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7.ペットと休日を過ごしましょう

そんなこんなしている間に、私と彼の距離感は定着しつつあった。


私の日課は、ジルの部屋のソファーでごろごろしながら雑誌を読むこと。


ジルはこの生活に慣れてきたのか、大人しく…体力回復に専念していた。

まあぶっちゃけて言うと、拘束やら絶食やらで落ちた体力を戻そうと、部屋の真ん中で筋トレを始めたわけだ。

腹筋やらに励む彼を横目に私はダラダラしているのだ。


「…おい」

ジルが腹筋をやめずに問いかける。

「なんだ、今秋冬ファッションの勉強に忙しいんだ」

「…何日が経ったと思っている」

「ん?筋トレに飽きたのか?しょうがないな、読み終わった雑誌なら貸してやるぞ」

「…そうじゃなくて、もう10日目だぞ。何を暢気に雑誌を読んでいるんだ」

「そうか、10日も経っていたのか。まだあと5日は粘れるな」

「お前の任務は私を軍に引き入れることだろう!!?」

「雑誌読んで食っちゃ寝するだけでお金がもらえるだなんて、なんて幸せな任務なんだ!!」

満面の笑みで万歳する。…さすがにジルがキレた。

「完璧に職務怠慢じゃないか!!」

「いや、張り切られたらお前が困るだろう」

「…」

ジルは腹筋を止めてこっちを睨みつけている。彼の体は一時間も筋トレを続けている為少し汗ばんでいる。

「お前には悪いがな、こんな長期休暇は久しぶりなんだ。職務怠慢と言われようが止められないな」

こんなにもゆっくりとできるのは本当に久しぶりだ。

「休暇ではないのだが…怒られないのか?」

眉をひそめて、ちょっと心配そう。心配してもらえるほどには親しくなったと言うべきか。

「いやぁ、シドネス将軍からの直接指令だろ?通常自分の属している軍隊の指令に従うんだが、他将軍からのは特別指令になっていてな」

「?」

「もともと出されていた命令を上書きして、この指令に当たっているんだ。…つまり、シドネス将軍がこの指令を取り下げないと他の指令はできないという事」

にんまり。

「他の仕事をしなくてもいいんだ!!ビバ☆サボりたい放題!!」

ばんざーい!!…していると本当にあきれた顔をされた。

「なぜこんなお前が給料をもらっているのか、理解しかねる…」

「それに…今のままなら戦場に行かなくても済むだろ?」

「!」

「私は、人を殺すのも殺されるのも嫌なんだ。…うちはともかく、他の軍のメイドが戦の後にどうなるのか、知っているわけだしな」

戦場では…異常な興奮状態に陥るという。それを鎮めるための生贄として連れて行かれる女性達。

「それに、後2ヶ月で3年間になるんだ!もう少しで…任期が終わる。なら、大人しくしているほうが無難だろ?」

「…そうか」

「だがら、あと1ヶ月はサボり続けるぞー!!」

「おい、それは、さすがにやめておけ」

あきれたような顔をされてしまった。


いつものように彼は筋トレに戻り…今度は背筋か。

私は雑誌を読むのに戻る。



がさごそっ。

?変な音に周りを見渡すと。


ソファーの下にくろい…

「にゃぁぁぁぁ!!!!」

あまりのことに飛び跳ねてしまい、すかさず――

ズバン!!!

もっていた雑誌で強烈な一撃を放つ!!!


うう、読みかけだったのに…見ないように恐る恐るゴミ箱に入れる抛り投げる。

…飛び跳ねた衝撃で膝にあった雑誌は遠くまで吹っ飛んでいる。

「…どうした?」

あっけにとられたジル。

「うっなんでもない」

虫が怖いなんて知られたら、どんな嫌味を言われるか。

…私なら相手の弱点を知ったら必ず苛めて楽しむもん。

ばれてたまるか!!


「そっそれより、そこの雑誌取ってくれない?」

ちょうど、飛び跳ねた時に飛んだ雑誌が彼の近くに落ちていた。

…うう、今はこのソファーから下りられない。怖くて。


ちょっとした頼みごと…だが――

「な!?」

顔を赤らめるジル。…なんで?

「ここまで持ってきてよ。できるだろ?」

なにか言いたげなジル。何回か躊躇して…。

覚悟を決めたように――


……雑誌を口にくわえる。


ずりずりと這っていき、私の元へ雑誌を運ぶジル。

私は無言でそれを受け取る。

伏せられた目元とか、屈辱のためか赤くなっている。


「…なにもそこまでしなくても」


うっ!!と唖然とするジル。

いや、まさかの展開に私のほうが唖然だよ。手で持ってくること想定してたし。

私、犬のように取ってこーいとか言ってないし。

…さすがにそこまで鬼畜ではないよ。


「いやぁ、ペットが板についてきたな」

「うるさい!!」

真っ赤になって叫ぶジル。


…どうしよう。本当にこのまま調教してしまったら。

私、サド将軍のように調教とか好きじゃないんだけど。


…とりあえず、いい子いい子と頭を撫でてやる。

ふてくされた姿が可愛いなと思いながら、ほっと安心する。

一人でいると、他に黒いのが出てこないかと余計考えてしまうし。


そうだ。ジルに持ってきてもらった雑誌のページをめくりつつ、該当ページを指差す。

「このコートとこっちのコート、私が着るんだとしたら、どっちがいいと思う?」

「うん?…どちらもお前に似合わなそうだが、こっちのほうがいいな」

「へー。あっこのアクセサリーは?」

「お前の髪は茶色だろう。派手すぎる。こっちの方が落ち着いたように見える」

「あっ男性用のコートの特集だ!こういうの着てみたくないか?」

「…このモデル、足短いな。この長さなら私が着ると膝までしかないだろう。こっちのロングコートのほうが性に合うな」

これだがら、180超える長身のやつは!!


雑誌を指差しながら聞くと、ぶっきらぼうだが適切な評価が返ってくる。

ソファーの上と下。関係は主と従…調教する者と抵抗する者。

でも…でもこの距離がくすぐったくて気持ちがいい。


今だけはそんな関係を考えなくても済むように感じるから。


だが…。

「お前、本っっ当にセンス悪いな」

と心底言う彼には、今あんたが座っているところで潰したんだよとは絶対言ってやらない。言ってやるものか。


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