08
それを受けて、男達は急に我に返ったように目を見開き、「ヒィイイイイ!!!」やら
「あ、ア…」等と銘々に呻き、叫んだ。
自分たちの身に降りかかる"犯罪者"という肩書の重さを今更ながらに自覚したのだろう、目には後悔と恐怖の色がありありと浮かんでいる。
キコは薄笑いを浮かべながら、自分の腹を確認して呟く。
「は、は…これではまだ…説得力無いですかね…」
そして、真っ赤な傷口を爪で探すと、ゆっくりと割くように両側に開いた。
流れる血液がその量を増し、紺色のスカートを侵食するように染み込んでいく。
「う、ぎ…んん…」
キコの噛み締めた奥歯から、隠しきれない悲痛な声が漏れ聞こえ、
男子生徒たちは慌てて目を背け出口へ駆け寄った。
「う、わあああああああああ!!!!!!!!!」
「あ、開けろおおおおおおおお!!!!!」
「開けろ早く!!!!!!」
「開けろーーーーー!!!!!」
ドンドンと扉を叩く仲間に対し、外で見張りをしていた男子が暢気に何事かと声を掛ける。
「何かすげー音したけど…大丈夫っすか?」
「うっせー、どけよ!!!!!」
「行くぞ!!!!!!!!」
力強くつき飛ばされて尻もちをついた見張り役の男が、我先にと縺れ合いながら階下の体育館へ降りていく4人をしゃがんだまま見送り、
「え、ちょっ…」と困惑しながらキコの残された倉庫を覗いた。
「ぎゃああああああ!!!」
次いで立ち上がろうと必死に後ろ手を伸ばそうとするが、腰が抜けたのかバタバタと足と尻で後ずさるその男を見下ろして、立ち竦んだキコはブリキのゼンマイ人形を思い出す。
音が反響しやすい体育館からは必死になって出ていこうとする男子生徒たちの足音が耳に入っていたが、やおら鉄製のドアが大きく軋む音が鳴った後、それは止んだ。
「お前たち何してるんだ!?ここは立ち入り禁止だろ!!!!!!」
恐らく硝子の破壊音に気付いた誰かが教師を呼んだのだろう。
その後は、阿鼻叫喚だった。
俺たちではない、自分がやったんじゃない、金を貰ったせいで、医学部に口利きしてもらえる約束だった、親に言わないで、頼まれただけ………!!!!!!!!
目だし帽を被って矢継早に大声で泣き叫ぶ男子たちに集まったギャラリーたちはただ事ではない雰囲気を感じ、
昼食を外で食べていた者を初め、人々が体育館を囲む濁流の如く押し寄せる。
教師は詰め寄る異常な4人を振り切ると全速力で倉庫に繋がる階段を駆け上り、
血だらけの制服を着て横たわるキコの姿を発見した。
「頭が重くて…立てません…」
キコはそのまま気を失った。




