逃げられない、始まらない
俺は、バスに轢かれて死んでしまったようだ。
意識はふわふわとしていた。
何もない空間をゆらゆらと漂う。
気が付くと俺は広い草原の真ん中で、寝そべっていた。
驚きのあまり俺は、声を失った。
いや、本当に声を失ったのだろうか?
自分の声が聞こえない。
聞こえるのは、誰かの可愛らしい少女の声。
しかし、その声の主はすぐに自分自身だということが分かった。
悠爾「何だ、この可愛い声・・・」
自分自身の体を見ると、見慣れない小柄な体だった。
身に着けている服も可愛らしいドレスのようなものだった。
声、姿、服装、この三つから俺が導き出した答えは一つだった。
悠爾「転生したのか・・・?」
どうやら、街の近くにある草原だったようだ。
俺はとりあえずその街に向かった。
悠爾「しっかし転生したとしても、どうして草原何かにいたんだ?普通なら赤ん坊からスタートなのかと思ってたのに・・・」
街へ入ると大勢の人でごった返していて、全くと言って良いほど進むことが出来そうにない。
それでも俺は情報収集の為、人混みをかき分けて進むことにした。
悠爾「何だよ、この人混みは!何か祭りでもあるのか?」
かき分けて進んでいても、入ってきた門は全く遠ざからない。
それどころか逆に押し返されて、門まで押し戻される。
悠爾「クッソォ!ダメだ!進めない!」
こうなったら一気にどかしてやる!
そう思って、息を思い切り吸い込む。
悠爾「全員、道を開けろ!!!!!!!!!」
そう叫ぶと、人々は一斉に俺の方へと視線を合わせた。
すると、それぞれ表情を変えながら、ある街人は呟いた。
「**********************」
呟いた、と言っても日本語ではなく、どこか違う国の言語を話しているようだ。
悠爾「はぁ?お前、何を言っているんだよ?」
自分が何も分からないのに、なりふり構わず話しかけてくる。
悠爾「ダメだ、話にならん!とにかくここは一旦走り抜けよう!」
そう言いながら俺は集まる人々を掻い潜り、全力で走った。
しばらくの間、走り回っていると突然何かにぶつかる。
すぐに確認すると、鎧を身にまとった騎士のような人物だった。
「**********************」
やはり、日本語ではない未知の言語のようだ。
だが表情から読み取ると、俺自身のことを心配しているかの様子だ。
俺が一体この世界でどんな人物なのかも気になるところだ。
悠爾「なあ、俺は一体この街の何なんだ?」
通じないとはわかっているが、一応聞いておく。
「**********************」
身振り手振りから考えると俺、というかこの体の主はこの街の姫らしい。
と言っても、あくまでこれは俺の考察でしかないのだが・・・
身に着けている衣服やネックレスなどが特徴的なデザインをしており、持っていた高価そうなペンダントには城壁に描いている星の紋章と同じものが描かれているため、この城にいる人物の関係者であると考えたわけだ。
まだ確定したわけじゃないから、分からないことは置いておこう。
本当に姫であるというなら向こうに見えている城に、普通に入ることが出来るはずだ。
悠爾「一度、あの城に向かってみるかな・・・」
城と言っても、すぐ目の前にあるため、迷うことはなさそうだ。
実際に、迷うことなく城の入り口までたどり着くことが出来た。
城に着くなり、大勢の兵士らしき人たちが駆け寄り、俺に対して何やら話しているが当然分からない。
これからは、一度この世界の言語を勉強する必要がありそうだな。
とりあえず、ここは自分(姫)の部屋に籠ってやり過ごそう。
俺は、たくさんの兵士たちに何かを言われていたがそんなことも気に留めず、逃げるように城の一番奥の部屋に潜り込んだ。
潜り込んだその部屋は、数多くの本が並ぶ書庫だった。
悠爾「此処は、書庫か?それなら、本に書いてある文字で何処の国か分かるかもしれない!」
俺はすぐに近くにあった本棚の中の一冊を無造作に取り出し、本を開いて軽く読むことを試みる。
読んでみると、文字とは言い難い記号らしきものが並んでいた。
悠爾「まだ、象形文字とかの時代なのか?でも、この形、アルファベットにそっくりだな・・・」
俺は死ぬ前に、英語検定は一級を取ってたから読め・・・
読めない・・・
悠爾「読める読めない以前にこの本は文字がかすれまくっていて、全く分からない!」
それなら、別の本には読める文字で書いてあるのだろうか。
そう思って、すぐに別の本をいくつか取り出し順番に見て行った。
その中でも、一番綺麗な書物を見つけた。
その中の文字は、完璧に英語だった。
つまり、この世界の言語は英語であるということだ。
これで、一つ問題は解決した。
悠爾「次は、どうしてあんな草原の真ん中で寝ていたのか調べないと。」