おまけ1:×××のしつけ方「取引」
※黒い獣注意報
男が好きな鬼畜が出てきます。BL表現注意です!
静かにジャズの流れる店内。雰囲気とは裏腹にざわめく客達。その喧騒から離れ、ほどよく薄暗いバーのカウンターで私は…。
一人の男を待っていた。
カランコロン。
バーの扉が開き、一人の男性が店に入ってくる。
――いや、一人ではないが。
馴染みの店主にウォッカの水割りを貰っていると、隣に腰掛ける気配がした。
「悪い、待たせたな」
「別に…」
ちらりと男を見る。
彼は整った顔立ちをしていた。美形と言ってもいいほどに。
…だが、その目付きの悪さがすべてを台無しにしている。
色素の薄い水色の瞳。冷酷であることを隠そうともしない冷たい眼差し。
黒い髪をかきあげながら彼は言葉を続ける。
「ちょっと調教に手間取ってな」
「いや、そんなことは聞いていない」
まったく、待ち人来たる…のだがあまり関わりたくない人物だ。
「…えっと、座る?」
彼の後ろにいる人物に話しかける。
「気にするな。空気だと思え」
「…」
思えるか!!
彼の後ろに立っている男は、隣に座っている酷薄な男よりもさらに整った顔をしていた。
…していると思う。口枷をはめているので良くわからないが。
…薄暗い店内だから目立たないが、拘束具をつけた姿は完璧に不信人物だ。美形だからこそ余計に。
まぁ、あまり余計なことに突っ込んで墓穴を掘りたくない。さっさと用事をすませてしまおう。
「頼まれていた契約書、三人分」
「ああ、悪いな。こんな術の込められた契約書、お前ぐらいしか作れないからな」
渡しに来たのは「魂の契約書」
…本来、王族付きの術士しか作れないもの。
だが、私を育ててくれたじいさんが元術士で、色々なことを教えてもらった。普通の孤児では教えてもらえないような様々な知識を。
私がある意味知られているのは、そのことも大いに関係していた。
「最近、多いな。アリレス国の捕虜は良いのが多かったのか?」
彼のお眼鏡に適うものが。…強くてプライドの高い美形という条件に適うものが。
「ああ、小国ながらも統一された騎兵隊だったからな。強い上に俺好みがいっぱいだ」
本当にうれしそうに笑う。……傲慢で冷酷な悪魔の笑み。
奴は捕虜を自分好みに調教する。忘れられないよう、抜け出さないよう体に覚えさせて。最後の仕上げに魂まで縛ってしまうのだから、このサドっぷりはこの国一だ。
「ほら、代金だ。また頼むよ」
ずっしりと重い金貨の入った袋。…中身は確認しない。この男は酷い人間だが、払うものは払う。
「ああ、それよりも調教済みのを渡そうか?」
「…いらん!」
「踏んでも蹴っても嬲ってもいいやつ」
「いらないと言っているだろうが!!」
「…ああ、そう言えばお前、女だったな。入れれないから満足させれないか」
…失礼な奴だ。私はこの21年間、性別を詐称した覚えはないぞ。
「でも、道具もあるし…なんとかなるだろ」
「あのなぁ、私はお前みたいに調教して喜ぶような人間じゃないぞ?」
「?ああ、未調教がいいのか。それは無理だ。他を当たってくれ」
駄目だ。会話にすらならない。これだから嫌なんだ。
「それよりも…後ろの彼、苦しそうなんだけど」
ずっっっと無視しようとしてきたが、はぁはぁはぁと荒い呼吸を繰り返している彼は相当気持ちが悪い。口枷のせいで余計苦しそうだし。
「ああ?まあ、太いの入れてるからな。しかも前も縛ってるから苦しいんだろう」
…おい、サド。調教は家でやってくれ!
「こうやって散歩させると見られている感覚で余計興奮するらしい」
最低な散歩だな。そんな情報聞きたくなかった。
「なんかもう、そんな喘ぎ声聞きたくないから楽にさせてきてよ」
「あん?抜いて突っ込んでくればいいのか?」
だから、直接的に言うなっつの!
ぐいっと後ろの男の首輪を引き寄せる。…首輪!?
「こいつに感謝しろよ。今からお前が欲しがってるものをくれてやる」
そうやって欲望に濡れた瞳で相手を蔑む彼は…黒い獣のようだ。
「精々いい声で鳴いておねだりしな」
やめてくれ…トイレからカウンターはそこそこ近い。声が聞こえてきたら心が折れそうだ。
「三十分ほど外すけど、帰るなよ?ここの酒は奢ってやるから」
そういって店の奥に去っていく。…期待に膨らんだ奴隷を連れて。
うん、そんなこと言われたら…。
当然帰るに決まっているだろう。
でもその前に。
…後ろを振り向く。
「皆さん!!なんと今日はゼグルス将軍が酒代を奢ってくださるそうです!!」
「なにぃ!」
「あの、将軍が!?」
「ひぃぃぃ!!」
「今日は大変機嫌が良いそうですので、是非とも皆さんにお酒を奢りたいそうです!!」
わぁぁぁっと沸く歓声。それぞれに飲んでいた客達だが、奢りとなればテンションが上がる。
お楽しみでそれどころじゃない彼には気づかれないだろう。
馬鹿め、こんなところで調教を始める奴が悪い。
さぁっせと、帰る前に。
「マスター、この店で一番高いお酒頂戴♪」
「畏まりました。」
せっかくの奢りだ。精精楽しませてもらおう。