第二話:悪魔さんとぼっち生活
誰にも愛されることなく朽ち果てていくんだと思っていた。
幼い時分に家族を無くし、引き取られた祖父の家。
変わり者の魔法使いだった彼の家は、古い蔵の中にガラクタ同然のマジックアイテムを溜め込んでいた。
曰く、飲んだ者は恋に落ちるが、必ず死んでしまう劇薬。
曰く、魔力を極限まで高めるが、沈黙状態に陥ってしまうローブ。
曰く、聖霊と会話ができるが、人間の言葉が分からなくなってしまう鎧。
欠陥品だらけの品々に隠れて、祖父が後生大事に保管していたアイテムがあった。
――――"スレイマンの笛"。
曰く、悪魔を使役する際に使うマジックアイテムで、これを使えば我儘な悪魔の言うことを聞かせられるといったものだった。
「いつか、君にも素敵な悪魔が訪れることだろう……」
死ぬ間際にそう言い残して祖父は僕にその笛を渡してくれた。
かつて祖父もこの笛を使って悪魔と契約を交わしたのだろうか。
死んでしまった彼の魂が悪魔に奪われたのか、それとも天界に導かれたのか、それは分からない。
だが、僕に一つだけ言えるのは―――
「本当に一人になっちゃったな」
がらんどうになった祖父の家を売り払い、僕はいくばくかのお金を得た。
そのお金で、かつて祖父が教師をやっていた――エーテル魔導学園への入学を決めた。
ここなら寮もあるし、かつての祖父の知り合いもいるかもしれない。
そう期待をして高校入学と共に、エーテル魔導学園に通うことを決めたはいいものの……。
「一切、友達ができない……」
入学して半年、僕はそう絶望して図書館で頭を抱えていた。
もともと僕自身、他人に話しかけるのは得意なタイプじゃない。
だが、それ以上にエーテル魔導学園は小学生からある由緒正しきエスカレータ校で、高校から入学する人間は異端も異端、ほとんど存在していなかった。
「い、いや言い訳だよな……僕以外にも高校入学はいるし……」
しかも問題は、外部からやってきた人間も含めて、僕以外みんな「魔法のスペシャリスト」という点だった。
そりゃ冷静に考えてそうだった。
魔導学園という名前がついているくらいだ、魔法の知識があることが前提となる。
残念ながら僕は祖父のツテを辿って入学した経緯もあり、しかも中学までは魔法科目のない普通科の学校に通っていたこともあり。
「やっちまったぁー……っ」
深くため息を吐いて、こうして昼休みなのに図書館で勉強するハメになっているのだった。
「留年したら爺さんの遺産で足りるか分からんし、かといって勉強ばっかだと友達を作ることもできないし」
本来であれば、部活とか遊びとか青春っぽいことをすべきなんだろう。
だが、放課後は家の掃除に炊事洗濯、勉強と娯楽の欠けた暗黒の青春時代を送っていた。
強いて趣味を上げるとならば、爺さんの家で発見した……。
「あーせめて話し相手くらいいればなぁ」
家族がいればこんな風に考えなくて済むのだろうか。
暗い部屋に一人で帰るのは、日々堪えるものがあった。
「せめて家族がいればなぁ」
叶わぬ願いを虚空に漏らすのだった。