15話:街の外
「なるほどね……僕のことを監視して調べたって言ってて内心、ちょっとやりすぎじゃないかって思ったけど……詳しい話を聞けば納得ではある」
「相手は致命的な段階になるまで完璧に潜伏して計画を実行した知能犯ですし、正体が分かるまでは大抵の人間を警戒する必要がある。ヤツは異常性癖の持ち主ですが、性癖自体人は隠すものですし、表には出てこないことが多い。そういった要素を見つけようとすると、どうしても違法性のある調査が必要になってくる」
不知は燕児の協力を取り付け、それからクラックタイルに関する詳細な情報説明を行った。と言ってもクラックタイルの情報は少なく、殆どこうではないか? という憶測の部分が多い。
「まぁ、君が評価する通り、クラックタイルが賢いのなら、君のことを調べるだろうね。幸いなことに、君は魔法的、科学的な追跡を無効化できるから、そこはかなり大きい。プラズマ、魔力の乗った特殊な魔力プラズマとでも言えばいいのか、戦闘能力の強化よりも隠蔽能力の方が本命と言えるぐらいだ」
「実際、戦闘能力は未覚醒の状態の俺でも十分でしたからね。見えているのに追いかけるという古典的な方法でしか追跡できない、強引に追ってくるものがいても、光を強くすれば、視力を奪って追跡を中断させられる」
「そう言うと万能のように聞こえるけど、何事も完璧ってわけにはいけない。一度不知君の能力をちゃんと調べてみよう。うちにある計器類でどこまで調べられるか分からないけど、場所はそうだな……外に出てみるか」
「そ、外ですか? 異七木の外側には、無許可で出られないはずじゃ……」
不知が燕児の提案に動揺する。それだけの理由が異七木の外にはあるからだ。
「はは、そもそもこっちに来てから上が勝手に決めたルールだし、警備の人員は明らかに不足してるからガバガバ、簡単に行ったり来たりできるよ。実際僕は何度も無許可で外に出てるし」
「え!? 燕児さんそんな危険なことを? だって異七木は謎の結界で守られてるから安全なんでしょう? 外に出たら危険なモンスターや病原体がいるって話じゃ……」
「まぁ危険なモンスターがいるのは本当だね。だけど君の戦闘能力があったら余裕じゃないかな? そもそも僕でも普通に逃げられた程度から、上が煽るほどじゃない。熊のことをまるで伝説の化け物みたいに言ってるようなもんだ。それと病原体がどうこうも嘘だ」
「え、嘘なんですか? けど、外はそもそも生態系も何もかも異七木の中とは違って大気組成すら違うから生きていけないんじゃ? 酸素が殆どないって聞きましたよ?」
「大気組成が違うからって、みんな外に出る人らは酸素ボンベをしてるけど、実際にはそんなもの必要ない。僕らの体はもう──地球人から変質してしまっている」
「変質? なら俺達はもう、地球人じゃ……ない?」
燕児に想定外のことを言われ、言葉を失う不知。
「僕は好奇心に勝てなくて外に出たけど、最初はちゃんと酸素ボンベを持っていった。だけどモンスターに襲われちゃって酸素ボンベが破壊されてしまったんだ。しかも逃げる方向が帰るのとは真逆の方向で異七木との距離は離れてしまった、帰るのは絶望的、ああここで死ぬんだと思ったよ。でもさ、酸素が止まって最初は苦しいと思ったんだけど、外気で呼吸してみたら、呼吸ができるようになってしまったんだ」
「え? 待ってくださいよ……呼吸に酸素が必要なくなってるってことですか?」
「うん、どうやらそうみたいでね……おそらく最初に苦しく感じたのも、大気組成の違いに違和感を感じたってだけで、特に悪影響はなかったんだ。まぁ知らない世界じゃその違和感が怖くて、悪いものだと遠ざかってしまうのも当然ではある。これは多分だけど、呼吸自体はしなきゃいけないから、僕たちの生存に必要なものが酸素から別のもの、魔力に変わったんだと解釈してる。魔力を肺から吸って、そのエネルギーによって僕たちは体を動かしている。体を動かす仕組みが根本から変わってしまっているんだ」
「大気から魔力を取り込んでいるのはわかりましたけど、じゃあ元から俺たちが持ってる魔力ってなんなんですかね? 僕たちはそれを理解しないまま、自然と魔力を生み出し続けてますけど……その魔力を使えば、呼吸すらも必要なくなりそうな気が……」
「さぁそれは僕にもまだ分からないね。けどもしかしたら……僕らが自分で生み出す魔力と、大気に漂う魔力は違うのかもね。それか呼吸して大気から取り込んだ魔力を自分の魔力に変換した結果、自分たちの魔力を生み出してるのかもしれない。とにかく今の僕らは魔力というのが生存に必要で、逆に魔力さえあれば、元の体では問題となるようなことも問題にならなかったりする」
「魔法を使えたりする時点で人間離れしてるとは思ってたけど、もうこれは本格的ですね……じゃあ異七木の外にでましょうか、外に行けることは理解しましたんで」
◆◆◆
「本当にやる気のない警備だな……これじゃ素通りだ」
「だから言ったでしょ? ガバガバだって……外に出たら死ぬと思ってるから、わざわざ死ににいくヤツはいないと思ってるんだ」
異七木と外を隔てる結界は、まるでシャボン玉のように虹色に輝いていて、その境界を見張る警備の者たちは警察と、民間の警備員のようだった。だが明らかに人員が足りていない、異七木という一つの市をぐるりと展開する境界線は当然それだけの長さを持ち、その全てをカバーするにはかなりの人員と監視装置を必要とする。
「なんだか、境界線もキレイな半球みたいな感じかと思ってたらそうじゃないんだな。なんというか無駄に丁寧な切り抜かれ方……建物が切れてしまわないように転移してきてたのか、建物に沿って凸凹な境界線だ」
「まぁそうだね、なんか親切というか、人のことを考えてる存在が転移させたんだなっていうのが分かるよ。この凸凹具合も遠目から見れば君の言ってた半球に見えるし、実際見ないと分からないことでいっぱいだ」
不知と燕児は建物の隙間を活用して警備の目を掻い潜り、ついに結界の外へと出る。そこからは燕児の案内で、二人は外を歩いて移動した。
「えほっ! っぐ、ちょ……思ったよりも苦し……あ、ああ……ちょっとなれて、きたか」
最初、外の大気の違和感に不知は苦痛を感じたが、歩き続けるうちに治まって、外の景色を見る余裕が出てきた。
「なんだかカビか微生物か分からないですけど、そういったものの生み出す堆積物みたいなのがいっぱいありますね。木々の代わりにそれが生えてるみたいな感じ」
「洞窟にある鍾乳石が下から生えてるみたいな感じだよねぇ。これが生えてる所は魔力が濃い気がするから、もしかしたらこれが魔力を生み出してるのかな? いや逆に魔力が濃いからこいつらが生えるのかもしれない。なんにせよ不思議な光景だよ」
「まぁこういうのを壊して何かあると嫌ですから、何もなさそうなとこで色々試しましょう」
燕児と不知はそれから数キロ歩いて、異七木がキッチンのボウルに感じられるぐらいの距離まで移動した。そこは何もない荒れ地で、水気もなく乾燥していた。
「じゃあとりあえず思いっきり力を使って見てよ。もちろん僕に当たらないように」
「わかりました」
燕児はアーク溶接に使用する遮光面を装備し、各種計器を並べ、不知の力、その性能試験が始まった。
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