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6.ペット、お風呂にいれてもらう

※ジルニウス視点の話です。

私の名はジルニウス・ラザフォード。

アリレス国騎士団の元副隊長をしていた。


…現在、敵国の捕虜となり人以下の生活を送らされている。


私の守るべき祖国は…いや、守るはずだった祖国の名はアリレス。大きくもなく、かといって小さくもない国であった。豊かな資源と強い騎士達。国が滅ぶなどということは考えたこともなかった。


そう、リグレスに滅ぼされるまでは。


王を、国を、国民を守るためにすべての兵力で戦った。

だが、リグレスは強かった。いや、一人ひとりの兵力が圧倒的に強いというのではない。私も何十人ものリグレス兵を屠ってきたし、何度か敵の将の首も取った。

しかし、兵量が桁外れに多いのだ。

こちら50万の兵力に対し、200万の軍隊。圧倒的な質量の差に我が国に勝ち目はなかった。

戦場にて、一軍隊の将軍を討ち取り、疲弊していた我が軍を鼓舞したまでは良かったが、最終的に降伏ののろしをあげたのは国王だった。

――我が王はすべての国民と領土を差し出す代わりに自分の命を守ったのだ。


もし私があの無能な隊長の代わりに指揮をとっていたら、何か変っていたのだろうかと良く考える。

国民や部下を守れたのではないのだろうかと。


…だが、私が何かをしたところで変らなかったのだろう。


リグレスは多くの国を攻め落とし、その国を併合させてきたように、わが国もうまく併合したようだ。

ただ『アリレス』という名の国がなくなっただけで、国民の暮らしはなにも変っていないという。

国王も…従兄妹にあたる皇子も姫もこの国の貴族として受け入れられたと聞いている。

王族や貴族は今まで同様の暮らしができるのだろう。

ただ、皮肉にも貧乏くじを引いたのは国を守っていた騎士達だった。


優秀な部下達は次々と勧誘されたらしい。国を滅ぼした憎きリグレスを守るための剣となれと。

無論、誇り高きアリレスの騎士は受け入れなかったはずだ。

だが…美しい花と恐怖に耐え切れた者は何人いただろうか。


できれば、抵抗なく兵になってくれればいいと思う。

彼らには守るべき家族や友人がいる。


――国に殉ずるのは私一人でいい。


そう思い、心を閉ざしたくなるような拷問にも魅惑の誘惑にもひたすら自害することを望みに耐えていた私だが、最近調子が狂う人物に不運にも出会ってしまった。


そう、目の前で雑誌を広げているレイニーと呼ばれる女性に。



年は21歳だというが、どう見ても発育不全な15、6歳に見える。160はあるといっていた身長だが胸のせいで…いや、一度逆鱗に触れたので何も言わないでおく。

たぶん、体型のせいで子どもに見えたのだろう。

平凡そうな顔で無表情。いや、表情はあるのだがほとんどの場合、ニヤリとか悪戯を楽しんでいるような表情を浮かべるだけだ。

愛情を受けずに育ったのではと勘ぐりたくなる。

はっきり言って町にいたらお菓子を買って施しを与えたくなるような発育不良な子供…に見える。


だが、実際の性格は子どものような無邪気さなど皆無で、最上級に悪い。

丁寧な口調なはずなのにどこか人を小馬鹿にしたようだった。

…いや、本当の口調は男のように雑だったな。


しかし、今までの者達のように露骨に気に入られようとするのよりは良いだろう。

…たぶん、いままで連れられた場所の中でここが一番マシだろう。

…いや、マシではないが…。なにやら人間以下のような扱いを受けているし。

…犬の扱いを受けたり…。これは、精神的にくるな。


………?どう考えてもマシではないな。


――この女は、私を取り込もうとする意思はあるのだろうか?


そのようなことを考えていると、レイニーが話しかけてきた。


「そういえば、風呂も入ってなかったな」

…この女に人の世話はさせない方がいい。3日で精神的に殺される。

7日もあれば立派に餓死させているだろう。


「よし、風呂に入れてやる!」

「…自分で入れるからな」

そう言葉を投げかけても、多分無視されるだろうな。


「ちょっと待っていろ」

彼女はそう言うとさっそうと去っていく。

部屋は中と外から施錠ができるようになっている。レイニーは一瞬で鍵を開け、滑るように外に出てすぐに施錠をかけて行く。隙もない…護身術が強かったり、本当にメイドか?と思うことも多々あるな。



…帰ってきたレイニーは二人の女性を連れてきていた。


「ふふふ、お前のお待ちかねの巨乳だぞ!!」

…いきなり何を言い出すのだこいつは。別に巨乳を待っていたわけじゃない。

「ええっレイニー様ぁ!そんな、マリア巨乳じゃないですよぉ?」

「レイニー。人に紹介する時にはきちんとしなさいね」

二人ともあきれた様子だ。

外から来たのは、ブロンドの髪の侍女と穏やかな笑みを浮かべる黒髪の侍女であった。


「あっ私、マリアっていいます。どうぞよろしくお願いします♪」

「私はシルビアと申します。僭越ながら貴方様のお世話を手伝わせていただきます。以後よろしくお願いします」

…よかった。まともな侍女もいたのだな。

ここにいるのはレイニーのような侍女ばかりではと危ぶんでいた。


「さぁ、喜べ!こんな美女達がお前をお風呂に入れてくれるんだからな!」

「ええ?マリア、こんなかっこいい人のお世話だなんて、無理ですよぅ!はずかしぃです~。美形さんの裸だなんて…刺激が強いですよ~」

…たぶん、これが一般的な反応だろうな。

「いや、是非ともマリアとシルビアに頼みたいんだ」


…もしかして、レイニーも恥ずかしがっているのだろうか?

そうだとしたら、何度も恥ずかしい思いをさせられている身としては反撃に出たくなる。


「レイニー、お前にだったらやらせてもいいぞ」

恥ずかしがっているのなら、少量だが可愛げがあるじゃないか。女らしくて。


「いや、自分の体も洗うのがめんどくさいのに、他人のなんて洗えるか。鬱陶しい」

…前言撤回。こいつは女失格以前に人間失格だ。


「まぁ、レイニー。そんな事言うものではありませんよ。ジル二ウス様も誤解なさらないでくださいね。レイニーは毎日私が洗っていますので」

…こいつは本当に侍女なのか?同僚に洗わせてどうする。


「…自分で洗えるので、湯の準備だけしていただけるとありがたい」

「お背中とか洗えませんよねぇ?お手伝いしますぅ~」

「いや、だから」

「ご遠慮なさらずに。私どもにお任せください。ふふっ」

「…」

「さっぱりしてこいよー。どこもかしこも綺麗にしてもらってこい!」


ニヤニヤと笑うレイニーに見送られ、私は風呂場に連行された。

両方に逃げられないように二人がついている。

…両手に花とはこのことだが、迷惑極まりない。

せめて…せめて前を洗うことだけは死守しよう。


…風呂場でのことは黙秘権を行使する。



一つだけ、一つだけ文句を言うのであれば…。

なんで洗うほうも脱ぎ始めるんだ!!!



非常に長く感じた時間が過ぎ、部屋で髪を乾かしてもらっていたら、テーブルの上に冷えたお茶があるのを発見した。

…少しは気が利くじゃないか。


「あっこのお茶、レイニー様ですね!珍しいです。こんな気が利くことがあるなんて!!」

…レイニーがどんな人物なのか、この言葉でもわかりすぎるな。

そういえば…。


「…ここに来てから一度も第三軍将軍に会っていないな」

今までいた場所では、一度は将軍が私を見に来ていた。

だが、ここに来てからは一度も将軍らしき人物はこの部屋を訪ねていない。

というか、レイニー以外入ってきたのはこの二人が初めてだ。

「ゼルギウス様ですかぁ?」

「お会いしたいのでしたら、お呼びしますよ?」

「いや、どういう人物なのかと思ってな」

他の将軍の噂は耳に入る。だが、第三軍将軍の噂だけは聞いたことがなかった。

…もしかして、最上級に危ない人物だとか?

「すばらしいお方ですよ。第七軍隊あるうちで、もっとも兵士に尊敬されている将軍です」

「?だが、第三軍隊は…」

…他の軍の兵が第三軍隊には絶対行きたくないといっていた。

「…それは以前の話です。ゼルギウス様が将軍になる前の話ですよ。以前の将軍を知っている人の意見でしょうね」

「そうなのか?」

「ええ。以前は本当に酷い方でしたから…」

シルビアは表情を曇らせた。…以前なにかあったのだろうか。

「でもぉ、今はゼルギウス様が将軍なので、本当に居心地が良いですよぉ~!」

「そうですね。ゼルギウス様は孤児出身の兵やメイドにも優しくしてくださいますし。…私も孤児出身なのですが、公平に扱ってもらっていますよ」

「それにそれに!なによりも頭が良くてぇ、戦上手なんですよねぇ!!」

「二年前に第三軍将軍になられてから、すでに一つの国と10回の戦争に勝利されています。異例の強さですよ」

「えっとぉ、先月のアリレス戦には参加されていないそうですがぁ」


なるほど。話だけ聞くと、かなり優秀な人物に思えるな。

「ゼルギウス様は戦略を第一と考えている方です。…あの方の元でしたら、貴方様も腕を存分に発揮できるのではないでしょうか?」

妖艶に微笑む美女。


…体が冷えていく気がした。そうだ、軍に引き入れるために私は拘束されている。こういった誘いはあって当然のことではないか。


……なにも言わずにただ一緒にいるだけのレイニーの存在が、酷く懐かしく感じられた。



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