コロシヤ 梟
衝動的に書きたくなった短編シリーズその3。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
『コツッ。コツッ。コツッ。』
「はぁ。はぁ。なんなんだよ! なんで俺がこんなめに!」
『コツッ。コツッ。コツッ。』
「あんなこと、知るんじゃなかった!」
『コツッ。コツッ。コツッ。』
「はぁ。はぁ。はぁ。ッ!? 行き止まり?」
『コツッ。コツッ。コツッ。』
「嘘だろ? まさか、分かってて!」
『コツッ。コツッ。コツッ。』
「逃げ道! 何処かに逃げ道はないのかよ!」
『コツッ。コツッ。コツッ。』
「さぁ、鬼ごっこは終わりにしようぜ?」
「くそ! 殺し屋を雇うなんて、そんなヤバい秘密だったのかよ!」
「依頼人からは、アンタを殺せとだけ言われたんでね。理由までは知らんよ。」
「なぁ、なんとか助けてくれないか?」
「悪いが、こっちも仕事なんだよ。そうだ、俺は梟。一応、覚えといてくれ。」
「ふ、梟? まさか、ネットで噂のあの梟?」
「かもな。ま、死に行くアンタには、あまり関係のないことだ。さて、そろそろ覚悟は出来たか? 心の中で、大切な人達にお別れを告げとけよ? 多分、もう二度と会えないからな。」
「ま、待ってくれ! 頼む!」
「………じゃあな。」
『ドンッ!』
表があるように裏がある。
光があるように闇がある。
陽があるように月がある。
この世のなかは、表裏一体が多い。光輝く希望が表の町にあるように、地に濡れた絶望の裏がある。
ま、俺には関係のないことだ。俺はやりたいようにやる。俺は、『コロシヤ 梟』
誰も殺さない殺し屋だ。
◇
『ザワザワザワザワ』
雑多な喧騒を表すとしたら、こんな感じだろうか?
出社に遅れないように駆けていく、眼鏡のサラリーマン
友達と駄弁り、スマホを弄りながら歩くギャルっぽい女子高生
アキバにいそうな、太ったオタク
ブランドもので身を固めた、自意識の高そうな女
日本ファンであろう、外人
様々な連中が集まり、喧騒を毎日のように奏でるここは、トウキョー。
ベンチに座った俺は、何をするでもなく周囲の喧騒に耳を傾ける。
「なぁ、『殺し屋 梟』って、知ってるか?」
「なんだそれ?」
「たのまれたら、前金二十万、成功報酬で三十万で、どんな殺しも引き受けやり遂げる、伝説の殺し屋だよ。」
「へぇー。そんな有名なのか?」
「いや、ネットで言われてるだけなんだよ。なんせ、一度もニュースになったことないし。名前と噂だけ広間ってんだよ。」
「そんなの、誰が信じるんだ?」
「さぁな?」
大学生だろうか? 二人の男の会話に、何時もより長く聞き耳をたててしまった。そろそろ、何時もの場所に行こう。いつ、仕事の依頼が来るのかは、俺の勘でも分からない。
表通りから外れて、裏通りを歩いて行く。
少々耳障りな喧騒も、だんだんと小さくなっていく。耳が痛くなりそうなほど煩いトウキョーだが、静かな所も勿論ある。俺が行くのは、そんな場所の一つだ。
『カラン。カラン。』
「よ、マスター。調子はどうだ?」
「ぼちぼちだよ。お前は相変わらず、無愛想な顔してんな。」
「ほっとけ。顔はもともとこんななんだよ。」
ここは、カフェ“ルフェール”
ダンディーなおっさんマスターが店主の、客は常連だけが来る隠れ家てきな店で、俺が普段からよく入り浸ってる場所だ。
「注文は?」
「んー。カフェラテと、日替わりパフェで。」
「今日はメープルパフェだがいいのか?」
「あぁ、ハズレじゃないみたいだから、いいぞ。」
ここの日替わりパフェは、たまにハズレがあるから困る。
注文の品がくるまでの間、ネット小説を読む。
「…………(コト)」
「お、ありがとな唯一名。」
「………(コクコク)」
シンプルなワンピースに、この店のエプロンをつけた無表情の少女こと、唯一名がカフェラテとパフェを持ってきてくれた。
「相変わらず喋らないし、なんか距離を感じるぞ。」
「そりゃ、あんなひどい目にあわされたらな。」
「それは、俺か? 俺のことか? あれは仕事だから、唯一名も気にしてないよな?」
「………(ふる……コクコク!)」
「今、一瞬首振りかけたな。」
「マジかー。」
ま、結構怖い目にあわせちゃったしな、しゃあーないか。
『カラン。カラン。』
「いらっしゃい。」
「………(ぺこり)」
どうやら、客が来たようだ。
店内に入った客は、落ち着きなく周囲を見渡した後、俺の隣に座った。
「お客さん、ご注文は?」
「あ、あぁ。それでは、コーヒーを一杯。」
「あいよ。」
パフェをつついていたら、隣の男が此方に紙を渡してきた。
仕事かな? 紙を開くと、文字がかかれており、気の弱そうな男の写真もついていた。
『この男を殺して欲しい。』
殺して欲しいか………
まぁ、仕事の依頼はしっかり受ける。
『前金二十万。それさえ貰えれば、受ける。』
そう書いた紙を渡すと、厚い封筒を渡してきた。中には、一万円札が、二十枚。さて、お仕事といきますか。
「んじゃマスター、また後でな」
「おう。」
男から貰った紙には、男の特徴が色々とのっていた。これなら、アイツに頼ることなく探し出せるな。
そうして俺は、裏へと消えていく。仕事のために
◇
『ドンッ!』
行き止まりに追い込んだターゲットに、銀色に輝く愛銃の引き金を引いて、弾丸を撃ち込む。
「ひっ!……………あれ? 死んでない?」
「いや、お前は死んだ。俺が殺した。」
「でも、身体はなんとも……」
「それでも、死んだ。なぁ? 人はいつ死ぬと思う?」
「え?」
「俺の恩人がな、大昔の有名マンガのセリフを真似て、こう言ったんだ。
『人に忘れられた時、人は死ぬ。』
なんで俺がこんな話をするかというと、今現在、お前を覚えている人間はいない。」
「え?」
「誰も知らないだけで、この世界には科学で証明出来ないモノ、人智の及ばないものがある。俺は、人の記憶を殺す事が出来る。」
“死ヲ変エル者”
生まれつき俺が持っている能力。俺は、物理的に人を殺す事が出来ない。俺が人を殺すと、世界中の人の記憶から、その人の存在がなくなる。思い出の中のその人は、別の誰かになり、薄ぼんやりとしてしまう。
「信じるも信じないもお前の自由だ。」
「え?」
「俺に依頼した奴も、お前のことを忘れている。後は自由に生きろ、何か困ったことがあったら、カフェ“ルフェール”に行けばいい。お前と同じ境遇の奴がいる。」
「俺と同じ……」
「どうする?」
「連れてってください! なんでもします!」
「それは、店主に言ってくれ。」
ソイツを連れて、再びカフェ“ルフェール”に戻る。
「あ、梟さんこんにちは。」
「よぉ、夢雲………何見てるんだ?」
「何って、スノウ様のライブの様子だよ!」
「あぁ、最近人気の………なんて言ったっけ?」
「『Miracle World Online』だよ。梟さんもやってみない?」
「んー。どうかな~。というか、この娘見たことあるような?」
「まじで?」
「んや、気のせいかも。」
というか、今はそれを気にしても仕方ない。
「マスター、こいつここで働きたいってよ。」
「お、なんだ? お前も殺られたのか?」
「は、はい。今さっき。」
「そうか。俺はここの店主だ。マスターと呼んでくれ。んで、あっちにいるのが、元ハッカーの夢雲。」
「やっほー。梟さんに殺られてからは、梟さんの仕事手伝って、情報収集してるよ。」
「んで、唯一名!」
「………(ひょこ)」
「新入りだ。色々教えてやってくれ。」
「ど、どうも、射月です。」
「…………唯一名、宜しく。」
「「「喋った!?」」」
嘘だろ? 唯一名喋れたのか!?
「………(ちょい、ちょい。)」
「おっと、新入り、唯一名が呼んでるぞ、行ってこい。」
「あ、はい。」
どうやら、上手くやれそうだな。
「唯一名さん? えっと、なんで迫ってくるんですか? あの……なんだか嫌な予感がするんですけどって、え、ちょ、ア゛ーーーーーーーーー!!!?!?!?」
新入りくん。南無。
さて
現があるように、夢がある
白があるように、黒がある
生があるように、死がある
しかし、それは本当に表裏一体なんだろうか?
表と裏は、誰が決めるのだろうか?
俺の仕事は、人を殺すこと。
感謝され、憎まれ、恨まれ………今まで沢山の人間を殺してきた。
俺は、死ぬまでこの仕事を続けるだろう。それは、偽善でも、悦楽のためでも、金のためでもない。
ただ、この仕事で何かを得られそうだと思ったから、それは、もう得られたのか、得られていないのか分からないが、分かるまでは続けていく。
それが俺のエゴだから。
分かったと思いますが、『Miracle World Online』と同じ世界です。しかし、雰囲気は殆ど違いますがね。