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22話:悪の成長



「燕児さん、あなたの作ったスーツは最高でしたよ。突然外のモンスターの素材が欲しいから狩ってくれと言われた時はびっくりしましたけど。このスーツの力がなければ、俺は人々を守れず、大量の犠牲者を出すところでした」


「まぁ君ならスーツがなくともあいつを、ダントウを倒せただろうけどね。けどそうか……僕が君のためにできることっていうのは、そういう方向性なのかもね。君は力が強いけど、守るのは得意じゃない。だから僕が、君の力がもっと色んな所に届くようにする」


 八童子なんでもサービスの作業場、不知は堂馬の抜歯処理を終えた後、ダントウとの戦いで破損してしまったナイトメア・メルターのスーツを燕児に渡し、修理を頼んだ。


 燕児は不知の性能スペックを異七木の外で計ったが、その後すぐ、不知に外の原生生物を倒せと依頼した。それは燕児が元の地球で熊程度に相当するだろうと言った生物で、測定を行った荒れ地のすぐ側をのそのそと闊歩していた。


 燕児はかつて自分を殺そうと襲ってきたその生物を、襲われながら魔法機械の素材として使えそうだと認識していた。


 その生物は黒紫色の虫と哺乳類が入り混じったような、馬のような生物だった。馬と言っても明らかに肉食の鋭い牙が生えていて、さらには鋭く赤い眼光が、凶悪そうな印象をもたせた。


 不知はその虫のような外骨格つき肉食馬を、プラズマの雷の力で倒した。燕児が出来るだけ多くの使える素材が欲しいという要望に応えて、急所があると思われた頭蓋の内部に雷を放ち感電死させた。


「けど燕児さん、どうしてあの生物がスーツの素材に使えるとわかったんですか?」


「前に襲われたって言ったでしょ? 僕だって外が危ないのは分かってたから武器を持っていったんだ。放電能力がある電磁警棒とか、君が使った火力発電所ドラゴンの爪を使ったバーナーとか。あいつバーナーは全く効かなかったけど、電磁警棒の方は効いたんだ。体に当てたら逃げていったんだけど、電撃を受けても外傷は全く見当たらなかった。それでよく電気を通して、衝撃や火、熱に強いっていうのが分かったんだよ」


「なるほどそういうことか……魔法能力は基本的に自分自身を傷つけないから、電気、雷の力が通りやすくても俺にはダメージがない。むしろ電気的な影響を強く受けるなら、その特性を利用して、高度な制御が可能となる」


「うん、不知君は馬鹿みたいに強いエネルギーを持っているから、君が生み出す雷の影響を超えて制御してくる電気系の能力者というのも考えづらい。けど熱はね……不知の生み出した熱でないなら、それを打ち消すってことができない。例えば空間一体を高熱で蒸し焼きにするなんて能力を使われたら普通に効いてしまうはずだ」


「うお……蒸し焼き、その手があったか。燕児さんは流石ですね、どうすれば俺を倒せるかっていうのをすぐに思いついた。やはりあなたと組んで正解でした」


「ははは、それはどうも。だけど仮に蒸し焼きにする力を持つ存在がいたとしても、不知君には勝てないだろうね。別に攻撃できるのは相手だけじゃないし、君の方が火力もスピードも大抵は上のはずだ。もし……もし君を倒せる能力があるとしたらそれは……」


 燕児は不知の倒し方を楽しそうに思案していたが、急に言い淀んでしまう。その顔は険しいもので、燕児は目元を手で覆った。


「ど、どうしたんですか? 俺を倒せる能力を思いついたんじゃ……」


「ああ、思いつきはしたんだけど……おそらく君を倒せるのは概念系や精神、魂に干渉する能力なのは間違いない。物理的な作用で君を倒すのはほぼほぼ無理だからね……だけど概念だとか、精神に作用する能力って……僕たちが倒すべきクラックタイルの持ってる力が、その系統じゃないのかなって」


「なっ……け、けど……俺は過去の世界で、能力に未覚醒の状態でヤツを倒しかけた。能力がある今なら負ける要素なんて」


「未覚醒の状態で倒しかけた? 確かに君から過去の話を聞いた時、プラズマの力が出てこなかったけ、それは単純に未覚醒で力を使っていなかったからなのか……ちょっと不知君、君説明不足だよ? そうか未覚醒状態で……だけどやっぱり油断するべきじゃないよ。だってクラックタイルは君と戦うことになるまで一度も表に出てこなかったんだろ? それって戦闘経験があまりないってことじゃないのか? それなのに、警備の一流ヒーロー達を一方的に殺したんだろ?」


「いや表に出てこなかったからと言って戦闘経験がないとは限らないんじゃ……」


「でもありえない話じゃないだろ? あくまでも可能性の話さ。もしクラックタイルに殆ど戦闘経験のない状態で一流のヒーロー達を殺すだけの才能があるとしたら? そして……能力を戦闘面に於いて最適化を行っていないとしたら? クラックタイルが、今の段階で君への警戒心から、自身の能力を鍛え始めたら……君が過去の世界で戦ったクラックタイルよりも、強くなっているかも……ま、まぁ……これは全部僕の妄想でしかないけど」


「……敵を甘く見るよりは……警戒し過ぎるぐらいがいいのかもしれませんね」


 燕児の妄想、確たる根拠がある訳でもない、しかしそれでも不知は嫌な説得力を、燕児の話から感じていた。クラックタイルは未だ謎が多く、やり直しのこの世界はすでに過去の世界とは異なる方向へと進みつつある。


 不知は戦闘能力よりも、自身の正体がバレるよりも、何より情報を欲していた。クラックタイルの正体に辿り着くための情報、雪夏を守るための情報を。



◆◆◆



「……ナイトメア・メルター、魔力ネットだとダントウが命名したアーク・ナイトの方が人気みたいだねぇ。悪夢を溶かす者……彼はかつて悪夢を見たということか? だとすれば彼が行おうとしているのは復讐?」


 痩せ型の男が暗いどこかの地下室でPCモニターを見ている。男の関心は今異七木で最も話題に上がる男、ナイトメア・メルターについてだった。


「クラックタイル、誰かに復讐されるような心当たりは?」


 ヒビのない、まっさらなタイルが体表を覆う少年が痩せ型の男に問いかける。痩せた男はクラックタイルと呼ばれたが、その体をタイルが覆っていない。


「もちろん心当たりは沢山ある。だけど……誰も辿り着けないはずだよ。そもそも、恨まれるようなリスクを感じた存在は──全て処理してきたからね。というか白夜びゃくや、君は僕の弟なんだから、僕を名前で呼べばいいじゃないか」


 クラックタイルはタイルの仮面をしていない状態で、タイルの少年を弟と、白夜と呼んだ。クラックタイルは異七木警察署の署長に、クラックタイルと呼ぶことすら禁じていた。そのクラックタイルが自身の本名を呼ぶことすら少年には許していた。それはクラックタイルが白夜少年に対して心を許している証明に他ならなかった。


「いえ……我々が裏の活動をしている時は、表の名前は使いたくないのです。自分はそうしなければ割り切れないことが多いので」


「そうだったか……じゃあ、君の名を僕が言うのもよくなかった、すまない。それはそうと……ナイトメア・メルターは異常だ。彼は強すぎる……魔法のある世界と言えど、明らかに人の領域を超えている……彼を物理的な干渉で殺すのは不可能だと思う。概念、もしくは精神に作用する能力でなければ、一欠片も可能性がないだろうね。でも、僕の能力は彼には届きそうにない」


 燕児が気がついたナイトメア・メルターを倒しうる能力系統、それについてはクラックタイルも分かっていた。しかし、当のクラックタイルは、ナイトメア・メルターを倒すことは自分には不可能であると考えていた。


「……ならば魔法能力を鍛えるのはどうでしょう? クラックタイルは今まで、能力を戦闘以外での活用ばかりを考えて来ましたよね? ナイトメア・メルターという馬鹿げた存在が出てきた以上、現状の戦闘能力で妥協をするのは、自身の死を受け入れるのと同義です。魔法能力は鍛えれば成長すると聞きます、能力を戦闘方面で成長させるのです」


「プラチナムスタック、君は簡単に言ってくれるけどね……僕の能力はそう簡単に使えるものじゃない、条件が……」


「クラックタイル、自分が言っているのは、そういった話ではないのです。支配能力ではなく、それに至るまでの力の過程、それを武器へと変える鍛錬をするという話です」


「……ああ、そういうことか……君は賢い、流石はママの子だ。あやつり人形を作れるのなら、それを作るための針や糸、ハサミも使える。能力の道具の部分を鍛える……どうやればいいかは、手探りになるだろうけど──希望が見えてきたじゃないか」


 クラックタイルは素顔のまま、その手で顔を覆う。そして、口元を笑みで歪めた。




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