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+++インカレイド序章〈或いは無花果に爪先〉+++  作者: 音羽
たすけてだれかはもちろんぼくを。
19/44

06



 翌日も晴はキコの靴箱前で待ち構えていたらしい。

キコはそんなこともあろうかと、朝のショートホームルーム開始の8時30分直前に教室に入れるように計算して登校した。

遅刻取り締まりの為に校門前で見張る体育教師が「ギリギリだぞー!」、と叫ぶタイミングで門を潜る。


 ほぼ無人の廊下をやや速足で進み、教室に入ると、

それまでさざめいていたクラスメイト達のお喋りが一斉に静まり返った。

皆キコに集中し、道化師でもやってきたかの様な面白がった、だけど緊張感の走る顔で、

彼女が席に座るまでを目で追う。


 昨日とは違う、煌びやかな女生徒が一人

それを見計らって近づいてきた。


「おはよう。ねえ、今日も遅めの御登校なのね。」


「おはようございます。」


キコは簾の様に覆いかぶさった前髪の隙間から、その人物を確認して僅かに頭を下げた。

 初等科からこの学校に属するお嬢様、全国的にも名医が揃う事で有名な総合病院のトップの娘だかなんだか。

晴とはまた違った立場で学校を好き勝手に闊歩している内の一人、賛善(さんぜん) 舞美(まいみ)


彼女はキコの前の席に座っていた男子生徒を一睨みして追い払うと、ハンカチでその椅子をサッと撫で、

静かに座った。

「授業、始まりますけど。」

キコが教科書を用意しながら言うと、平然とした顔で

「今日は此処で、って決めたのよ」と答える。

すると即座に取り巻きらしい女子二人が、舞美の机から一限目の国語の教科書とノート、有名ブランドのポーチを取り出して持ってきた。

 それに対し礼も言わず、舞美は身体をキコに向けたまま、丁寧に折りたたまれた一枚の紙切れを胸ポケットから取り出して示す。


「こちら。御存知。」


キコは受け取って確認した。

それはSNSの画像をキャプションしてプリントアウトしたものだった。


"Merry Christmas☆これからSに会いに行ってきまーす(ドキドキ)"


という絵文字満載のコメントとともに、クリスマスの飾り付けがされたお洒落なカフェの外観写真が載っている。

投稿した人物のアカウントは

"eriri☆彡-恋する桃猫-"。



「……こいするとうびょう。」


キコはその語感の微妙さに、つい音読してしまった。


「っ、恋する、ももねこ、よ。」


舞美が訂正する。


「そこじゃなくて、こちら御覧になって、何か思うところないかしら。」

「ゴチャゴチャして読みづらいですね。」


キコは間を開けず即答した。


「そうじゃなくってよ。この人物について。」


「いえ…恋する桃猫さんなんて(ダサい名前)、知りませ……」


そこで、もう一度渡された紙を注視する。

アプリで大幅に修正された女性の顔がアイコンとして使用されている。


――見覚えがあるような。

キコは頭をひねった。


「これだけでは……」


すると、薄ら笑いを浮かべながら、舞美はもう一枚の紙を無言で差し出した。



"狂犬に襲われて、台無し!!!!!怪我もしたし最悪!!!"



日付は12月27日。

同じアカウント、eriri☆によってSNSに投稿されたものだった。


足に包帯が恭しく巻かれている画像がくっ付いている。



「あなた、狂犬をお飼いになっているの?」





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