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8.前の飼い主に、ペットが元気であることを報告しましょう

さぁて今日もぐうだら…コホン、捕虜の監視をするかぁ!と、思っていた私のもとに一通の手紙が届く。…こっこれは!!?

…この手紙が事態を急転させることになるとは…この時の私には予想もできないことであった。



「大変だ!!」

慌てて扉を開けた私の視線の先には銀髪の男が一人。

言わずも知れたジルが、雑誌を読みながらくつろいでいた。


「どうした?」

「雑誌読んでる場合じゃないぞ!?なにくつろいでいるんだ!!」

「…いつもお前がしていることだろう」

「私はいいんだ」

「こいつ…!!」

「いや、本っっ当に大変なんだ!」

と言いつつ、ジルの雑誌を取り上げる。


…読んでいた雑誌は『家具と私』…しぶい。

「なんだ、他にも雑誌を買ってやったのに。何でこれなんだ」

欲求不満だろうと、色々と買ってやったのに。グラビアものとか。

「…お前のやさしさには毒があるんだよ」

猛毒が。とつぶやくジル。人の親切を何だと思ってるんだ。

「こんな家具なんか見て楽しいのか?」

「下手なファッション雑誌よりは。…それより慌ててどうしたんだ?」


そう、こんなことを言っている場合じゃない!

「今日、シドネス将軍がお前の様子を見に来るんだ!!」

「…っ!」

「ああ、こんな懐いた様子なんて見られたら、指令期間を短くされそうだ!」

「別に…懐いてなんか…」

「私の長期休暇のためにも!お前には懐いていないことをアピールしてもらいたい!!」

「サボるためにか」


「そこでだ!…お前には最初の枷を着けさせてもらう!!」

厳重な拘束を見れば、事態が好転しているとは考えないはずだから。


…何かしら抵抗させるかと思ったが、大人しく手枷と足枷を付け替えられている。

というか着けられ慣れているようだ。

口枷を着ける時、協力的に口をあけた男を見て…。

「拘束慣れしている成人男性。ちょっと笑えるな」


…本格的に落ち込ませてしまった。


フォローにと言葉を続ける。

「あれだ、珍しいじゃないか。特技は拘束具をうまく着けられることとか。なかなかいないし。宴会芸で盛り上がるぞ」


…ますます落ち込んでしまった。

まぁ、あれだな。珍しいどころか特殊趣味のある人ぐらいだろうな。うん。というか友人にそんなカミングアウトされたら絶対引くし。


「…アブノーマルな趣味はほどほどにしておけよ?」

貴様のせいだろ!と涙交じりの目で睨まれてしまった。


雑誌やらお菓子やらを片付けて、シドネス将軍を迎え入れる準備をする。

…というかこの部屋、絶対捕虜の部屋じゃなくなってるな。



数刻後、シドネス将軍が到着した知らせを受ける。

エントランスで将軍を迎え入れると…。


「やぁ、レイニー!久しぶりだね。元気だったかい?」

「シドネス将軍。お久しぶりと言うほど時間は経ってはおりませんが、無事何事もなく過ごしております」

そうやって現れた将軍の両手には大輪の花。

…つまり妖艶に微笑む美女が二人。露出の高いメイド服からのびた腕を、将軍の腕に絡めている。

将軍は常に一人以上の女性を連れている。この女好きめが!!


「ははっレイニーはつれないねぇ。それで、どうだい?彼の様子は」

「難しいですね。会話以前に舌を噛み切られそうになりました」

シドネス将軍はちょっと驚いた様子だ。

「へぇ~舌を入れるなんて、めずらしく大胆だね!」

誰の舌だ!?誰の!!奴は自分の舌を噛み切ろうとしたんだぞ!!この歩く煩悩め!!

「あっプレゼントの媚薬は使ってくれた?どう、すごい効き目だったでしょ」

「確かに、効果はすごかったですね・・・」

「だろう?どんな相手でもイチコロだよ!」

確かにいい効き目だった。あんなにも誇り高い人間にも効果は抜群で…。

…?


…あっそうだ♪

「できれば、もう一個いただきたいのですが…」

「もちろんだよ!!一個と言わず、ダースであげるよ♪」

「いや、ダースはちょっと…いえ、ありがたくいただきます」

「彼に使うのかい?あんまり使いすぎると神経が駄目になるからほどほどにね」

「あの、彼ではなく…」

「もしかしてプライベート?」

んなわけがない。


「いえ、知人に売りつけようかと」


ああ、考えただけでも頬がゆるむ。

あのサドに精力剤と偽って売りつけてやろう。

調教相手の前で足腰立たなくなってしまえ。

あはっいつも掘ってる相手に逆に掘られてしまえ~。


「…誰に何の目的で売りつけるのかは容易に想像できるけど、流血沙汰はやめてね」

「弱みは握ってあるので大丈夫ですよ」

「…レイニー、邪悪な笑みを浮かべるのはやめなさい」

魔王みたいだから、と。

失敬な!この可愛らしい乙女の微笑を!!


そうこうするうちに部屋の前まで到着してしまった。

「一応拘束はしておりますが、気をつけてくださいね」


扉を開けると――あれ?


この何日かの間で見慣れた銀の髪と紫瞳。美形なのは変らないが…。


彫刻のように整いすぎた、表情のない獣がそこにいた。

凛とした姿。誰にも慣れることのない獣。

彼は、こんな表情をする人間だったっけ…?


「れれれっレイニー!!?」

思いっきり驚かれた。…なんで?


「まさか、いままで彼をこのように拘束してきたのか!?」

「ええ」

三時間ほど前から。

「彼が来たときと同じですよ」


「馬鹿!!あれは護送時に逃げられないようにする為の最上級に厳しい拘束だ!!」

「あ、そうなんですか?」

あれが通常だと思っていた。

「彼は捕虜だ!!!奴隷でもペットでも愛玩動物でもない!!そっそれなのにこんな待遇をずっとしていたなんて!!彼は人間だぞ!!」

「いや、見ればわかりますけど」

「馬鹿ぁ!!シリィ、ミリィ彼の拘束を緩めて!!」

かなり慌てた様子のシドネス将軍。


「えー。ちゃんと食事とお風呂は与えていますよ?」

「当然だ!!」

うう、怒られてしまった。


「あっ口枷は…」

「魂の契約で自害することは封じましたので、外して結構ですよ」

「…なら、はずしてあげようよ」


綺麗で巨乳な女性×2に丁寧に拘束を緩められるジル。

…あっさりげなくボディータッチされてる。胸とか当ってるし。

だけど、ジルは無視。


「うちの後輩が大っっ変に失礼いたしました。ラザフォード殿。私は一度会っていると思いますが、改めて。シドネス・ディランです」

丁寧にお辞儀をするシドネス将軍。


「なんで不思議そうにしているんだい?レイニー」

「いえ、捕虜に対して丁寧だなと」

「当たり前だろう。彼は元とはいえ、一国の副隊長。しかも王弟の子息だ。本当は最上級に良い待遇がなされているはずなんだ」

そう言えば、そんな設定が…。

「それを、優秀な彼を我が軍に引き抜きたいという意向から説得をしているんだ」

「…説得?」

「そうだよ。拘束具は、誇り高い彼に自害や逃亡をされないようにと着けているだけなんだ」

「…」

あ、そうだったんだ。てっきり調教やらなんやらで屈服させるのかと。

「だからゼグルスのところはスルーされたんだよ?あの調教好きは相手を考えず壊してしまうことがあるからね」

第四軍セグルス将軍が絡まないのはそのためか。あのサド将軍が美形でプライドの高いジルを逃すはずはないと思っていたが、そういうことか。妙に納得する。


「……女性で篭絡するのは説得に当たるんですか?」

「人間、気持ちのイイことは好きなんだよ?」

…それで許されるのか?


ジルは私達の話を聞いているはずだけど、反応を示さない。

もしかして、呆れてるとか?

「しかし、困ったね。やっぱり君でも無理だったか」

「いやぁ、えと、がんばってますよ?」

「精神的に追い詰めるのは篭絡とは言わないよ?…それに、彼はどこでもこうだったからね」


シドネス将軍は静かにジルに近づく。

「ラザフォード殿。…もうそろそろ折れては頂けませんか?こちらの用意した女性にも見向きもせず、ただ死を望むなんて」

「…」

「待遇は保障します。陛下は…貴方を買っていらっしゃいます。望むのなら、貴方が討ち取った第七軍将軍の席も用意しますよ」

「…」

「ラザフォード殿…このままでは軍牢行きとなってしまいます」

「…」

「ラザフォード殿…!!」

それでも、ジルは表情を変えない。…まるで精巧すぎる人形のように。


第二軍の女性達でも落とせなかった理由が良くわかった。

…彼には、届かないのだ。

熱も、情も、その言葉でさえ。


誰も誇り高い獣の心を動かすことができなかったんだ。


「こんなにも誇り高い人物は今まで見たことがないですよ。…レイニー」

「…はい」

「彼は連れて帰るよ。たぶん、彼は牢獄行きだ。…途中で折れることもないだろうし。一生をそこで過ごすことになるだろう。だからこそ……残された短い時間は精一杯彼をもてなしたい。…同じ軍人としてね」


説得に応じない捕虜は――牢獄に入れられる。

そこでは、想像もつかないような酷い生活が待っているのだそうだ。その地獄の中で…捕虜の気が途中で変ることを見越して。

酷い扱いをすれば気が変る。地獄から出るためにも必死に仕えようとする。

そうやって神経が侵され、国に従うのだ。

だが、ジルはそれを選ばない。多分、死にゆくことを望むだろう。服従よりも…死を。


…ちょっとまて、待て待て待て。

この流れはまずい。

私がサボれなくなるじゃないか!!!

「シドネス将軍!もう一度チャンスをください!!」

もう一度私に機会をと必死に追いすがると――


「…あらぁ、シドネス様。この子にできると思いますか?」

「無理ですわよ?きっと。わたくし達でさえ、彼は満足してくださらないのですもの」

くすくすっと耳障りな笑い声が響く。

…シドネス将軍のオプションの声が聞こえる。



「だって、この子。孤児でしょう?」



その言葉に……青筋が立つのがわかる。


「そうよ。たいした教養も身につけていない出来損ない」

「しかもたいそう貧相な体のね」

くすくすくすっと声が連なる。

わかっている。これは、腹いせだ。自分達でも落とせなかった相手を、もう一度落とす機会をねだる私への。

私が孤児なのは知られている――いい意味にも…悪い意味にも。

だが、なぜ今言われなくてはならないんだ。


「シリィ、ミリィ。君達は孤児がいるから今の生活ができることを忘れていないかい?」

その言葉を諌めたのは……意外にもシドネス将軍であった。

「シドネス様!!孤児は親のいない国の荷物ではないですか!」

「そうです!この子をかばうのですか!?」

オプションが嫉妬したように言い募る。だが――


「君達が戦場に連れて行かれないのは、孤児の女性がいるからだよ?」

「!!!」

「それとも、何かな?孤児なんかの仕事、君達には簡単すぎるかな?」

女性達が青ざめる。

「いいんだよ?連れて行っても。国の荷物と言われる彼女達の仕事をしてみる?何日もつかな?」

「シっシドネス様っわ、わたくしたちは…」

「花に口出されるのは不愉快だ。」

「でも…その…」

青ざめた女性達が言い募ろうとしたその時――


「この国の侍女は同じ国に生きる民を蔑むのか、不快だな」


凛とした声が響く――聞きなれているはずの…ジルの美声。

「っ!!いや、見苦しいところをお見せしましたラザフォード殿。…お前達、もう喋るなっ!」

将軍の叱咤にさらに青ざめる女性達。

そして…興味をなくしたかのように黙るジル。

――でも、その無表情の瞳の奥、心配したような色を見つける。

たぶん、誰も気づかない。――私以外には。


「レイニー!やるじゃないか!!彼がしゃべったよ!君の事、意外と気に入っているのかも!!」

ひそひそと話しかけるシドネス将軍。さっきの冷たい様子は微塵もない。

……将軍は女性にやさしいのではない。女性を道具としか思っていないのだ。

とてもこの国の将軍らしい人だ。人でなしという点において。



「うん。いい調子じゃないかレイニー、引き続き頑張ってよ!」

「はい、絶対篭絡させます!あと一ヶ月ほどあれば!!」

うん、そのぐらいあれば脳みそが腐るほど休めそうだ。

「…あのねぇ。本当に時間は残されてはいなんだよ?」

シドネス将軍の呆れた声。


「第五将軍ガルバが敗れた。5日後には総攻撃が始まる」


……今度は私の顔が一気に青ざめた。

「それは、攻略中の…?」

「ああ。思ったよりも抵抗が強くてね。第二・第三・第四軍が援軍として行くことが決まったんだ」

そんな…まさか…。


「勅命だよ」


陛下からの…。誰にも逃れられない、命令。


「すでにあの指令も届いているはずだよ?彼をここに置ける時間も限られている。だから、この5日間でどうにかするしかないね。さあ、シリィ、ミリィ行くよ」

見送りは不要と女性達を連れて部屋を出て行くシドネス将軍。



……将軍が去ってから、半刻ほど私は呆然としていたらしい。

ふわりと、いい匂いが鼻をくすぐる。


「レイニー、紅茶でも飲んで落ち着け」

気がつくと、ジルがお茶の準備をしていた。

…彼は最近、お茶を入れてくれる。

いやっ初めは、私がお茶を入れるために持ってきたティーセットだったんだ。

でも気づけば、彼が入れてくれるようになっていた。……何故だろう。


よろよろとテーブルに近づく。ジルは椅子に座って優雅に紅茶を飲んでいる。…さっきの無表情はなりを潜めているようだ。


「孤児であることは、お前の責任ではない」

急になんだ?ああ、さっきのを気にしていると思ったのか。


「意外だな。貴族であるお前は、孤児のことを良くは思っていないと考えてた」

「…私は騎士だ。すべての国民を守る義務がある。もちろん、孤児も含めてな」

そう言って静かに笑う彼は…美しかった。

誇り高く気高い騎士、優しい銀狼。


「…そういえば、あの男とはずいぶん親しそうだったな」

「うん?そうか?」

あんな歩く煩悩、仲良くなりたくない。

「…将軍と仲が良いのは珍しいだろう」

ああ、そう言うこと。

「賭け仲間なんだ。たまにカジノで勝負する」

「カジノ!?」

「うん、賭けゲームを何回か」

「お前…いや、見た目を裏切ると言うか中身を裏切らないというか」

「…さすがに見た目で制限かけられたことないぞ?というか、剥ぎ取りのレイニーで有名だし」

「…剥ぎ取り?」

「うん、財布だけじゃなくてすべて持ってくから」

「お前…いや、なにも聞かないでおく」


そんな他愛ないやり取りに、青ざめた肌に色が戻ってくる。

おいしい紅茶と穏やかな空間。


残された時間は少ないが…今だけは、そのやさしさに包まれていたい。


実は結構懐き始めています。というお話。

次はレイニーが媚薬をもらった理由…の小話を挟みます。

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