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26話:変態 VS JK



「全く、先生も正気じゃないけれど……警察も本格的に終わっているわね。バカに煽られたからって組織を危険に晒すなんて、とても知性のある人間とは思えないわ」


「き、キクゥウウウウウウウウーーーーーッ!!」


 マフィアのような強面の男が、歓喜と快感で鳴いた。他人からどう見られるか、そんなことは男からすればどうでもよいことがよく分かるほどに、男の顔は蕩け、よだれを盛大に垂らすことを隠さない。


「はぁ? き、気持ち悪……」


「JK、女子高生っていうのはさ、別に特別でもなんでもなかった、若い頃のオレにとってはそうだった。だけどさぁ、子供から大人となり、若者からおっさんへと己が醜く変貌していゆくと……女子高校生の輝きというのは、儚い神話だということに気づくんだ。人は失ってから大切なものに気がつく……かつて持っていた若さというものが持つ、パワー、愚かさ、その全てが瑞々しく、感情を循環させていた!!」


「こ、この人……ガチもんだ……逃げろ論道君!! こんな変態に捕まったら、生き残っても終わりだ! 心を壊されて、トラウマになっちまう!! ここは先生に任せて逃げるんだ!!」


 強面の男のあまりの気色悪さに、海凪は危機感を懐き、朱玲音を逃がそうとする。危険な選択であることはもちろん海凪も分かっていたが、これは海凪なりの責任の取り方でもあった。己のバカな発言のせいで藪蛇そのものになってしまったことを、海凪は本気で後悔、反省していた。


 海凪は性格が悪く、空気が読めないが、倫理観だけはある。いや、この男の場合はありすぎた、命懸けで生徒を守るのは教育者として当然とすら思っていた。その選択に悩みなど一切存在しなかった。


 この選択が悩んだうえでの決断であったなら、それができる者もいるだろう。だが結局、こうした緊急事態で人を助ける者というのは、理屈ではないのだ。


 誰かが危険な時、自分が危険な時、瞬時に自分ではなく人を救うことを選択してしまう人種が存在する。その人種は力がなければ愚か者と呼ばれ、力が伴えばヒーローと呼ばれた。


「おいおい無粋だなせんせぇ? まだ語り途中じゃないかぁ……ともかくぅ……オレは気づいたんだよ。己が若さに憧れた時、男が女子高生を特別視した時、男はおっさんになるんだって。つまりさ、JKの素晴らしさを真に実感できるのはおっさんになってから、全力で楽しめるってことなんだ。オレはちょっと変? なところがあってな、気の強い女に罵倒されて、気持ち悪いって見下されるのが大好きなんだよ。だからそこのJK! お前は最高だよぉ! JKでしかも気が強くて、オレを心の底から拒絶してくれる!! そういうヤツをオレの体液で心も体も穢して、ぶっ壊すのが一番気持ちいいぃヒィイイ!!」


 強面の男が変身、否──変態する。


 男の体表から鱗粉のような白い粉が大量に放出される、それと同時に男の背を貫いて蛾のような大きな羽が出現する。


 男の顔は剥がれ落ちて、球のような頭部が露出する。その頭部の大部分が昆虫のような複眼で構成されていて、口からは長いホースのようなモノが巻かれるようにしてついていた。


「ホースのついた蛾……こいつが象蛾男って呼ばれてるヴィラン……見たまんまね」


「ウヒョオオオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!」


 象蛾男はテンションの高ぶりのまま、肩を大きく揺らし、一歩一歩浮くようにして朱玲音/ラディカル・ミックスに急接近していく。


「っく、危ない!!」


「ちょ! バカ! 庇う必要なんて──」


 急接近する象蛾男からラディカル・ミックスを守るようにして海凪が、象蛾男の前に飛び出て──


 ──ドガァ!


「お前邪魔ァ!!」


 象蛾男の剛腕によって海凪は一撃で大きく吹き飛ばされてしまった。警察署の壁に激突し、そのまま大穴を空けて貫通、戦闘域から排除される。


 象蛾男のフィジカルは逞しい見た目相応に強く、何よりも海凪を吹き飛ばすインパクトの瞬間、魔力的な衝撃波動が目視出来るほどに、象蛾男の魔力は高かった。


 象蛾男は能力を使うまでもなく魔力を込めた身体による攻撃で大抵のヒーローを蹂躙できる。だからこそ──油断がある。


 女子高生が変身したヒーローなど、己の腕力だけで屈服させられると高をくくっていた。


 象蛾男はスキップをするようにして、大げさに跳躍、その勢いのままに拳をラディカル・ミックスへと振り下ろす。


 ──トス。


「え……あ?」


 象蛾男懇親の拳は、ラディカル・ミックスにまるで影響を与えられていない。ダメージ以前の問題、なんの意味もなしていない。象蛾男が起こした現象は、精々クッションが床に落ちるかのような、細やかな音を発生させただけ。


 ラディカル・ミックスの能力、それはダイラタント流体を生み出し、操る能力である。粒子と液体が混ざり合ったそれは、通常時は液体のように振る舞うが、強い衝撃が加わると途端に硬化する。魔力によって生み出された金属粒子と水は、やはり魔力によってその特性を強化されており、ラディカル・ミックスにダメージを与えうる威力の単純な物理攻撃を完全に無効化する。


 理論上、超音速の運動エネルギーミサイルが彼女に直撃したとしても、彼女は全くの無傷である。膨大な運動エネルギーを受け止めた後、そのエネルギーは蒸気として放出され、それすらも攻撃に転用できる。


 と言っても、象蛾男の拳は彼女に蒸気を発生させる程の威力はなかったが。


「単純な物理攻撃でアタシを倒すのは不可能よ。それと攻撃の後はカウンターよね──」


 ラディカル・ミックスの腕に白濁の流体が集まり、それは波打った。波打、振動し、回転、流動する流体の刃となって、象蛾男の腕を削るように切断した。


 ラディカル・ミックスはダイラタント流体の金属粒子濃度を変化させ、金属粒子を水の中で高速循環させることで金属粒子研磨による流体振動ブレードを作り出した。


 この流体振動ブレードもまた、単純な硬いだけの物質では防御することができない。ラディカル・ミックスの扱う金属粒子より対象の硬度が高かったとしても、水と振動による浸透と粒子による研磨は防げない。水か振動か、粒子研磨か、大抵の物質はそのどれかに弱く、一つが有効であれば──状態は崩壊へと移行する。


「ウアアアアアアアアア!?? っく、クソガアアアアア!!」


 ──ブシュ!


 象蛾男は切断された腕の断面を己の握力によって圧着し、応急処置をする。


「舐めてたよぉ……そんなドロドロしたのが、そんな鋭い攻撃をしてくるなんて思わなかった。いや強い……強いねぇ……能力は基本的にお楽しみの時に使いたいんだけどねぇ。戦いで使ってしまうと、お楽しみに使える量が、ね……少なくなってしまうから」


 象蛾男の巻かれていたホースの口が伸びて、鞭のようにしなり、ラディカル・ミックスへと触れる瞬間に動きをピタリと止め、ゆっくりとした動きでラディカル・ミックスのダイラタント流体の装甲に突き刺さる。


 ──ブシャアアアアアアアア!!


「──ッ!? キモすぎでしょうが!!」


 象蛾男はラディカル・ミックスの流体装甲に突き刺したホース状の口から謎の液体を大量に噴出した。


 噴出した液体が流体装甲の水分量を増加させ、その粘度を急速に低下させる。緑色の液体が流体装甲を侵食していく。液体がラディカル・ミックスの本体に触れてしまう、その直前でラディカル・ミックスは流体装甲をパージすることで象蛾男の出した液体との接触を避ける。


 流体装甲をパージした結果、ラディカル・ミックスの元の姿、聖浄学園の制服が露わとなる。流体装甲を展開した影響で制服とシャツは濡れていて、インナーが透けてしまっている。


 濡れて透けた下着姿を見て、象蛾男は興奮を隠せない。


「おお、おほおおおお!! あぁ……そんなにオジサンを誘って、悪い子だぁ……あぁ、出る出る出る!!」


 象蛾男がホースから緑色の液体を勢いよく噴出させ、辺りに撒き散らす。その液体に運悪く当たってしまった汚職警官は──


「あ、ああああああ!? うわあああああああああ!!」


 白目を剥いて痙攣、口から泡を吹いて倒れてしまう。


「神経毒……? ちょっと浴びただけであんな威力……それをあんな大量に生み出せるの……ああぁ、もうなんなのよ!! なんでこうも、アタシと相性悪いヤツとばっかり戦わないといけないの!? 流体を吸い取って来るヤツの次は液体を薄めて汚染してくるヤツ……? しかも変態……マジで……もう最悪!!」


 ラディカル・ミックスの言う流体を吸い取って来るヤツとは、筋ダルマのことだ。筋ダルマは筋肉によるチューブでラディカル・ミックスの流体装甲を吸い取り、剥ぎ取って彼女を打ち負かした。流体の吸引、分離、それがラディカル・ミックスに有効な戦術の一つであり、象蛾男の流体を薄めて濃度を低下させるのもまた有効な戦術の一つだった。


 相性で言えば、やはり象蛾男もラディカル・ミックスからすれば相性最悪な訳で、ラディカル・ミックスは危機感を憶える。


(このままじゃ相性から言って敗北は必至……頭を回転させるのよ! アタシ! こんな変態に負けたら人生終わりよ!! 何としても勝たないと!!)





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