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+++インカレイド序章〈或いは無花果に爪先〉+++  作者: 音羽
たすけてだれかはもちろんぼくを。
21/44

08


 キコは意気消沈しながら帰宅の途を辿った。


明日から自分の居場所を何処に設定しようか、と考えながら普段歩かない道をわざと選んで遠回りする。


「待ってー」すると、後ろから聞き覚えのある声がした。

自分が呼び止められていることに気付いたキコは振り返り、その人物が近づいてくるまで待つ。


「本当に、懲りないですね。」


「でも、靴箱で待つの、はやめたよ」


晴は全速力で走って来たらしく、膝に手を付いて息を上がらせながら

まるでそれが誇らしいことであるかのように答えた。


…実際には、度重なるキコの時間ぎりぎり登校に、単に諦めをつけただけなのだが。


「私は早退ですけど、あなたは…」


「僕もそう。」


晴は自分の鞄を見せる。


「体調が悪いんですか」キコが尋ねると、晴はニヤリと笑って

「お互いさまでしょ」と言った。


「歩くの凄い早いし。ねえ、この前は僕がキコのお家で御馳走になったから、

今日は僕がおもてなしするよ!」


「料理、するんですか?」キコは晴が独り暮らしだという事を思い出し

怪しみながら尋ねるが、首を振ってそれは否定される。


「出来ない!でも、美味しいところ知ってるんだー。」


「そうですね。行ってみます。」


この時間に帰宅するという事で家族に不安な顔はさせたくないと思っていた矢先の誘い。

キコが頷くと、晴は目を一段と大きくさせて喜んだ。


「ほんとー!?じゃあ行こ行こ!!」



 馴染みのない路線の電車を一回乗り継いで、少し郊外の庶民的な街で降りた二人は

駅前の商店街を少し逸れた路地裏へ進む。


「ここだよー」


晴が案内した場所に見覚えがあったキコは「あ。」と声を上げた。

先日舞美に見せられたTwitterの画像の店だったのだ。

 白いヨーロッパ風の建物は、和の趣が強い家屋が立ち並ぶ周囲の環境から少し浮いてはいるが

独特の雰囲気を醸し出していて、逆にそれが味になっているような印象さえする。


クリスマスのデコレーションは取り外されていたが、間違いない。

ステンドグラスの窓、赤いサンルーフ、小さなテラス席を囲む黒いシャープなフェンス……。


「あれ?この店知ってるの?」その反応に驚いた晴が首を傾げる。

「……いいえ。雑誌か何かで見たことが有った様な気がして。

ここへは、よく来るんですか?」


キコが誤魔化して言うと、晴ははにかんで言った。


「僕のバイト先だよー」と。



――そういう事か。キコは納得した。


 あのピンクコートの女……アカウント名"eriri☆彡"は、クリスマスの日を晴と過ごすためにバイト先で待ち伏せしていたのだ。

それで、自分が巻き込まれて……全く、いい迷惑にもほどがある。


「ここ、オムライスが名物で、凄く美味しいんだよ!

ソースが二種類かかっててねー、今は流石に昼食後だからお腹いっぱいだと思うけど

ケーキも沢山あって美味しいよ。」


晴は表の小さな立て看板に書かれているメニューを指しながら、

キコの内心で渦巻く憎悪には全く気付かぬ風で喋り続けている。


「オムライス、良いですね。」


キコは頷くと、晴の横を通り過ぎてさっさと店内のドアを潜った。

金色の取っ手が付いた白い格子ドアの向こうには、外観から予想できる通りの可愛らしい空間が広がっている。


「いらっしゃいませー」

フリルのついた白いエプロンスカートにストライプのブラウスを着たウェイトレスが

メニューを携えながらカウンターから出てきて、キコを案内しようと頭を下げた。


「あれー?晴くん。」

そして、その後に続く晴の姿を見て表情が柔らかいものへと変わる。


「お友達……?って言うか、制服?」


「今日は午前中で終わりなんだー」


晴はしらっと嘘を吐いた。


「へー、そうなんだ。じゃあこちらの席、どうぞ。」

白をメインにした内装に、猫足で統一されたマホガニーの調度品。

余りにも乙女チックな店の趣味にキコは晴との不釣り合いさを感じて言った。


「えっと。私、あなたがバイトしてるのは御実家の和菓子屋だと思っていました。」


「僕の実家のこと知ってるんだねえ?」


「まあ、あまりに有名ですから。」

 

「でも僕、追い出されたんだよねー。」


晴があっけらかんと言ったのを耳にして、

キコはまあこんな子供なら当然か、と思う気持ちと、


いやまさか…質の悪い冗談を言うな、という気持ちが綯交ぜになった思いで晴を見た。




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