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「さっきの美女、あの制服ってミノッチと同じ学校の子でしょ?中学生には見えなかったー!
外国人はやっぱ成長の早さが違うねえー!」
キコが黙々と自らのオーダーを平らげ、怯える晴に一瞥もせずその後普通にただの客として帰っていった後、莉々がトレンチに空の皿を乗せながらバックヤードでパフェを作る晴に声をかけた。
「…僕の、元・学校ね。うん、普通に中学生だよ。
しかもイッコ下。」
「へー。あの子もあんたのファンなの?
随分鬼気迫る雰囲気だったけど、まーた手ひどいフり方でもしたぁ?」
晴が自主退学し日がな一日バイトに勤しむ様になってから、ここぞとばかりにファンを名乗る晴の追っかけが続々とこの店に押しかけた事は"美野和ウェーブ"と呼ばれ今や伝説になっている。
そして、騒ぐだけ騒ぎ迷惑をかけていることに労働の危機を感じ、晴はほぼ全員をこっ酷く追い払ったのだった。
「違うよ…キコはファンじゃないもん。」
「じゃあ友達ね?」
「友達……。」
に、なりたかったけど。と、晴は心の中だけで漏らす。
チョコレートパフェの仕上げに散らすアーモンドチップが砕けた心を表す様に指先から落ちていくのを虚しく眺めると、会話はもう終わりだとも言う様に銀のカルトンに乗せて晴はさっさとその場を後にした。
以前はテーブルを番号で覚えていたが今はそれが適わないために注文を聞いた時の客の顔を思い出す。
服装は…髪型は……。
「お待たせしました。チョコレートパフェでございます。」
口元にのみ笑みを浮かべてテーブルの脇につき、コースターとスプーンを並べていると客が訝し気に顔を上げて言った。
「私が頼んだの、これじゃないんですけど。」
「…申し訳ございません。」
晴は慌てて頭を下げ店内を見まわす。
特徴として覚えていたはずの、グレーのセーターを着た茶髪の女性…は、隣の席にもいた。
こっちだったか、と背筋を正し置いたものを引いていると、同席している男性が晴に言い放つ。
「最近あんた、調子悪いね。前までキビキビ働いてたのに。」
ぼんやりして意識していなかったが、その顔を確認すれば、二人は常連とは言わないまでも何度か此処に通ってくれている客だった。
「すみません。以後気を付けます。」
晴はもう何度も口にしている科白を繰り返す。
しっかりしないと、と思えど、治る見込みのない病に、これ以上どう対処すれば良い?
という諦めに似た気持ちが心に重くのしかかる。
――――数字が解読不可能になって、何か月経ったのだろうか。
晴は救いを求めるようにキコの手紙を早く読みたいと思ったが、時計が無いので休憩時間が解らなかった。




