牛no首
家紋 武範様企画
「牛の首企画」参加作品ですm(_ _)m
深夜、築40年を越す安アパートの庭で男が穴を掘っていた。
「大家さんがいいって言ったの、このあたりだよな」
視界が悪い、なにせ先程から雨があたり始めて、当然に雲に覆われた空からは月明かりも星明かりも照すことはない。
知り合いから譲って貰ったボロい軽バンのライトでどの程度掘れたかを確認した男はまず大きな袋を一つめの深く掘った穴にいれ、土をかけて踏み固め、何かを撒いていく。
そのあと、やや浅く掘った穴にゴロゴロといくつもの何かを棄てるように投げ入れた男は今度はほりかえした土を盛り上がるようにかけて、踏み固めることもなく、そうして軽バンを駐車スペースに停め直すとアパートの自室へと帰っていった。
そのアパートにはろくに入居者がなかった。
デザインが古すぎて、入居者がないために改修が追い付かず、既に老朽化で「住む」ことが出来ない部屋もある。今の数少ない入居者が出ていけば、壊して駐車場にでもしたほうがマシだと、半ば地主も思ってはいたが、赤字を垂れ流しても、思い出のあるアパートを生きてる間は存続しよう。そんな感じに放置されたアパートなのだ。
独居老人が数人と、貧乏画学生の男が一人いるだけのアパートには駐車スペースとは反対に植え込みもある庭があったが、そこにこんもりと土が盛られた場所ができあがったわけだ。
アパートが建てられた当初は新規の造成区で、人も多かったが、今や周辺の新たな造成区に人は移り、不人気のこの区画には独居の老人や、なにかしら事情を抱えたものしかおらず、管理されていない植え込みも伸び放題であった。
男が何かを埋めてから、1ヶ月以上はたった頃、時折、外に出ては軽く掘り返すところを目撃していた住人たちは、その行動を不審に思っていたし、何やら臭いしで、苦情をいれようかとも思うものの、男の不気味さに躊躇っていた。
大雨が降った翌朝のことだった。盛り上がった土が流れて、大量の白骨が見える。
悪くなった足腰を引き摺り、カーテンを開けてベランダごしにそれを見た老人が通報した。
「たっ…大量の白骨が庭に」
普段は物音のない、静まり返ったアパート周辺にけたたましいサイレンとともに赤色灯が踊り、何台ものパトカーがやって来た。
武装した警官隊に部屋に突撃され、任意と言いながら引き摺られていく男は叫んでいた。
「違うんですー、人骨じゃないんですー」
何が違うんだっ! そう怒鳴られた男の情けない声が響く。
「牛なんですって、屠畜場からもらった牛の頭なんです」
「そんなもん、何のために埋めたんだっ!」
男の怪しげな容貌、痩けた顔に伸びたシャツ、破れたジーンズに煤けたような見た目はまさか怪しい薬でも作ろうとしたのかと、周囲に訝しがられる。
「ただ、デッサンのモチーフに牛骨つくりたかっただけですってー、俺、美大生なんですーっ」
周囲になんとも言えない気まずさが漂う。
とりあえずと露出していた穴を掘り返すと、確かに10個ほどの白骨化した牛の頭が出てきた。
「これから漂白して、モチーフにする予定だったんです。大家さんにも許可もらって」
おどおどと話す男に、警官が通報者が深夜に埋めていたと言っていると聞く。
「いやー、牛の頭を埋めてる奴とか気味悪いじゃないですか、だから、人目につかない時間にやろうと、あれっ、見られてたんですかっ!」
自覚あったのか、という警官たちと野次馬の気持ちが一つになる。ついでにいうなら、そんな目立つことしてたら、そら誰か見てるだろうとも。
「まあ、許可を得てやってたなら、違法と言うわけでもないし、ただ、異臭とか、まあ怖がらせたりとかしてるから、謝罪はしっかりしなさいね。画学生とはいえ、成人なんだから」
その後もこってりと絞られた男の顔はさらに痩け、目も心なしか落ち窪み、牛骨そっくりだったとか、なかったとか。
庭のはじ、大輪の花を咲かせる向日葵の下は掘り返されることは無かった。
庭に牛の頭埋めて通報された話は
実は私の高校時代の先生の実話だったりします。
安く売り物にならない部位を譲って貰うついでに貰った牛頭を有効活用しようとしたそうです。
めっちゃ警察に怒られたって言ってましたね(笑)
感想お待ちしてますm(_ _)m