にはゴミ扱いでも、使える所はあるし、いいところだってあるんよ。だからうちはここを、みんなの最後の家、ラストホームを守るために生きてる。そのためならって、あいつに……クラックタイルに従うことを選んだ……みんなは心配して反対したのに……でもうちはあんな危険なヤツと戦いたくなかった、みんなが死んじゃったら嫌だったから……」


 千虎とその部下、否、ラストホームのファミリー達は表情を暗くする。自分達ではどうしようもない強い悪意の前に、彼らは悪意の尖兵となる選択肢しかなかった。


「ほう? なら悪いことはしたくなかったと……? お前達、具体的にはどこまでやったんだ? 嘘はつくな、正直に答えてもらう」


 千虎は同情を引くような態度をナイトメア・メルターに対して取るが、ナイトメア・メルターには通用しない。ナイトメア・メルターはラストホームの彼らに同情していたが、これはこれそれはそれといった感じで、結局ナイトメア・メルターにとって大事なのは雪夏を守ることだけであり、このラストホームの存在が同情の余地があり、仮に善人ばかりの集団だったとしても、必要であれば皆殺しにする覚悟がナイトメア・メルターにはあった。


「……ゆ、誘拐……若い男の子とか女の子とか……身内がいない子とかで、消えても誰も気にしない……うち達みたいに、弱かった子を……クラックタイルの所に送った……」


「なんだと……? 貴様ら……弱者の味方のような言い方をしておいて、同じ弱者を……ヤツの元へ送っただと!? その者達はどうなる!! そいつらがまともに生きられると思うのか?」


 ナイトメア・メルターは激昂し、千虎の使っていたデスクをプラズマの熱でドロドロに溶かしてしまう。もしもクラックタイルの元へ送られたのが雪夏だったら、その可能性がありえたと考えるだけで、ナイトメア・メルターはラストホームの者達が許せなくなった。


「だってしょうがないじゃん!! 知らない人と知ってる人、どちらかしか守れないなら……! うちは仲間を守るしかありえなかったの!! 嫌だったけど、そうするしかないじゃん……そ、それに……クラックタイルも送った子達を殺さないって、言ってたから……だから……」


「黙れ……その子らはな、死ぬ以上の苦痛を味わうってことだ! 生地獄に囚われたその子らは、お前達を永遠に憎むことだろう! 自覚しろ、お前らは、殺されてもなんの文句も言えない、クズだってことを!!」


「あうっ……」


 ナイトメア・メルターがずかずかと拘束された千虎に近づく、ナイトメア・メルターは明確な殺意を持っていて、ラストホームの者達は千虎を守ろうとナイトメア・メルターに殴りかかったり、魔法を使ったりした。けれどそのどれもが何の意味もなさない。


 ナイトメア・メルターに触れた者はプラズマで焼かれるだけ、力の足りない魔力は逆流してナイトメア・メルターを傷つけようとした者の神経を破壊した。ナイトメア・メルターは無常にも無敵。


 ナイトメア・メルターが千虎の首を掴む、そのまま絞め殺すつもりだった。


「──っ……ごめん、なさい……ごめ……」


 千虎は抵抗しなかった。ナイトメア・メルターに殺されることを受け入れ、ただ泣いていた。己の罪を自覚し、謝罪の言葉を繰り返す。


 その罪悪感、謝罪の向く先はナイトメア・メルターではなく、クラックタイルの元へ送り届けた若者達だった。


「──ッ、泣くほどの心があるなら……お前達はクラックタイルに歯向かって死んだ方がよかった。お前らは……生きることを選んでつもりで、その心を自分で殺しかけたんだ……!」


「──……えっ……? どうし、て……?」


 ナイトメア・メルターの手は千虎の首から離れていた。ナイトメア・メルターは千虎を顔を背け、拳を握りしめている。ナイトメア・メルターの殺意は消えていた。


「選べ、このままクラックタイルに付き従うのか……死ぬとしても、己の魂に従うか……!! 俺はクラックタイルを必ず殺す、お前達がどんな選択をしようともな!」


「千虎様!! 俺達は千虎様が楽しく生きられる方がいいですよ!! 別に死んだっていい! どうせあんたがいなきゃとっくに無かった命なんだよ!! 俺達は!! あんたが笑えないなら、俺達だって笑えない! 楽しくないよ!!」


 ラストホームの者達は千虎が本当に選びたいのがなんなのか、理解していた。


「いいの……? みんな、死んでもいいの? うちは嫌だよ……だけどそっか……生きてても、うちの選択は、うちのことも、みんなのことも呪ってしまうんだ……辛いだけで終わっちゃう……それは良くないよね……けどやっぱり嫌だよ、うちはみんなに死んで欲しくない……──だから、全力でやろう。クラックタイルに、変態野郎に抗って、みんなが生き残る道も全力で考えて、みんなが楽しめる未来を、切り開くんよ!」


「……そうか、千虎、お前の選択はわかった。もう二度と、自分の魂を捨てるな、自分と同じ仲間を、弱き者達を決して見捨てるな、俺はお前を信じることにした」


 ナイトメア・メルターと千虎は和解する。


 クラックタイルの及び知らぬ所で、裏切り者が解き放たれた。猟犬に首輪はあっても、縄はない。その忠誠が消えたその瞬間に、飼い主の首元を狙える。


(筋ダルマもダントウも、傷が癒え、もうすぐ情報が得られる。そして千虎……3つの情報源が、クラックタイル、お前への直通ルートを示すはずだ。やっとだ、やっと殺しに行けるぞ)


 不知の仮面で隠れたその顔は、邪悪な笑みを浮かべていた。復讐を遂げるための道筋が、不知の心を踊らせた。





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