第三話 まんぷく、まんぞく、ギルドに到着!!
「むにゃ・・・もう食べられない・・・。」
実に実に平和な、ありきたりな夢を見ている。
「ふごっ」
小柄な女の子に、おおよそ似つかわしくない唸り声を一瞬あげ、クルミは目を覚ました。本当に、彼女の他に人がいなくて良かった。
「あれ・・・? ここ・・・?」
口元のヨダレを拭い、寝ぼけ眼で窓を見る。
『終点 ハインリッヒ駅』
気づかないうちに終着駅に着いていた。満腹になったせいで、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
旅の道中を楽しみにしていただけに、ちょっとばかし残念だったが、そこはそれ。お弁当のゴミをきちんと片付け、忘れ物がないかもしっかりと確認する。
車窓に映る自分を見る。ぐっすりと寝ていたから、後ろ髪がハネてしまっている。ギルドについたらブラシを買おう、なんて考えながら、ひとまず手櫛で髪をなぞる。
睡眠よし(うっかり余分に寝てしまったが)。
空腹よし(行きにパンをおいしく食べてしまったが)。
髪型よし(後頭部がいささか、ボリューミーではあるが)。
服装よし(お弁当のタレをこぼしたが、ローブで隠れるので気にしない)。
そして、クルミは手のひらに少し力を込めた。体温が、血流が、掌の中心に集中する感覚。じんわりと熱を帯びた、靄の渦を思い浮かべる。数秒後、そのイメージが、小さく、優しい光を放つ球体となって、それは具現化した。
「魔術よし!」
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クルミの思ったとおり、外は結構暑かった。駅からギルドが近くて助かったというものだ。服装のせいもあるが、少し歩いただけで汗をかいてくる。幸いにもクルミの街より、背が高い建物や、街路樹があるので、日陰が多い。クルミは一休みしながらギルドへ進むことにした。
やはり王都というだけあり、クルミの街以上に賑やかだ。冒険者向けの店もたくさんあるので魔術師(見習い)に必要なものは一通り揃いそうだ。それにパン屋、服屋なんかも充実している。
レンガ造りの駐在所では、傭兵がうつらうつらとしていた。
ギルドへ加入の手続きを済ませたら、宿も探さなくてはならない。王都なので家賃は高いのだが、ギルド加入者には割引があるのだ。それでも安いに越したことはないのだが。
クルミが日陰から日陰へ、さっ、と移動している間も、王都の兵士や行商人と何回かすれ違った。クルミがあまりに機敏に動くのでヘンな目が見られたが。とかく十四歳の女の子が住むには治安も良さそうだ。
八つ目の日陰を過ぎて数十歩、クルミが足を止めた。疲れたわけではない。目的地に着いたのだ。
大きな看板が掲げられており、クルミの身長では見上げなければ、全貌がよく見えない。
念のため、少し背伸びをして、その名前を確認する。
『冒険者ギルド クレアズ・ギルド』
「はぁぅ・・・。」
クルミが思わず期待と安心、そして嬉しさの入り混じった声を漏らす。
ここがクルミの憧れ。
誰もが一度は夢見る、英雄譚の始まりの場所。
看板から目を離し、目的地を見据える。
弾みそうな右足を、一歩、踏み出す。
その時。
「えっ・・・?」
看板と安心感に気を取られていたせいで、気が付かなかった。
自分の目の前に、体育座りで全裸のマッチョがいることを。