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4話

 命名から2年の時が経った。今は乗合馬車に揺られて迷宮街へと向かっている。理由としては簡単だ。俺を孤児院に捨てに行くのだ。俺は忌子だからな。自分で立って歩けるようになり、かつ親として完全に庇護状態となっていない今くらいの時期が捨てるのにちょうど良い時期なのだろう。最も、前世の記憶持ちの俺には当てはまらないが。


 しかして初冬の寒空の中、馬車で揺られることおよそ10日ようやく迷宮街にやってきた。迷宮街は迷宮を中心にして、栄えてきた町だ。貴族が仕切ってはいるが、産業としては探索者が迷宮の品物、ドロップアイテムをとってくることが主となっており、そのドロップアイテムの種類によってどの産業が発展するかといったものになっている。そして、迷宮街での産業として必ずあるのが魔道具屋だ。迷宮の魔物はみな等しく魔石をドロップする。必ずではないにしろ結構な確率でドロップするのだ。それを用いた魔道具屋が必ず存在し、迷宮の探索の供や生活水準向上の役に立っている。


 また、迷宮街には必ず探索者組合がある。探索者は12才以上であれば誰でもなることができる職業だ。…口が悪い者に言わせれば、あぶれ者の寄せ集めやら、盗賊紛いの傭兵など散々ではあるが、所謂最底辺の職業な訳だ。迷宮街を維持するには必要な職業だが、定職に就けなかった者たちの最後の希望が探索者という職業だった。


 もちろん、迷宮の奥深くまで潜れるものや、稀にある宝箱からお宝を見つけるものなど、成功者も探索者にもいる。強さを見込まれて商人の専属の護衛になったりだとか、宝箱から非常に優秀な魔道具を得て、騎士になった者もいる。しかし、90%が日銭を稼ぐのに必死な者たちなのだ。魔物を倒し、ドロップアイテムを売り、食い物屋で飲んだくれる。それが一般の探索者の姿だった。


 中立と謳う探索者組合も、依頼として戦争への出兵などもあり、貴族とは付かず離れずの関係なのもある。迷宮のドロップアイテムを得るよりも、傭兵として地方の小競り合いに出る方が実入りも良かったりするのだ。魔物相手か人相手か、結局のところ、金の良い方に人は流れていく。どちらにしても、安全には稼ぐことは出来ないのだ。


 因みにだが、この世界には、迷宮以外に魔物はいない。もし、外で魔物がいた場合は、誰かが迷宮から連れ出したか、迷宮街がなく管理のされていない迷宮から溢れ出した場合のみだ。その場合は、完全に騎士の領分だ。探索者の出る幕はない。探索者とは99%が迷宮に潜り、魔物を討伐する職業なのだ。


 そんな探索者の街に、孤児院がある。もうここまで言えば解るだろうが、孤児の就職先は探索者以外にない。孤児院を貴族が運営しているのも、優秀な探索者が騎士になってくれるだろう事を願ってのことだ。一生探索者をやるよりも、騎士になる方が安定した収入を得られるし、何より孤児院では騎士の素晴らしさや尊さを教え込まれる。故に、孤児たちは「迷宮で強くなり、騎士になる!」と夢を語る存在となるのだ。慈善事業など貴族がするはずもなし。所詮は利益ありきの砂金探しなのだから。因みに女は騎士にはなれない。騎士になりそうな有望な男と共に探索者となり、騎士に取り立てられたらそのまま結婚するのである。それが出来なければ娼婦になるしかないのだが。


 そしてそんなところに、騎士になんてなるはずないと思っている俺が捨てられるのだ。騎士賛美を聞かされるのは面倒な話だが、別に騎士にならなきゃいけないなんて訳でもなし。気楽なもんである。ただ、しっかりと探索者はやっていくつもりだ。…別に捨てられなくても、零細農家の4男坊にも探索者しか職が無いのは言わぬが花である。


 馬車を降り、孤児院へと向かう俺と親父。中世風といっても町並みは割と綺麗だ。馬の糞なんかが道に落ちていたりもするが、恐らく定期的に誰かが回収しているのであろう、それなりに見えた石畳の道路だ。寒村だと人糞は肥溜めを作って発酵させていたが、迷宮街には迷宮があるからな。迷宮からとれる魔石を用いた人糞や動物の糞を処理する魔道具が街の至る所に設置されていたはずだ。…何故か石炭のような、燃えカスさえ残らない燃料になるんだよ。訳わかんねえけど。


 そんな訳で、孤児院へとやってきた。院長先生と親父が何か色々と話しているが、無視して辺りを見渡す。立派な石造りの建物に若干驚きつつも、庭の方を見る。洗濯物を干している子供たちがこちらを見ながら作業している。男も女も関係なしに手伝いをしているが、小さな子供しかいないな。…12才までは孤児院に居れるはずなんだが、何処かに出ているのだろうか。しかし、孤児院に入ったら色々と仕事をやらされるんだろうな。覚悟しておかないと。今までは忌子だからと何もさせてもらえなかったからな。飯を食って寝るだけで良かったが、これからはそうも行かないだろう。


 親父たちの話も終わり、院長先生がこちらに話しかけてきた。優しそうな初老のばあさんだ。


「あなたは今日からこの院の子になります。よろしくお願いしますね。」


「はい、よろしくお願いします。」


 こうして孤児院の一員になるのだった。


 院長先生の案内の元、孤児院を案内してもらった。基本的には炊事洗濯なんでも自分たちでしないといけないそうだが、俺はまだ小さいから洗濯からだということを教わった。あとは、文字の読み書きと簡単な計算を覚えないといけないらしい。立派な騎士になる為には覚えないといけないそうだ。重要なことに、読み書き計算が出来るまでは、普通よりもおかずの数が減るとのことだ。…目の前に実利をぶら下げて頑張るように促すシステムを敷いているのか。なかなかに厳しい。


 あとは寝るための大部屋に案内してもらった。男と女の2部屋しかないらしく、すし詰めの様に寝ているのだそうだ。決して女の子の方に入らない様に言われたが、興味は無いので入らないさ。やたらに騎士になりたければ、騎士になりたければと騎士を強調しながら話をしてくる。そこまで言われなくれも分かっておりますと言ってしまいたいが、俺はまだ2歳児。常識なんかもわかっていない子供なのだ。しっかりと「わかりました。」と返事をしつつ、見学を続けるのだった。


 夕飯時、食堂で皆に自己紹介をした後に、食事をした。薄めの麦粥だった。寒村時代の食事よりは若干麦の量が多い。ただし、おかずが1品も無い。遠くの子の食事を見ると草団子が置いてあったり、粥に肉が入っていたりしていた。…なるほど。出来ることを増やさないと食事が改善されないというのは本当のことらしい。明日から頑張って読み書き計算を覚えよう。計算は数字さえ覚えてしまえば問題ない。読み書きも余裕とまではいかなくとも何とでもなるだろう。なんにしても今日はこれだけなのだからしょうがない。食事はなるべく早く改善したい、そう思った。


 食事が終わると、自分の使った食器を洗って自由時間だ。寝るまでの時間、何をやっても良いらしい。大きな子たちは裏庭で剣や槍を振るっている。小さな子たちは文字や数字の書いてある皮紙を見ながらうんうん唸っている。明かりは月明りだけなので見にくいだろうに。文字も数字もまだ全然なので、俺も剣を持って、裏庭で素振りをすることにした。魔力を常に体中を廻らせて身体強化を掛けているので、こんな小さな体でも剣を振れる。雷魔法は目立つから使えないにしても、身体強化は問題なく使える。…こんな小さな子供が剣を振っているだけでも目立つだろうが、少々のことは仕方ないと諦めよう。剣術を鍛える絶好の機会なのだ。やらないという選択肢はない。孤児院に入ったばかりの今の鑑定結果はこれだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ステータス

名前:トルステン

HP:25/25

MP:591/2451

スキル

・剣術Lv3

・雷魔法Lv5

・回復魔法Lv21

・索敵Lv8

・鑑定

・アイテムボックス

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 我ながらMPお化けになっていそうな感じはするが、毎日回復魔法を使って枯渇させていたらこうなったのだ。MPが減っているのは、馬車に乗っているときから身体強化を行っていたことと、馬車に降りてから色々と痛かったので回復魔法を使ったからだ。今では一日中身体強化を使っていても魔力が切れることは無くなってしまっていた。体中を廻らせるだけなので、それほど外に放出されないのだ。ただし、体を使えばその分MPを喰う。筋力の代わりに魔力を使っているという考え方のようなので、筋力を使わなければ、MPもそこまで減らない。戦闘なんかをやっていれば、あっという間にMPが無くなりそうな気がするが。迷宮に潜れるようになるまで、なるべくMPを増やしていかなければならないな。そう思いながら、剣を振り続けるのだった。


 1時間も経ったころ、夜も更け、そろそろ寝る時間らしい。剣の素振りを終えて、水で顔を洗いながら、男の子部屋へと向かう。もう寝ている子もいれば、これからの子もいる。何処で寝ようかと思っていると、年少組が固まっている場所がある。どうやら奥から小さい子供の場所のようだ。入り口に積んである皮の掛布団を持っていき、床で眠る。そして、日課の魔力枯渇のために、回復魔法を使い切り、気絶するように眠りについた。


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