正夢マシーン
「よし、完成ぢゃ!」
「やりましたね、博士!」
「うむ。これぞ、世紀の大発明《正夢マシーン》ぢゃ! このマシーンを装着して夢を見ると、それが現実になるという画期的な装置なのであ~る!」
「まさに “夢のような” マシーンですね!」
「ほっほっほっ、上手いことを言いよるな」
「それでテストの結果は?」
「ワシがこの《正夢マシーン》で寝たところ、これが大々的に発表されて一躍有名人になり、ノーベル賞も授与するという夢を見た! これが正夢かと思うと、これからが楽しみぢゃわい!」
「ちょ、ちょっと待ってください、博士! それでは、まだ《正夢マシーン》の実証実験になっていませんよ。ノーベル賞なんて、いつになるか。すぐに結果が分かるような夢でないと」
「それもそうぢゃなぁ……」
「では、今度はボクが被検体になってみます。ちょっと三時間ばかり使わせてください」
三時間後――
「どうだね、青木くん? 何か夢は見られたか?」
「ええ、博士! 朝起きて、アパートの玄関を出ると、そこに大きなジュラルミンのケースが置いてある夢を見ました!」
「ほう、して中身は?」
「ケースを開けてみると、中にはぎっしり詰まった一万円札の束が……多分、一億円は下らないでしょう」
「一億とな!? それはスゴイ! これが本当に正夢になったら、キミは一気に金持ちぢゃな!」
「はい! 明日はその一億円を持って、研究室に来ますよ!」
翌日――
「……博士。どうやら、この《正夢マシーン》は失敗作のようです」
「何ぢゃと!? 一億円は手に入らなかったのか!?」
「ええ。ずっと朝まで起きて、玄関を見張っていましたが、誰もジュラルミンのケースを置いて行ったりはしませんでした。それは確かです、博士」
「ん? キミは一晩中、起きていたのかね?」
「そうですよ、当り前じゃないですか。何たって、一億円ですよ! 誰かがボクよりも先に持って行っちゃったら大変じゃないですか。だから、ずっと見張っていたんですよ」
「……どうやら、失敗だったのは《正夢マシーン》ではなく、キミの方だったようだね」
「ど、どういうことですか、博士?」
「キミが見た夢を、もう一度、よく思い出してみるがいい。昨日、キミはこうワシに話してくれた。『朝起きて、アパートの玄関を出ると、そこに大きなジュラルミンのケースが置いてある夢を見ました』と」
「はい、そうです。間違いありません」
「しかし、キミの取った行動は《正夢マシーン》で見た夢と違っていた。それはキミが寝ずに、一晩中、起きていたことだ。そのせいで朝起きることが出来ず、それゆえ、一億円も置かれなかったのだよ。キミは朝まで寝ているべきだったんぢゃ。――ほれ、『果報は寝て待て』と言うぢゃろう?」