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アグリ  作者: 佐藤成
『カサロ』の檻
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2)無知なアグリ

『カサロ』と言う国は美しい、綺麗、聖地として有名な国であった。

貴族ばかりで、店を見ても高級な物ばかり揃え、庶民的な雰囲気は一切無い。

だが、細い路地をずーっと行くと別世界のように私達の集落がある。

表には出せない者達が集まる所に私は住んでいる。

あっちの世界に憧れはしたけれど、こっちの方が落ち着けて過ごしやすい。

貴族達はこちらにはあまり手を出さない。たまに興味本位で来る人もいるが、すぐに引き返して行く。

あちらからすれば私達の世界は、醜く、汚いのだろう。だが、こちらからすればあの世界は綺麗過ぎて、近寄りづらい。

互いが干渉しないと言う事で、この国の二つの世界が存在する事ができる。

皆がそれで良いなら良いと思っていた。

あの男が来るまでは。


私はいつものように畑から野菜を調達し、近所に配っていた。

「はい、今日の野菜」

「いつもすまない。子供達がまだ幼いから面倒を見ていないといけなくてね」

この人は三つ子のお父さんで、奥さんが風邪で寝込んでいる為子供達の面倒を見ているのだそう。

「いいの。気にしないで。早く元気になると良いですね」

「ありがとう」

「お姉ちゃん!いつもありがとね!」と三つ子達が私にお礼を言う。

「あまりお父さんに迷惑かけないようにね」

「うん!」

そう言うと三つ子達は貰った野菜を手分けして家へ運んで行った。

「そういえば、三つ子ちゃん達の名前って決めたんですか?」

「うん、一応ね・・・。外では言えないけれど、家の中だけではちゃんと名前を呼んでるよ」

「私達でも、一人一人名前が呼べる日がきっと・・・」

「来ないよ」と後ろにいた少年が話しに割り込んできた。

この子は良く同い年の子たちを引き連れて遊んでいるリーダー的な子。

「僕たちが『アグリ』以外の名前で呼ばれる事は無いよ。この国で住んでいる以上は」

「そんな事、誰にも分からないでしょ?」

「分かるよ。この国にいる以上は、僕たちは人として見てもらえない」

そう、この集落から出たら私達は人として見られない。

醜い『アグリ』と言う存在でしか見てもらえないのだ。

「そうかもしれないけど、でもね。ここにいる人達は皆仲間よ、一人の人として生きていけるの。この世界の外に行かなくても生きていけるのよ」

「ここの皆がそう思っていないよ。現に僕はここで一生、生きて行くつもりはない。絶対にこの国を出て、自由になるんだ」そう言うと少年は家がある方へ走って行った。

「自由か・・・」それを聞いていた三つ子のお父さん。

「昔は皆そう思っていたよ。この国を出て自由を・・・って。でも、今この国を出て行っても生きる可能性は低いよ」

「他国との争いの事、ですか・・・?」

「そう、まだ私達のような『アグリ』を兵士として使っていないだけまだマシだ。ここから出てしまえば待っているのは死だけだ。そう思えば此処は平和で自由だ」


争いを目の当たりにした事が無いから何とも言えないが、きっと此処よりは酷いのだろう。

時々鉄砲や叫び声、爆発音がするがこちらには何の被害も無い。今、争いが起こっている事さえ忘れてしまうくらいに。

この国が負けてしまえばきっと私達『アグリ』も他の国に殺されてしまうのだろう。

だが、この『カサロ』は何百年も滅ぶことは無かった。

『カサロ』と言う国が生まれてからずっと危機に直面した事は無いと聞く。

余程強い国なのだろう。それはそれで嬉しいが、少し複雑な気持ちだ。

他の国と言っても、歴史や文化、地理さえも無知な私がそれ以上の事を知ることは無かった。

疑問に思ったことは家に帰り、育ての親である『アグリ』に聞くのだ。


「ただいま」

「おかえり。その顔だとまた何か聞きたい事があるのかい?」

この人が私を育ててくれた『アグリ』であり、義父にあたる人。

元々体が不自由であり、体を起こすのにも一苦労だ。だから家事全般は私がしている。大変だとかは思ったことは無い。この人が居なかったら、私は生きていない。そう考えるとそんな気持ちはどこかに消えてしまう。

「ねぇ、『アグリ』。私達は争いに、巻き込まれはしないの?」

『アグリ』は少し悩むとこう答えた。

「この世界に絶対は無いよ。今は争いには無縁だけれど、いつか私達もこの争いに巻き込まれてしまうだろうね」

「もし、巻き込まれてしまったら・・・私達はどうなってしまうの?」

「確実に死ぬ。訓練も何もした事の無い人が、やれと言われても出来るわけ無いだろ?そう言う者から消えて行くんだ。私達みたいな貧弱な者は、ただの道具として使われる。今こうしていられるのはまだ戦う事の出来る者たちが大勢いると言う事。そう長くは無いとは思うが・・・」

急に私の心は不安に締め付けられた。争いとは無縁では無い。いつか争いに巻き込まれてしまうと言う現実を、私は受け入れられるのだろうか。

黙ってしまった私を笑いながら話しを続けた。

「なんてな。こう数百年続いている争いが終わらないわけが無い。もうじきこの争いは終わる。勝敗は分からないがな」

「そうだよね。きっともう終わるはずよね!私、ご飯の支度するね」

そうよ、争いがずっと続くわけが無い。始まったのなら終わりもあるはず。

知らないうちに終わってしまえば良い、そう思っていた。


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