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12話:悪鬼



「おらおら、もっと泣き喚け、音を出すんだよォ! 喉から、手足から、内蔵からなァ!」


「い、いやあああああ! いだい、いたい、いたい、やめて、えあああああ!!!」


 頭に六本、鬼の角を生やした男がいる。男の腕には鱗がびっしりと付いていて、その鱗は一枚一枚が鋭い刃物のように鋭利だった。


 男は手の甲の鱗を逆立て、組み伏せた女性の肩から胸を逆立てた鱗で撫でた。女性の肌はさくりとあっさり裂けて、大量の血が噴き出す。


「いやああああああああああああああああああ!!!!」


「うるせぇ! 駄目だな……音を出せつったけど声はなしだ、お前は声が煩すぎる」


 ──ガリガリガリ。


 男は爪で女性の喉を雑に引っ掻いて、声を出せないようにする。まるで喘息かのような、掠れた呼吸音しか、声のようなものを出せなくなった女性は、それでも叫んでいる。


 ただ声が出ないだけで、その目は、身体は、助けを求めていた。


「こんな死体だらけの中でよく希望が見えるもんだなぁ。ははは、あいつらも正気じゃねぇなぁ……人探しにオレ様を牢から出すなんてよぉ。まぁいい、魅力的な報酬があればそれで」


 死体だらけの中、男がそう言ったように、男の周辺は死体で満たされていた。少なくとも20人前後の死体があるそこは、男が暴れた影響で火事が起きている。火事の炎で大量の血は蒸発して、むせ返るような悪臭が漂う、この場所が危険であること、近づいてはならないことを、嗅覚刺激が生存本能に働きかける事で教えた。


「けど違和感があるな、こうも暴れて来るのが雑魚なヒーローだけってのは……どうやって警察を抑え込んだんだか……さて、飽きたことだし、この女を殺す──」


 ──ガン!


 女性の首をへし折ろうとした鬼のような男の腕が弾かれる。それは、小石だった。赤くなるほどに熱された石。


「来やがったか! パーカー男!」


 鬼の男の言葉を無視して、パーカー男は二発目の小石を投げる。今度は雷を宿した小石を──


 ──スパン!


「──ッァ!? って、てめぇ!?」


 雷の力で加速した小石は鬼の男の肩を貫いた。鬼の男の防御を許さず、回避することも許さない。


「六本の角が生えた鬼のようなヴィランで、確か名前はデビルシックスだったか。一応聞くが、そこにある死体と、その女性の怪我は、お前がやったので間違いないんだよな?」


「あぁ、んなのみりゃ分かんだろうが!! ッ、なんだこいつ……」


「できれば情報収集をしたかったが……お前のような存在を許すわけにはいかない。ここで殺す」


『おいおい、それじゃあ不知、お前の目的からは遠ざかってしまうがいいのか?』


(こんな危険なヤツは殺すに限る。拷問なりで情報を得るにしても、万が一脱走でもされたら、この有様になる。これは口があるだけで人を噛み殺すような人種だろう)


『言えてるね。確かに雪夏を守るというお前の目的からすれば、雪夏を害する可能性があるこいつを生かす選択肢はないか』


「殺すだぁ? とてもヒーローとは思えない発言だぜぇ? お前」


「ヒーローじゃないからな。そもそも自分が何者かなんて考える余裕もない、俺が何者かなんて他の誰かが勝手に決めるだろう。やるべきことをやるだけだ」


「っは! おいおい、もうオレ様に勝ったつもりか? お前の力の半分は! 炎の力は効かねぇぞ!!」


 デビルシックスがパーカーの男に襲いかかる。その高い身体能力は、まるで戦闘機のような加速力で、目で捉えるのは至難の業だ。


 パーカー男にはデビルシックスの動きが見えたが、それに合わせて動くことはできない。回避はできず、ちょっとした防御態勢を取ることしかできない。


 デビルシックスの鋭い爪と鱗がパーカー男の肌を、肉を削り取ろうとする。しかし──


「なっ、お前──何を!?」


「シンプルな身体強化、人を超えたモンスターへの変身能力か。熱した小石も効かず、火事の炎もまるでそよ風のように涼しげだったな。尋常ならざる熱耐性だ」


 パーカー男はデビルシックスとの自身の体が接触するその瞬間、無理やりにデビルシックスへと組み付いた。そのまま両手をデビルシックスの背中、肩へと回し、抱きつく形となる。


「だが──それはお前の想像の範囲でしかない。鬼が地獄の熱を耐えるというのなら、その先の熱を見せてやろう」


 パーカー男はデビルシックスに抱きついたまま地を蹴って跳躍する。日が昇り始めた薄暗い空に、人影が昇る。


 ──ジュウウウウウ。


「あ、あぁ? なんだ、これ」


 デビルシックスは目を疑った。デビルシックスの肌が溶け焦げている。


 デビルシックスを包むパーカー男の体は、その全身を青白い光で輝かせていた。


 ──バキバキバキ。


「あづ、あづ、えぐ、やめ、嘘だ、あついわけがあぁああああああああ!?」


 パーカー男のプラスマ、超高温の光が熱耐性を持つデビルシックスの肌を溶かす。筋繊維は一瞬のうちに焼き切れ、目の水分を閉じ込める眼球は沸騰して破裂する。泡立ったデビルシックスの水分が暴れ、デビルシックスの骨と神経をズタズタに裂いた。


 デビルシックスが熱耐性を持たなければ、一瞬にして死亡し、苦痛を感じることもなかっただろう。だがデビルシックスには熱への強い耐性があった。


 結局、デビルシックスが燃えきることはなかった。肉体の水分を全て失い、皮だけとなった。少し溶けたことで光沢のある、しわくちゃなミイラ、鬼の乾物となって、地面にゆらゆらと落ちる。それと同時にパーカー男は着地する。


「──聞こえるか? 黒幕気取りの外道よ、お前にはこれ以上の苦しみが待っている。必ず追い詰めて殺す、逃げ場はどこにもない」


 パーカー男はデビルシックスを殺した後に叫んだ。事件現場に異七木テレビのカメラマンがいたからだった。テレビカメラを伝書鳩代わりにするためだった。


 日の出に空で輝いた、太陽よりも強い光、昼も夜も消え去ったかのような、現実感のない輝き。男が鬼を殺したその技は、後に【悪鬼抱擁】と呼ばれるようになる。





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