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その反応を見て、晴は心底感激したように瞳を輝かせ、ややあって擽ったそうに笑った。
「では、要件も済んだし帰るとします。」
一方キコはいつもの様に冷静さを取り戻して螺旋階段の手すりを掴む。
「えっ?あ、あー、うん。じゃあね。」
晴は何か言いたげだったのを押し込めて、キコに手を振る。
帰ってきた自室で晴から貰った包みを開け、キコは思わず目を細めた。
小さなころからの大好物であるチョコレートブラウニーが、可愛らしくラッピングされて入っている。
しっとりとした触感に次いで、ほろ甘いチョコレートが舌の上に溶け、沢山混ぜ込んである香ばしい胡桃も丁度良いアクセントになっていた。
「こういう時……"普通の友人"なら、ラインのひとつもするのでしょうが。」
キコは行儀の悪さを自覚しながらも服のままベットに横たわり、天井から吊り下げられたペンダントライトを眺める。
しかし晴は携帯を持っていなかった。
固定電話があるのかさえも定かではない、というか、それを聞いてすらいないのだ。
単純で、従順で、犬の様に素直な晴の求めているものが何か。
キコにはソレが解らないほど馬鹿ではない。
欲しい言葉も知っていた。
"ありがとう"と言っただけで、尻尾が生えていれば千切れそうなほど振り回しているだろう喜び様だった晴の顔を、回想する。
それは、キコがまだ今の名前ではなかった頃に、
あの男から向けられたリアクションと被るところがあった。
「ほんと、簡単で………
恐いです。」
それが正直な感情だった。




