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18話:不知、自分のファンクラブを解体するの巻



「パパー! ボクのパンツしらなー……いッ!? えッ!?」


「燕児さんなら営業に出てるよ」


「ぎゃあああああああああああああああああ!!! なんで先輩がここにッ!?」


 八童子なんでもサービスの作業場にバカでかい絶叫が響き渡る。それは少女の出す音というよりも、爆撃機の出す音だった。鼓膜への圧倒的負荷に耐えられず、不知は耳を塞いだ。


「ん? 俺のことを知ってるの?」


「あっ……いや別に、全然知らないですけど?」


『おい不知、こいつ明らかに嘘ついてるぞ』


 クロムラサキが少女に疑いの目を向ける。


(そうだな……なんで俺のことを知っているんだ? まるで謎だ、心当たりが全くない……少なくとも過去の世界では関わったことは一度もない、いやクラックタイルに操られて俺の前に立ち塞がったことはあるか……)


 その少女は過去の世界でクラックタイルに操られた少女の一人で、不知の協力者となった八童子燕児の娘、八童子烏衣はちどうじ ういだった。


 黄色い髪の幼い印象のある少女だった。しかしその幼い印象とは裏腹に、その胸は豊満であった。


 と言っても、馬鹿っぽい雰囲気で色気はまるでない。クラスメイトの男子達からも、見た目はいいはずなのに、あまり恋愛対象としては見られていない。騒がしい珍獣のような扱いを受けている。


「嘘をつくとためにならないぞ。俺にも考えがある」


『ふーん、一体どういう考えがあるんだ?』


(いや何も考えていない。ただの脅しだ、相手の対応を見て、そこからどうするか考える)


『やれやれ、お前はいつも行き当たりばったりだね』


「か、考え!? ま、まさか……け、警察?」


「警察? 君は警察に通報されるようなことをしているのか?」


「あぎゃああああああ! いえ! 全く……そのようなことは……しょ、正直に言うので勘弁してくださぁい! えっとその、ボクが先輩のことを知ってるのは……黒凰先輩は有名で、その……先輩の情報を集め……先輩の研究をしている団体がありまして、ファンクラブ的な? そこにちょっと出入りしたりしなかったりしたような感じで……一瞬だけ、黒凰先輩のことを知ってるだけです」


「俺の情報を集める団体だと? それは困るな、叩き潰さなければ」


「いやああああああああ!! やめてください!! 生きがいなんです!!」


「生きがい? さっきは一瞬だけしか知らないと言ってなかったか? 悪いが生きがいだとしてもファンクラブとやらは解体させてもらう。存続させると危険だからな、所属している者たちを守るためには致し方ないことだ」


「解体……!? け、けどボク達を守るためなの? えっ、どうしよう……ボク先輩に守られちゃうの? ま、守られたいかも……へ、へへへ。うんうん、多分みんなも先輩に守られたいだろうし、ここは先輩のファンクラブ解体に協力しましょう!」


「協力感謝するぞ、烏衣後輩。では集会の場所と時間を教えてくれ」


「わ、わかりました! 了解でありましゅ! えっと場所は異七木市民病院の近くにある、いななきなかよし公園のグラウンドにテントを設営してそこでやっております」


「ふむふむ、時間は?」


「えっと時間はですね──」


『い、一体どういうことなんだこれは……何が起きているんだ……』


 ファンクラブをその信仰対象である本人が叩き潰すという行いを、そのファンクラブの者が自ら率先して協力するという異常事態、協力する理由も不知に守られたいからという理解し難いもので、クロムラサキは目眩を起こした。



◆◆◆



『まぁお前の情報を集めているというのは困るし、潰さないといけないのは分かるが、お前も残酷なことをするね』


(俺は魔力ネットいわく、ダークヒーローらしいが、その活動をする障害となるからな。実際、俺の情報を調べた結果、闇組織やクラックタイルの情報を知ってしまい、事件に巻き込まれる可能性もある……色んな意味で潰さなければマズイ……残酷なことは分かるけど、だからこそせめて俺の手で引導を渡してやりたいんだ。俺の手によって解体が行われるのならば、そこには納得があると信じたい)


「あれか、緑色のテント……烏衣後輩から貰った写真の画像と一致する。さて始めるとしようか、俺のファンクラブの解体を!」


 不知は烏衣から得た情報通りの場所、日時の通り、いななきなかよし公園の例のテントの前までやってきた。


 不知は覚悟を決め、仕切られたテントの出入り口に手をかける。


 ──バッ!!


 勢いよく開かれたテントに、不知は無駄に素早く侵入する。


「お前たち!! このファンクラブは今日で解体となる!」


 不知は声を張ってそう宣言する。


「えええええええええええええええええ!?」


 まさかの本人登場に驚愕し、頭がおかしくなり異常行動を始めるファンクラブの女性メンバー達。頭を机に叩きつける者、お祈りをする者、目をつむりこれは夢だと現実逃避をする者。何故だか幸せそうに自分で肩を抱いている者。


「えええええええええええええ!?? なんで!?」


 驚愕していたのはファンクラブのメンバーだけではなかった。不知も何故か驚いていた。その視線の先には、一人の少年がいた。その場に似つかわしくない不良っぽい見た目の少年だ。


「嵐登!? なんで嵐登がここに……」


「ついにここに来てしまったか……流石だな不知、お前ならいつかここに乗り込んでくると思っていたぜ。不知、何故オレがここにいるかだって? そんなの当然、オレはお前の最も大事な友、親友だ、つまりよ──お前のファンだからに決まっているだろうが!!」


 ドヤ顔で宣言する緑髪の不良少年。その少年は不知の知り合い、親友の抜頭嵐登ばっとう らんどだった。


「謹慎になって連絡も寄越さないでこんなことをやっていたのか……嵐登お前……でも元気そうでよかったよ」


「お前に連絡すると会いたくなって学校に行っちまうからな、仕方ねぇだろ? オレは学園を謹慎中の身、筋は通したいからな」


『不知、嵐登はなんで謹慎になっていたんだっけか……』


(えっと、彼女を寝取られて……相手の男と元カノをボコボコにしたからだったな。新しい男とよろしくやるにもまずはちゃんと別れてからやれとキレていた。なんというか、女が嵐登に愛想を尽かした理由もアレなんだよな……嵐登は不良っぽい見た目をしてるから、こうやんちゃで、ワイルドな感じにガツガツ来るのを彼女に期待されてたみたいだけど、嵐登はただの不良漫画オタクの真面目な男だからな……真面目過ぎてつまらなかったって……カスじゃんか、そんな理由……別れて正解だったよ)


『まぁ思ってたのと違ったというのは、恋愛に限らずよくあることだろうよ。女の見る目はなかったが、それは嵐登も同じ、相性が悪いのに気づかず事故にあってしまったようなものだね』


(事故だと? 確かにそうかもしれないけど……俺は許せないよ。嵐登はいいやつなのに、こいつのことを傷つけやがって……!!)


『こらこら落ち着け、怒りが顔に出るとファン達を怖がらせてしまうぞ』


(おっと、やばいやばい……そうだな、一旦落ち着こう)


 不知は深呼吸して、ファンクラブの者達に向き直る。


「俺は、こうしたファンクラブがあったことを、特に不快に思ったりはしていない。むしろこんな俺を好ましく思っていてくれた人がいることを嬉しく思う」


「えっ!?」


 ファンクラブの面々達は不知のその言葉で顔つきを変えた。みんな目をウルウルとさせて、まるで小動物かのようになってしまった。


「俺がこのファンクラブを解体させるのは……君たちを守りたいからだ」


「えっ!?」


 その言葉で何人かが地に倒れ伏した。


「最近、聖浄学園にヴィランがやってきたり、凶悪犯罪者が街で暴れたりがあった。俺はそうした事件に危機感を抱いた。だから……俺は、そうした事件の裏に何かあるのではないかと調べることにした。最近は警察も役に立たないし、自分たちで行動するしかないと思ったんだ。俺は危険なことをしている……だけどそれは、俺の周囲にいる人や、この街に住む善良な人々、つまりは君達を守りたいと思うからなんだ。俺の情報を調べて、それに付随して、悪党達の危険な、知るべきでない情報を君たちが知ったら、事件に巻き込まれるかもしれない……そうなってしまったら、俺は悔やんでも悔やみきれない、だから俺はこのファンクラブを解体する。俺に君たちを守らせて欲しいんだ」


『おお、中々それっぽいことを言うね、うまいじゃないか』


(まぁ八割は本心だからな。ボカした事実はあるが、嘘も言ってない)


「はい……」


 ファンクラブの面々は、プルプルと震えながら、なぜか祈りを捧げてそう言うと、ありがとう、ありがとうと土下座をした。


(なんでここまでするんだろう……ちょっと怖いな)


『いやちょっとじゃないだろ!! その程度の感想しかないお前がこいぞ私は!?』


「う、うう……そうか、不知……お前はオレを守ってくれるのか。守ってくれ不知……お前のファンとしてのオレを……だが親友としてのオレはお前を支えるからな。お前だけに守らせはしないキリッ」


 嵐登、号泣。


 こうして割りと穏便に不知ファンクラブは終焉を迎えた。


 ──だが、穏便に終わったのはクラブの解体までだった。


 その日は朝の日で、ヴィランが活動的でない日のはずだった。けれど……何事にも例外はある。


 不知がクラブの解体を終え、その場を去った後、クラブのテントをメンバー達が片付けている最中のことだった。


「見て見てぇ~……ぼ、僕の”僕”を」


 魔法によって強化された変質者、魔法変質者の男が、そこに現れた。


 男は巨大な触手に変貌し、不知ファンクラブの元メンバー達に襲いかかった。唯一の男性メンバーだった嵐登だけは無視される中──


「──いやあああああああ、先輩ぃ!! た、助け、先輩助けてええええええ!!」


 八童子烏衣はその触手に握られて、宙吊りとなる。



「──すまないな、助けるのがお前の先輩とやらではなくて」


「えっ……?」


 黒い影が陽の光を隠した。黒紫クロムラサキ色の仮面をした、パーカーの男が烏衣を見ていた。


 空に跳躍した男は滞空状態で手刀を作り、変質者の触手を切断する。


 焼け切れた断面、煙を出すパーカー男の掌には、眩いアークの青白い光があった。


 触手によって吊り上げられていた烏衣は当然落下する。パーカー男はそんな烏衣を両手で受け止め、何事もなく着地した。


「あ、ありがとうございます……」


「礼などいらない、ただ通りがかっただけだからな」


「ぎゃああああああ!! 僕の僕がああああああ! お前、これはアレなんだぞ!? 男なら悪いと思わないのかあああああああ!!!」


 激痛で白目を剥きながら発狂する変質者。


「何……!? なっ……そうなのか? 最悪だ……触ってしまった……手を触れずに倒さなければ……よし! ならこれだ!」


 パーカー男、仮面バージョンは手を変質者の方へ向けると掌にプラズマの力を収束させ始めた。そしてプラズマを爆発させる。


 爆ぜたプラズマは強力な電磁ビームとなって、変質者の体を焼いた。焼かれた触手はズルンと剥けて、中から変質者の本体が出てきた。


「まるでキグルミだな……とてもゆるキャラにはなれそうもないが……」


「あ、あなたは一体……あの名前は……?」


 烏衣に名を尋ねられたパーカー男は、少しの間迷うような素振りを見せ。


「色々候補はあるんだが、俺が決めるべきではないらしい。良い名前が思いつかない……ま、決まったら教えてやる。お前たちも気をつけて帰れよ、最近は物騒だからな……あと警察への連絡は少し経ってから頼む、俺は警察に追われているからな」


 そう言うとパーカー男は抱きかかえていた烏衣を降ろしてその場を跳躍して立ち去っていった。


「……あのパーカー男……あの人って……ねぇみんな……絶対そうだよね?」


「うんうん、絶対そうだよ! あの人だよね!」


 烏衣を始めとした不知ファンクラブのメンバー達はパーカー男の正体に見当がついているようだった。ただ一人を除いて──


「えぇ!? お前らパーカー男の正体が分かるのか!? ちょ、ズルいぞ! オレにも教えてくれよ!!」


「駄目だよ嵐登くん、こういう危ないのを追求したら黒凰先輩の迷惑になっちゃうでしょ……?」


「うっ……烏衣ちゃん……そうだな。気になるけど、その方がいいな。オレだって不知の迷惑にはなりたくねぇ」


「けど、本当に守ってるんだ……あの人は……えへへ……でも迷惑はかけられないし、みんなも陰ながら応援するようにしよ! ボク達はあの人に直接関わらないけど、ボク達がした準備が、たまたまパーカーのあの人の助けになる、そんな方向性なら悪くないんじゃない?」


「調べず、関わらず、役立つモノをパズルのピースのように配置していくということね?」


「そうたまたま。使われず、埋もれるだけならそれでもいい。でもさ、そういうのを続けていったら、ボク達の祈りは届くかも」


「おい、あんなチ◯ポ野郎が暴れた後に”タマタマ”とか言うなよ!! 思い出して、オレにもダメージが来る……」


「嵐登くんサイテー、セクハラ不良!!」


「っわ、ご、ごめーん……」


 その日、変質者は警察に逮捕されていったが、不知ファンクラブの元メンバー達は、みな口を揃えてこう言った。誰が助けてくれたのかはよく分からなかった。気づいたら終わっていたと、パーカー男の存在を秘匿した。


 幸いなことに、触手の変質者も空中で背後から攻撃されたため、パーカー男の姿をよく認識できておらず、パーカー男に断ち切られてからは白目を剥いていたせいでやはり見えていなかった。


 不知ファンクラブは終焉を迎えたが、そのメンバー達は新たな存在へと生まれ変わった。彼女たちは以前のように集まることも、情報交換もすることはなかったが、まるでゲリラのように共通の目的を持って、個々人で行動していた。


 パーカー男が、活動しやすいようにさりげない気配りをしていた。本当に些細なものだった、それはパーカー男の話題が上がれば、そっと別の話題に誘導して、話題を逸してやったりだとか、パーカー男を追う警察を悪く言ったりだとか、多くはそんな程度のことだった。


 些細な、小さな事、けれど積み重なっていく。


「うーん、なんか最近色んな店で和菓子が増えてないか? いや、間違いない……絶対に増えてるぞ……いい事だ、この調子なら和菓子専門店ができる日も近いな」


『完全記憶能力に頼りすぎると勘が鈍るぞ不知』


 数カ月後の未来ではそんな感じの、不知にとって嬉しいことがあったらしい。





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