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ふぁみりあでいずっ!  作者: 螺子川くるる
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第三話 学園長

──召喚陣から人間が召喚された。


 この情報はまだ授業中にも関わらず学園中に知れ渡ってしまったらしい。どうしてそうなったのか。理由は単純だ。僕のご主人様が引き起こした召喚陣の暴走である。


 急速に高まる魔力と巨大な光の柱に驚いた教師たちは事実確認のために、緑色に輝く通信用イヤーカフを通して連絡を取り合っていた。そしてそこから漏れ聞こえた「人間を召喚した」という言葉が授業を受けていた生徒たちの耳にも届き、一つの噂として全校生徒が知ることとなったのだという。


 中には一目見ようと授業を抜け出す者もいたらしいが、教師陣に捕まり強制的に教室へと戻されていた。そんな教師陣の活躍もあり、僕とご主人様の二人は学園長室まで観衆の目に晒される事なく無事辿り着くことができていた。


「話を聞きたいって言われてもなぁ」


 濃い茶色を基調とした重厚な扉の前で腕を組み、小さく呟く。

 

 ご主人様の召喚の儀が終了した後、儀式を指揮していた教師の元に一本の連絡が入ってきた。内容は騒動の発端となった人物から話が聞きたいというものであり、その連絡相手というのがこの学園における最高責任者、バルバフ・ウルスタリオという男だった。


 学園長……か。


「ど、どうかしたの?」


 僕の態度を疑問に思ったのか、隣にいたご主人様が心配そうに僕に尋ねる。


「いや、学園長って言葉に緊張しちゃってね。ご主人様は面識あるの?」


「……少しだけ。でも殆ど会話したことないから、私もちょっと緊張している……かな。学園長室に呼び出されることなんて今までなかったから。あっあと、ここに来る途中でも言ったけどオペラで良いよ。ご主人様は……ちょっと恥ずかしいから」


「そっかぁ……まぁ僕も高校で校長と話したことなんかなかったし、案外そんなものなのかも知れないね」


 頬を赤く染め、ご主人様は僕に名前で呼ぶように言ってくるが、そんなものは無視である。いや、これは別に意地悪をしているわけではない。僕の人生において、僕が記憶する限りにおいて、女の子を下の名前を呼んだことなど一度もないのだ。故にそのハードルはとても高く、言われてすぐに実行できるものではないのである。思春期の男の子をなめないで欲しい。


「よし、ならこうしよう! この扉はご主人様が開けるんだ」


「えっ!?」


「いやぁ、僕もおかしいとは思っていたんだよね。ご主人様を差し置いて自分が先頭を歩くとかさ。ごめんね? まだちょっと浮かれていたのかも知れない。でもこれからは違うよ? 主の三歩後ろを歩き、常に主を立てる。僕はそんな使い魔になってみせる!」


「い、いや……そのっ!」


「大丈夫! ご主人様なら完璧にこなせる筈さ!」


 親指を立て、白い歯をご主人様に見せつける。


「ううっ……わかったよ」


 困惑しているご主人様もかわいいなぁ。


「じゃ、じゃあ……開けるね?」


 ご主人様はあきらめて一度ため息を吐いた後、僕と場所を入れ替えるようにして前に立ち、扉をノックする。


「入りなさい」


 中から声が聞こえた。男の声である。ご主人様は一度僕の顔を確認して目で扉を開ける合図をしたあと、金色のドアノブに手をかけ扉を押し開ける。


「しっ、失礼します」


 入室したご主人様に続き一度頭を下げた後、学園長室の中を見渡す。


 目の前には大理石でできた楕円形のテーブルがあった。左右には革製の四人がけソファがあり、その後ろに設置された木製の棚には様々な資料や書籍、トロフィーなどが飾られていた。棚の上あたりには歴代学園長の写真が額縁に入れられており、その数から今代の学園長が七代目であることが分かる。そしてこの部屋の一番奥。そこには木製の大きな机と革製の椅子に鎮座する壮年の男がいた。


「やぁ、よく来たね」


 男は目尻を下げて僕たちを歓迎する。


短い金髪に意志の強さを宿す蒼い瞳をした男だ。綺麗に整えられた髭と装飾の施された高価な黒いスーツが、その男に貫録と落ち着きを与えていた。多分この人物こそが、ウラスタリオ魔術学園に於ける最高責任者、学園長バルバフ・ウルスタリオ。


「あまり緊張する必要はないよ。二人ともそこのソファに座りなさい」


 学園長にそう促された僕たちは静々とそれに従いソファに腰を掛ける。反対側のソファには学園長が座り、興味深そうにこちらを見ている。そのまま誰一人として言葉を発することなく時間が経過し、それに耐え切れなくなったご主人様が口を開いた。


「あっあの! すみませんでした! 私が召喚陣を暴走させたせいでご迷惑をっ!」


「ん? あぁ、気にしなくていいよ。わざとやったわけではないのだろう? ならば私が君たちを叱ることはない」


 学園長は何でもないことのように言う。


「で、でも召喚陣が……」


「ロイエブールの秘術なんて言われているがね、結局ただの術式に過ぎないんだ。校庭では今頃普通に召喚の儀の続きをやっているよ。だから君はそんなに心配しなくてもいい」


「は、はい……」


「そんなことよりも、だ! 私はそちらの少年に興味があってね! 話を聞いたときは驚いたよ、召喚陣から出てきたのだろう? 色々と話を聞かせてほしいんだ!」


 学園長は目を少年のように輝かせてそんなことを言う。


「おっとすまない、まずは自己紹介といこうか。私はここで学園長をしているバルバフ・ウラスタリオだ」


「僕は坂鳥陽色と言います。陽色の方が名前になります」


「よろしくね。これからはヒイロ君と呼ばせてもらうことにしよう。それでさっそく質問なんだが、君は他の大陸から召喚された人間、と言う風に考えていいのかな?」


「いえ違います」


「違う? だがこの大陸に君のような人種はいない筈……まさか御伽噺に出てくる天空の国や地下帝国の住人だとでも言うのかい?」


「そ、そうじゃなくて!」


「では一体……」


「あぁ、そのぅ……何と言いますか、多分なんですけど、僕は異世界から召喚されたんだと思います」


「なっ!? なにぃいいいいぃいいいぃいいっっっっ!?!?」


 学園長はソファから飛び上がり、両手をテーブルに叩きつけ興奮気味に顔を近づけてくる。


 ちょっと怖いです。


 ほら、ご主人様も驚いちゃってるじゃん。目を見開いてこっち見てるもん。


「あ、あの……落ち着いてください学園長」


 僕は顔をのけぞらせて距離を取る。


我に返った学園長は頬を少し赤くし、恥ずかしそうに佇まいを直した。


「すっすまない、私としたことが年甲斐もなく興奮してしまった。しかし、しかしだよヒイロ君、何故異世界なんだい? 確かにここは君の住んでいた場所とは違うのかも知れない。だがそれだけでは別大陸から来たという可能性だって捨てきれない筈だ。もしかしてだが、何か根拠になるものでもあるのかな?」


 この世界と地球で違うものはいくつもある。そもそも地球にはロイエブールと言う名前の国は存在しない。カラフルな髪の学生も、使い魔も。そんな中でも一番の、根本的な違いは……


「ないんですよ。僕の住んでいる世界に──魔術は」


 ガタンッ


 大きな音が響き渡る。音の発信源を確認すると、隣でご主人様がその場で立ち上がり僕の顔を見つめていた。


「えっ何? ご主人様も異世界とか興味あったり、するの?」


「そ、そうじゃないの、ちょっと驚いちゃって……」


 ご主人様は何事もなかったかのようにソファへと腰を下ろし、学園長の方へと視線を向ける。その姿をなんとなく不審に思うも彼女に倣い前を向くことにする。


「いやしかし、オペラ君ではないが私も驚いたよ。まさか魔術の存在しない世界があるなんてね。俄には信じがたい話だが、ここで君が嘘をつく理由もないのだろう? てっきり私は太陽の数や、空の色が違うんじゃ無いかと踏んでいたんだがね」


「見える景色は同じでしたよ。燦々と照りつける太陽も、青く澄み渡る空も」


 今までに見た記憶を思い返しながら、そう呟く。


「そうか、それは良かった」


「そうですか?」


「そうだよ。だってそうだろう? 見えている景色が同じなら、私たちは同じものを見て、同じものに感動できると言うことだからね。だったら君は絶対に魔術の美しさに感動する筈さ。私はその事がすごく嬉しくてね」


 学園長は目尻を下げ口元を緩める。


「学園長は、魔術がお好きなんですね」


「あぁ、大好きだとも。これだけは胸を張って言える。世界中の人間が魔術を嫌いだと言っても、私だけは好きだと言い続けられるくらいにはね。──そうだ!」


 何かを思いついた学園長は徐に立ち上がり、机の中を漁り始める。


「あった! これだこれ」


 そう言って取り出したのは一枚の紙切れ。その紙には何も書かれていない。


疑問に思った僕の顔を見た学園長はニヤリと笑い、テーブルの上にその紙を置いた。


「何ですかその紙は?」


「簡単に言ってしまえば君の適性を見るための紙だよ」


「え?」


「ヒイロ君、自分がどんな魔術を使えるのか──知りたいとは思わないかい?」

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