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ふぁみりあでいずっ!  作者: 螺子川くるる
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第四話 坂鳥陽色の魔術適性

 学園長は机に置いた紙切れを指で弄びながらこちらに視線を向ける。


「この紙には特別な術式が施されていてね。魔力を注ぐと本人の適性が紙に浮かび上がるようになっているんだ。情報は基本的に『魔力量』『魔術回路』『属性』の三つに分かれているんだけど……取り敢えず各々について簡単に説明してもいいかな?」


 少し戯けたように学園長は微笑む。ただ、その余裕な態度とは相反して、何故か瞳は爛々と輝いており、少し前傾姿勢になっていた。


 年上に対してこんな考え方をするのは失礼かもしれないが、そんな少年のような姿をほほえましく思い、思わず笑みをこぼす。


「お願いします」


「ではまず魔力量についてだけど、これはそのままの意味で、個人が持つ魔力の量を示している。魔術を行使する際に必要となる力で、これが大きければ大きいほど強大な魔術が使えるし、持続力も増える。目安としては、そうだなぁ……」


 学園長は紙から指を離し顎に手をやった後、ちらりとご主人様の方へと顔を向けた。


「一年生の……オペラ君の学年だと五百から一千辺りが平均だったかな?」


「はい、そう聞いています」


「成程」


 よくわからないがとりあえず返事をしておこう。


「数字だけだと何が何だかって感じだよね。じゃあ私の右手を見ていてくれるかな」


 そう言って手のひらを上に向けると、その中心に火が灯る。綺麗な光だ。恐ろしいイメージを抱くこともある火だが、目の前に灯ったそれはどこか温かみがあり、その周囲に煌めく微細な粒子と手のひらから出すという非現実的な状況が相まって、幻想的な光景を作り出している。


「おおっ!」


「どうだい? 綺麗なものだろう?」


「はい! でもそれ熱く無いんですか?」


「自分の魔力だからね。見た目より熱く無いんだよ。これくらいだとほんのり温かいって感じかな。まぁそれはそれとして本題に入ろうか。今私が出している火だけど、どれくらいの魔力が使われていると思う?」


「ええと……十くらいですかね」


 頭にパッと思い浮かんだ数字を学園長に告げる。


「残念ハズレだ。知識もないのに答えろというのも難しい話だけどね。答えは一、たったの一なんだよ」


「え……」


「驚いたかい? 継続しているからその分魔力も使っているんだけど、魔力量が五百もある生徒なら後何百回と火を出す事ができるんだ。そう考えると結構なものだろう? 初級の魔術師がよく使う魔術に、火球と呼ばれる火の球を相手に飛ばすものがあるんだけど、これは六の魔力を消費して発動する魔術となっている。この場合でも単純計算で八十発の火球が放てることになるね。──因みにこの大陸の一般的な魔力量は百だ」


「ここの生徒めちゃくちゃ優秀じゃないですかっ!?」


 学園長が放った言葉の事実に思わずソファから体が持ち上がる。一般人の五倍以上。それがどれほど凄いことなのか、魔力の無い世界からやってきた僕でも流石に理解出来る。


「ふふん! そうだろう、そうだろう!」


 僕の態度をいたく気に入ったのか、学園長は誇らしげに胸を逸らしで自慢げに笑みを作る。


「とまぁ魔力量についてはこんな感じかな。次は魔術回路についてだけど、これは一度に込められる魔力量と発動する魔術の工程数の値になっているんだ。これも実践したいところだけれど……」


 学園長は周囲を見渡した後ため息を吐いた。


「汚すと後で私が怒られてしまうからね。口での説明だけに留めさせてもらうよ。うぅんどう説明しようかなぁ……そうだ、さっき灯した火のことを思い出してもらえるかな? あれは一の魔力を込めた魔術だって言ったけど、もし仮に十の回路があれば、あれを十倍の大きさにする事ができるんだ」


「十倍ってなると結構な大きさになりますね」


「そうだね。ただこっちに関してはそこまで気にしなくても大丈夫だよ。頭の中に留めておいてくれればね。大事なのはもう一つの方」


 学園長は指を一本立て、僕の方へと向ける。


「工程数……でしたっけ?」


「その通り。じゃあ工程数に関してはさっき例に出した火球で説明しようか。火球は六の魔術を必要とすると言ったね? 魔術は工程を踏むごとに必要魔力が一ずつ増えていく仕組みになっていて、火球の場合は『火』を『圧縮』して『放出』するという三つの工程を踏んでいるから六の魔力を必要としているんだ。一+ニ+三で六という計算だね。つまり回路の数が多ければ多いほど、より高度な魔術を使う事ができるんだ」


「成程」


「じゃあ最後に属性について説明しよう。属性に関して説明することは三つ。まず一つ目は『基本属性』について。これは単純に属性と呼ばれているもので、種類としては七つある。一つは誰もが扱う事ができる『無属性』。次に四代精霊が元になったと言われる『火属性』『水属性』『土属性』『風属性』の四つ。後は上位属性と言われる『光属性』『闇属性』。この中から無属性を抜いたいくつかの適性が紙に表示されることになる。ウチの生徒だと大体一から三種類程度の適性を持っているね」


「学園長の場合は火属性の適性があるってことですか?」


「そうだね。他には土属性と光属性が使えるよ。特に私の家は土属性の権威でね、生まれる人間の殆どが土属性に適性があるんだ」


「へぇ、じゃあ学園長は三属性も使う事ができるんですね」


「えっと、その……学園長は──」


「おっともう時間が無くなってきたね。最後は一気に説明しようか」


 学園長はご主人様の言葉を遮るようにして話を進める。


「残りは『特異属性』『複合属性』と呼ばれる属性についてだ。まず特異属性についてだけど、これは基本属性が変化したものでね。例えば火属性の特異属性には『爆破属性』と呼ばれるものがあるんだけど、これは燃やすことよりも破壊することに特化していて、通常の火属性とはまた違った使い方ができるのが特徴なんだ。複合属性も似たような感じなんだけど、こっちは基本属性の二つが合わさったものでね。例えば水属性と土属性の二つが合わさったものとして『植物属性』というものがある。これはその名の通り植物を操ったりできる属性なんだ。このニつに関しては生まれた時から持っている人もいれば、努力して手に入れた人もいるんだよ」


 おそらく学園長はこのどちらかの属性を所持しているのだろう。先程オペラの言葉を堰き止めたのは、後で驚かせる為ではないだろうか。


「……とまあ、ここまでが基本的な知識として抑えておいて欲しい部分になるんだけど、何か質問はあるかな?」


「いえ、今のところは大丈夫です」


「よし! じゃあ早速ヒイロ君の適性を見てみよう!」


 学園長は席を立ち、僕の後ろに回ると背中にゆっくりと手を当てる。


「魔力の流し方がまだ分からないだろうから、今回は私がサポートさせてもらうよ」


「お、お願いします」


 緊張からか体が震えてしまう。


「ふふっ、私も初めて自分の適性を確認することになった時は緊張したなぁ。大丈夫。まずはゆっくりと深呼吸をするんだ。君に何か特別な事をしてもらう必要はない。だから安心して、心の準備が整ったら声をかけてね」


 一度目を瞑り、言われた通りにゆっくりと深呼吸をする。自分の中である程度落ち着きを取り戻した後、ゆっくりと瞼を開けた。


「もう大丈夫です。お願いします」


「じゃあ、行くよ」


 学園長の手が淡い光を放ち、僕の全身を優しく包み込む。光は時間とともに染み込むようにして体の中に入り込み、その輝きを消した。


「準備は出来た。手のひらに意識を集中しながら紙に触れてごらん」


 言われた通りに手をかざす。すると何の変哲もないただの紙切れが、先ほど全身を包み込んだ光と同じように淡く光を放つ。そして紙の周囲に金色の模様が現れ、誰かが文字を書いているかのように、上から順番に文字が浮かび上がってきた。


「おお! 凄いじゃないか!」


「ええと……すみません。これはなんて書いてあるんですか?」


「もしかして異世界には文字は存在しないのかい? それともヒイロ君の生活していた環境では……いやすまない、何でもないよ」


「いえ、そういうわけではないんです!」


「僕の世界にも文字は存在するんです。ただ、知っているどの言葉とも一致しなくて……まぁ、不勉強なだけかもしれないですけど」


「あ、あぁ成程、そう言うことか。すまないね。つい余計な事を考えてしまったよ。私は好奇心のあまり頭で思った事を口にしてしまいがちでね。よく周りから怒られるんだ。何でも口にしてはダメだ、もっと考えてから物事を喋れ、とね。これでも三十過ぎたおじさんなんだけどね。でもそうか、言葉が通じるからここら辺はたとえ異世界でも共通なのだと思っていたのだけれど……よし! なら私が読み上げてもいいだろうか?」


「お願いします!」


 学園長は対面にあるソファへと戻り、腰を下ろす。そしてテーブルに置かれた紙に手を伸ばして読み上げた。


「まず魔力についてだけど、数値は八百だね」


 ご主人様の学年は五百から一千。平均が七百五十だとすると、それよりも少し上の数値となる。何の努力もせずにこの数値が出たということは、僕には魔術の才能があると言っても差し支えないのではないだろうか。


 知らず知らずのうちに口元が緩む。


「魔術回路は十八、そして適性のある属性は……」


 ごくり、と頭の中に唾を飲み込む音が響く。


「光と水」


「二属性!? しかも光属性って上位属性って言われてるやつじゃないですか!」


 全体的に平均の少し上、しかも基本属性の中でも上位と言われる光属性を扱える。あぁ、もしこの場に誰もいなかったら小躍りしていたかもしれない。


「驚くのはまだ早いよ」


「え?」


「──君には治癒属性の適性がある」


「治癒、属性……?」


「そうだよ。さっき説明した特異属性と複合属性。この二つのうち治癒は複合属性に分類される魔術で、言葉から分かる通り人を癒す力があるんだ。持っている人は非常に少ないから、この結果は大当たりと言っても良いんじゃないかな。因みに察しているとは思うけど、治癒は光と水の複合属性だよ」


「いいなぁ、私なんて火属性だけだからヒイロが羨ましいよ」


 学園長の説明にオペラが声を漏らす。


「治癒は治す力だからさ。この力はご主人様のために使うよ」


「うん、ありがとう」


「この紙は持っていって良いよ」


 様子を見ていた学園長が声を上げる。


「良いんですか?」


「うん。せっかくなんだ、記念に持って帰ると良い。ただ、君の能力値については学園に報告させてもらうよ。一応人間とは言え君はオペラ君の使い魔だからね。構わないかい?」


「はい、大丈夫です」


 学園長から紙を受け取り、四つ折りにしてポケットへとしまう。


「じゃあ今日はここまでとしようか。長々とすまなかったね」


「いえ、こちらこそありがとうございました。色々教えていただいて大変勉強になりました」


「そんなに喜ばれるような事じゃないよ。いずれ誰かが教えてくれていただろうしね。また暇な時にでも遊びにきたまえ。その時はとっておきの魔術を見せてあげよう」


「はい! その時はよろしくお願いします!」


 学園長に一度頭を下げ、ご主人様とともに部屋の外へと向かう。


「あぁそうだ。今日は二人ともこのまま帰りなさい。今は授業中だから他の生徒から好奇の目で見られることもないだろう。担任には私の方から伝えておくよ」


「はい、では失礼しました」


 そう言って、僕たちは学園長室を後にした。

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