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11話:後ろめたい正義



「こんにちは~、雪夏さんのクラスメイトで黒凰不知と言います」


「あっ、こ、こんにちは~。黒凰くんの話はいつも雪夏から煩いくらい聞いてるから、初めて会った気がしないわぁ~! 今日は、よろしくね黒凰くん」


「ちょ! お母さん!? 余計なこと言わないで! 恥ずかしいでしょ!」


 月曜、夜の三日目の午後、不知は石透家の壊れたスプリンクラーを修理するために、石透家へと足を運んだ。


 スプリンクラーの修理は、不知からすればついでであり、本命は石透家の中に隠しカメラを設置することにある。


「え、えぇ……すご、本当に直せるんだぁ……ごめんなさいねぇ、私、黒凰くんが雪夏と仲良くなるためにスプリンクラーを直せるって嘘ついたんじゃないかってちょっと疑ってたのよ」


 ──ぎくり、冷や汗をかく不知。


「もうお母さん!? 不知くんがそんなつまんない嘘をつくわけないでしょ!!」


 ──グサリ、純粋な雪夏の言葉が不知の胸に突き刺さる。


『はははは! ふくく、ふふふふ! ひ、ひいぃい~~!! 自分で蒔いた種だぞ不知!』


 ──イラっ、クロムラサキの嘲笑に不知は青筋を立てた。


「よし! ふーー、これで修理は終わりですよ。習った通り、うまくできたぞ」


「ん? 習った通り?」


「あっ、雪夏、それはあれだよ。昔習ってちょっと時間が経ってたからさ、うまくできるか不安だったんだ。ははははは」


(あぶない……)


『いくら完全記憶能力と高い知性があっても、間の抜けた部分は変わらずお前の弱点であることを忘れるなよ? なぁ不知』


(そうだな……というか、俺自身、俺の力を持て余してるからな。緊張感のある状況ならともかく、こういった日常的な所だと、中々難しい)


「それじゃあ頑張ってくれたわけだし、黒凰くんをおもてなししてあげなきゃね! ほら雪夏、あなたもテキパキ動くのよ」


「ああ、いやその、お気遣いなく……」


「不知くん、そういうわけにもいかないでしょ? タダ働きなんてさせられないし、不知くんお金もいらないっていうんだから。せめて晩ごはんとか、そのほら、そういうのも」


 雪夏と雪夏の母、冬姫はキッチンへと向かった。それを確認して、不知は行動を始める。


(クロムラサキ、隠すのにいいポイントは見つけられたのか?)


『無論だね。お前をからかってばかりいるわけじゃない、イメージをお前の脳内に送るから、そのポイントに隠しカメラを仕込むといい』


 不知はスプリンクラーを修理している間、クロムラサキに石透家を調べさせていた。クロムラサキがカメラを隠すのに良いと感じたポイントが、不知の脳内に浮かんでくる。


 ソファの隙間、エアコンの隙間、そして雪夏の部屋の箪笥の隙間だった。


「す、すまない……仕方のないことなんだ」


 そう言いながら、不知は雪夏の部屋に侵入、箪笥を開け、箪笥の底を少し削って加工すると、そこに隠しカメラを取り付けた。


『仕方ないとか言う割に、あの子の下着をまじまじと見過ぎじゃないのか?』


「っく……違うんだ……下着を見たんじゃないんだ。想像してしまっただけなんだ、これを着けている雪夏が、どのように活動しているのかを……」


『下着を見るよりもっとディープなのが返ってきたな……まぁ、悪さをしていないだけ、よしとしようか』


 不知は最後に雪夏の下着を一目見てから、雪夏の部屋を元あった状態に戻す。不知の完全記憶能力ならば、不知の侵入によって乱された部屋も、完全に、雪夏に全く違和感を抱かせない状態に戻すことができる。


 それは雪夏の部屋だけでなく、隠しカメラを仕掛けた他の場所もそうだった。故に、石透家の人間は、不知の行いに気がつくことはない。


「あのートイレってどっちに行けば……」


 不知がわざとらしく、迷った様子でキッチンにいる雪夏と冬姫に尋ねる。トイレを我慢していて、今動き出した、そんなアリバイ作りである。


 不知はトイレにいった後、石透家のもてなしを受ける。そこにいるのは雪夏と冬姫、不知、そして不知以外には見えないクロムラサキだけだった。


 不知は晩ごはんをご馳走になっている間、さりげなくダイニングを観察した。そしてある場所で目が止まる。


「ああそれ、お父さんの写真。そう言えば不知くんに言ってなかったよね……うちのお父さん四年前に、わたしが中学生の時に死んじゃったんだ」


 不知の目に止まったのは、雪夏の面影を感じる男の写真だった。不知は雪夏の母親である冬姫よりも、この父親の方が雪夏に似ていると感じた。


 冬姫はどちらかと言うと、キリっとした感じの、キレイ系の容姿で、雪夏はどちらかと言うと可愛い系、顔は父親の系統だった。


 と言ってもそれは顔の話であって、雪夏も冬姫もスタイルが良く、そこは似ている。ただ年季が異なる。


 冬姫は圧倒的な、豊満なバストを持っていた。雪夏は発展途上であり、まだこれからという所。


「そうだったのか。じゃあ今はお母さんと二人で?」


「うん、四年も経つと流石になれたよ。お母さんは、まだツライみたいだけど」


「知らなかったなぁ……俺も雪夏も、あまり自分の家の話を普段しないからな」


「この子はあの人に似てちょっと強すぎるのよ。私ぐらい引きずるのだって、別に普通だと思うわ」


 冬姫はため息とともに、少しわざとらしく、弱々しく振る舞う。中年のぶりっ子、キツイものがあるが、冬姫は見た目が若く、美しいので許されると思っているのかもしれない。


(なるほど、雪夏は母親が甘えてくると言っていたが、こういう方向性か……自分の弱さを受け入れて欲しい、気を遣って欲しい、そんな感じの。きっと、雪夏が父親に似ているというのが関係しているんだろう。雪夏の父の強さを、娘である雪夏に求めている……確かに雪夏からすれば鬱陶しく感じるだろう)


「そうですね……ショックなことがあると、自分ではどうにかして立ち直らないとって思っても、自分の思う通りに心が動いてくれなくて、中々難しかったりしますよね」


「不知くん、無理にお母さんに合わせなくていいんだよ?」


「いや無理なんてしてないよ。ただ俺も、そういうのがちょっと分かるってだけ……きっと、まだ時間がかかるんですよ。でもいつか立ち直れる時が来ますよ。目的を見つけられる、また歩き出す理由が見つかる」


「う、うぅ、黒凰くんは優しいのねぇ~……やっぱり雪夏のことは黒凰くんに任せるしかないわね」


「「えっ!?」」


 二人して素っ頓狂な声をあげる雪夏と不知、それを見て冬姫も笑って、彼女は少しの元気を取り戻した。


「あなた達はまだまだ進展しなさそうね。それはそうと、黒凰くん気をつけてね? さっきニュースで凶悪犯が逃げ出したってあったから」


「へぇ、凶悪犯が、まぁ俺は大丈夫ですよ。でもありがとうございます。気をつけて帰りますね」



◆◆◆



「凶悪犯の脱獄ね……」


『それがどうかしたのか?』


 不知は日課になってしまった筋ダルマへの餌やりを終えてから、自分の部屋で考え事をしていた。


「俺の記憶が正しければ、この時期に凶悪犯の脱獄なんてイベントはなかったはずだ……歴史が……変わっている。今のところ他に大きな変化は感じられない……でも俺がやったことと言えば、パーカーの男として筋ダルマを拉致したことと、スプリンクラーを直す時にやったあれやこれや……どこをきっかけに凶悪犯の脱獄なんて起こった?」


『それはつまり何者かの意志が関わってるということじゃないのか?』


「何者かの意志、となるとやっぱり、筋ダルマを拉致したからなのか? 筋ダルマを拉致した謎のパーカー男を、誰かが探している? けどそれならなんだって、凶悪犯なんかを……まさか、拉致という犯罪行為を行っても、未だに俺は……ヒーローだと思われているのか……? 犯罪者を暴れさせて、ヒーローを誘き出す……そういうことなのか?」


『ヒーローとして活動しないとか言っていたけれど、お前はしっかり学園の者たちを救っていたからな。お前、魔力ネットでなんて言われてるか知っているのか?』


「なんて言われてるんだ?」


『悪を裁くために手段を選ばないダークヒーロー! 謎のパーカー男、パーカーマンだってさぁ。はは、魔力ネットのあいつらの話だと、お前は筋ダルマを拷問し、闇組織を特定し、潰そうとしているらしいぞ』


「はぁ? まぁ、実際組織を特定してやろうとかは間違ってないが……なにやら無駄に期待されているみたいだな。けど……もし凶悪犯の狙いが俺だとするなら、ヤツが暴れることは罠ってことになる」


『そりゃぁ罠だろうさ』


 ──ズガーーン! ボガガァ!


 爆発音が朝と夜の境界で鳴り響く。


『どうするんだ不知、お前──見捨てられるのか?』


「馬鹿を言え、罠も貴重な情報源だろう。行くぞクロムラサキ」


『ふふふ、そうこなくっちゃぁね!』


 不知はパーカー男の衣装を身にまとい、街へと駆け出した。




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