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クリスマスにひとり、それがどうした、っていうんですか。
キコはイルミネーションに輝くビル街を後にする。
黒髪をひっつめて、顔には大量の吹き出物、毛玉だらけのコートは小学生のころ母親がスーパーで買ってきた、流行遅れの謎のブランド品。
手にはスーパーの白いビニル袋、祖母から食材の買い物を頼まれたためである。
非リア道一直線、驀進中!!!なナリの彼女を、すれ違うカップルたちは嘲笑った。
今も『あんなオンナじゃ、人生楽しめないっしょ?』と、いかにもパリピな男女混合集団の内の一人が自分を指さし呟いたのを聞いた所。
……人生の楽しみ?
それを受けて、キコは胸の内で自分に問いかける。
彼女の楽しみは、日本語を学ぶ為に祖母からお勧めしてもらった
80年代から90年代のドラマ、そしてその当時のお笑い番組を録画したVHSを鑑賞すること。
渋谷の街を我が物顔で闊歩して、騒ぎまくるか、我が家の炬燵にインしながら、ミカンを剥きつつ
"カトケン"や"あぶ刑事"を観れるか、なら確実に後者を選ぶ。
とは思えど、例えば、自分と同じような趣一風変わったシュミの人間がいたら、さぞかし楽しかろう。
というのは何度も妄想したことだった。
昭和、平成初期のテレビ好きで、チャラい雰囲気が苦手で、
外見のことに口を出さない14歳のお友達。
そんな存在と一緒に、クリスマスを楽しく語らいながら過ごす。
これがキコにとっては理想だった。
でも……そんな天然記念人物、自分以外にいるはず無い、
と思う。
天然記念物というより、ツチノコみたいな幻の生物レベルに発見は難しそうだ。
そう思って薄笑いを浮かべたそのサマが、ファッションビルのショウウィンドウへ不気味に反射し、
まるで井戸から現れる某幽霊のようだった。
(ウォッ、これって私ですか!!??)
自らのあまりのホラーっぷりに恐れをなし、足早に自宅へ急ぐ。
非リアと言えども、家は一等地の都会ど真ん中。
塀に囲まれた門を潜り、玄関の扉を開ける。
「おかえりなさい。」
「……ただいま帰りました。」
両親ともども海外で仕事をしている為に、キコは曾祖母の持ち家であるこの屋敷で暮らしている。
今日は週四でお手伝いに来てくれる佐伯さんがクリスマス休暇なのでキコが買い出しへ行ったのだった。
「外は人が多かったでしょう、ありがとうね。」
年をとっても洋装ではなく年中着物を着ている古風な祖母がわざわざ出迎えて、
キコの身体を労わる。
「そうですねぇ、やはりクリスマスともなればカップルが凄くて。」
まあ…ほほほ、と祖母は口元に手を当てて笑う。
「クリスマスだから恋人と、なんて、私の時には全く無かった文化だから不思議だわ。」
でも素敵ねえ、と言うのを聞いて、キコは幸福な人間のあり方をそこに見たような気がした。
それは、あなたが素敵な人間だからですよ、とキコは思う。
対する自分は、どうしてこんな文化が日本へやって来たのかと迷惑しているタイプの人間。
浮かれポンチに溢れる街並み、テレビ欄はクっダラない一年の総集編と銘打った特番に塗れ
"人間関係充実させない奴は愚か"というバカみたいな風潮。
どれもこれも嫌う自分。