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別の世界で  作者: oki
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0歳~1歳

三ヶ月前の春先に祖母ちゃんが亡くなった。

二年ほど前に祖父さんが先立つと大分気落ちし、そこから立ち直ることなく風邪をこじらせそのまま逝ってしまったと電話口で母親が言った。

信心深くない僕だけど、向こうで二年ぶりに出会えていると良いと思った。

真面目が取り柄みたいな祖父さんとおっとりのんびりしていた祖母ちゃんは誰の目から見ても仲の良い夫婦だった。

特に祖母ちゃんはいつもニコニコしていて、僕に甘かった記憶しかない。

小学生の時分も両親が共働きだったのと、祖母ちゃん家が近かったせいで母親が帰ってくるまでの間や夏休み、春休みはそこにいるのが普通だった。

祖父さんもまだ働いてる頃だったから、祖母ちゃんと2人で居ることが多く、自然と祖母ちゃん子になった。

テストで良い点をとると、煎餅だったおやつがケーキになったりした。

母親に言われた時間を過ぎて遊んで帰ってきても、男の子だからね、と内緒にしてくれた。

相撲のチャンネルを変えて、多分祖母ちゃんにはつまらなかっただろう子供向けアニメを見せてくれた。

中学生にあがり部活に入ると、テスト前の期間や学校帰りに顔を見せるだけになった。

初めて出来た彼女のような存在と撮ったプリクラ写真を見られ、彼女のことを何も知らないのに、優しそうで僕が選んだ子なんだから良い子に違いない大切にしてあげてね、と言われた。

別れたことを知ると、僕の良い所はたくさんあるのにね、と我が身のように悲しんでいた。

高校生になると、土日に親に言われて様子を見に行ったり、荷物を届けるだけになった。

会う度に、風邪をひかないようにね、と言われた。

大学生になると長期休暇のある盆と正月にしか会わなくなった。

成人式に出るためにスーツ姿を見せに行くと、奥から火打石を探してきて見送られた。

社会人になると、会わなくなった。

久しぶりに会ったのは祖父さんの葬式で、それが最後だった。

次に会った時には、子供の頃に見た柔らかい笑みを浮かべたまま動くことのない姿になっていた。

後悔という言葉を28歳にもなってから知った。

「どうにもならないことなんてない」

祖母ちゃんがよく言っていたけど、あった。

それから逃げるように自分の居場所に戻ると、母親から荷物はどうすると連絡が来た。

話を聞くと、思い出がある家だからと最後まで出ることのなかった祖母ちゃんの家は相続税のために売られることになるらしい。

だから、祖母ちゃんの家にある僕の荷物を引き取りに来るようにと言われた。

勝手に捨てて良いと思ったが、その前に祖母ちゃんは元々家は売るように遺言をしていたと耳に届いた。

他にも幾らか資産もあり、僕の将来のために使うようにと言われたとも。

電話をきった後、丁度家に来ていた彼女に電話の内容を伝えた。

結婚を考え、探るような話もチラチラと出ていた。

僕もこの人とするだろうなとなんとなく感じていた。

料理を運んでいた彼女は、急に問題の一つであったお金のことが解決することに喜びの表情を浮かべると、すぐにそれに気付き、いたたまれないような顔になった。

僕は、なぜかその笑みが死にたいくらい嫌でたまらなかった。


その夜から記憶がない。





気が付くと、僕は知らない世界で赤ん坊になっていた。

どうぞよろしくお願いします。

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