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第五話:悪魔さんと同棲スタート

 悪魔さんと契約を果たしたその日の夜。

 僕は彼女を連れて学生寮の部屋に戻ると、時刻はすでに1時を回っていた。


「おおー、これが貴様の部屋かー、なかなか綺麗ではないか!」


 と、そう言って、悪魔さんはドカドカと部屋の中に入っていく。

 僕の部屋は一般的な1Kの部屋で、玄関口にキッチンスペースがあり、奥にベッドや机が置いてあるスペースがある。

 悪魔さんは僕が持ち帰ってきた召喚道具を片付けている間に、あちこちの棚を開けたりベッドにダイブしたりしていた。


「ふあわぁ……ひとまず今日は寝るとして、明日のことはまた考える?」

「む、そうか? そういえば人間は夜は弱いんだったな」


 猫みたいにベッドを専有して枕を抱きしめる悪魔さんは、こちらを振り向きながらそんなことを言ってくる。


「うん……悪魔さんも寝る? よければベッドを使っていいけど」

「いや、構わんでいい。この家の家主は貴様だ。妾のことは気にしないでゆっくりして欲しい」


 と、言いつつもベッドから降りる気配はない。

 ゴロゴロしてたら寝れないんだけどなぁ。

 仕方ないので、彼女を持ち上げてソファ前に運ぶ。


「おー? どうした人間よ、妾ほどじゃないが貴様も力があるなー」

「……」

「ははっ、持ち上げられるのは楽しいが何だかこの態勢は恥ずかしいな、やめんか、ははっ」

「……えいやっ」


 ソファに投げて、ポフンと悪魔さんは着地する。

 僕は近くにあったミミズクのぬいぐるみを手渡す。


「お?」

「それじゃ、おやすみ……」


 流石にいろいろあって今日は疲れた。

 僕は悪魔さんのお言葉に甘えて、布団で寝ることにした。

 彼女はまだ寝る様子はなかったが、貰ったぬいぐるみをペシペシ叩きながらこちらに声をかえてくる。


「そうじゃ、寝るが良い寝るが良い。妾はこの部屋を探検するでな」

「変なトコ……イジんない、で……ね……」

「おーおー安心したまえ……ふふふふっ……」


 超絶に怪しかったが僕の意識はそこで暗転。

 その後、パソコンのDドライブに保存した秘蔵動画が全て横綱の名場面集に変わっていることに気づいたのは、それから三日後のことである。



 ✞



 翌朝。

 時計のアラームの音とともに目覚めた僕は、鳴り続ける音源を止めようと手を伸ばした。

 すると手に柔らかい感触が当たるのを感じた。


「ん……?」


 丸みを帯びたそれは程よく柔らかく、むにゅむにゅとしていた。

 …。。

 何だこれは?

 僕は薄ぼんやりした意識で、ラブコメ漫画(ちょっとHなやつ)によくある展開を思い出した。

 ――――ッ!?

 もしや、もしやっ!? 

 電撃的な直感と衝撃的な妄想が僕の脳内を駆け巡った。

(マジか! ホントにそんなことあるのか!?)

 僕はすぐに手を離そうとして――いや、念のため一回だけ揉んで……それからゆっくりと目を開く。


 そこには冷蔵庫にしまっていた豚肉の塊があった。


「……なんでなん?」


 思わず別の地方訛りが出てしまった。

 よく見るとその後ろで死ぬほど笑いをこらえている悪魔さんの姿がある。

 顔を真っ赤にして苦しそうに笑いをこらえている。

 目を見開いて笑いをこらえている。

 随分と楽しそうだった。

 ……よし。

 僕はポケットに入れていたスレイマンの笛を取り出す。


「ちょ、ちょっとちょっと待つのだ主よ! それは卑怯ではないか」

「さてと、これでどんな辱めをしてやろうか……」

「ちょ、ちょっとちょっと妾が悪かった! 妾が悪かったからぁっ!」


 涙目になる悪魔さんに僕は笛を吹くのをやめて、朝食の準備を始めるのであった。



 ✞



「まったくちょっとした悪戯ではないか。そんな怒ることはないじゃないか」

「……ったく、僕が寝てる間になにしてるかと思ったら」


 ひとまず、無駄に温まってしまった豚肉を無駄にしないため、僕はひとしきりフライパンで焼いてしまうことにする。

 一部は朝食のベーコンエッグ代わりにして、脂身の多い部分は召喚術の道具としてしまっておく。

 ご飯は作り置きしてタッパーにまとめていた分がまだあったため、それを使用。

 電子レンジを回しつつ、僕は目玉焼きに水を入れて蒸し焼きにして、悪魔さんの方を向き直る。


 彼女は先ほどまではグチグチ文句を言っていたが、何故か今はぼーっと僕の料理風景を見ていた。

 何だろう、そんな珍しいものだろうか。


「はー人間はそうやって豚を焼いたりするのだな」

「悪魔さんはそうしないの?」

「たまに父様が人間界からお土産を持ってくることはあるが、作ってるのは初めて見るのぉ。よく丸焦げにしないもんじゃ」


 へー、ほぉー、ふーん、と悪魔さんは感心して僕の料理を見てくる。

 そんなに特殊なことはしていないし、一般的な男子学生の自炊レベルなのだが。


「悪魔さん嫌いなものとかある?」

「そうじゃのう、天使は絶対許せないかのう、あとそれに仕えるプリースト共も」

「いやそういう種族間対立的なものじゃなくて、食べ物で」

「人間の悪感情や欲望は好きじゃが、善い心とか正義心とかは苦手じゃのう」

「うん、聞いた僕が悪かったよ」


 まあ食えなかったら言うだろ。

 僕はシンプルだけど、ベーコンエッグとご飯と、インスタントのお味噌汁を用意してテーブルに並べる。

 ついでにコップに牛乳を注いで置いておく。


「ほぉ……このコップ、ガラスで出来ておるのう、こんな精巧な加工技術は初めて見るぞぉ」

「そういうわざとらしいリアクションはいいから」

「異界で食事を取る時はコップを褒めると良いと聞いたのでな」

「何だよその食事マナー」


 この部屋だったらもっと他に驚くとこがあるだろ。冷蔵庫とか電子レンジとか。

 僕はいただきますと、手を合わせて、悪魔さんもそれにならった。


「うまい、うまいぞヤモリ!」

「うん、食べな。いっぱいはないけど」

「やー懐かしいのう、父様が買ってきてくれたお土産の味がするわ、何というのかの……このしょっぱくて丁度いい感じの」

「醤油ね」

「それじゃ! いいのう、悪魔は別に飯は食わんでも生きてはいけるが、こう娯楽として素晴らしいわ」


 悪魔さんは外国に行ってた旅行者みたいに醤油を褒めちぎり、ベーコンエッグを平らげ、ご飯をもしゃもしゃ食べた。

 お味噌汁を啜って、牛乳をごくごく飲んだ。


「ふぅ……満足じゃ、この白い飲み物も懐かしいのう、昔よくサキュバスの連中がお裾分けに持ってきてくれたわ」

「それは……違うものじゃねぇかな」


 食事中に何ほざいてんだコイツと思ったが、本当にそういうことがあるらしい。

 悪魔さんは満足げに寝っ転がって、今はテレビの今日の運勢占いを面白そうに見ていた。


「はははっ、10月生まれの貴方は今日一日最悪な運勢だそうだぞ、はははっザマァ!」


 楽しみ方は他人と違っていたが、まあくつろいでくれているようで良かった。

 さて、できれば今後について真面目に話したいところだが、そうも言ってられない。

 あと少しで学校に行く時間だった。


「ねぇ、悪魔さん。僕は学校に行くんだけど、お留守番頼める?」

「任せろ、任せろ……妾がいれば、あらゆる宗教勧誘は跳ね除けられるぞ」

「わあ心強い」


 悪魔だもんな。

 だとすれば問題は山積みだが、空き家を任すくらいはできるだろう。


「じゃあ頼んだよ」

「うむ!」


 これが初対面の人間であれば、お金の持ち出しとか、泥棒まがいの心配もするが、彼女が悪魔である限りは大丈夫だろう。

 何となく半日ほどの付き合いであるが、彼女がそういう種類の悪事を働くキャラじゃないことは分かってきた。

 ……人間より悪魔の方が信じられるってのも変な話だけど。


「さてと、どうっすかなー」


 僕は学校に向かいながら、これからのことについて考える。

 問題は山積みだが、そこには未来がある。

 自らの頬が自然と緩んでいることに、その時の僕は気づけていなかった。

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