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平凡なる皇帝  作者: 三国司
第四章 解術と戦争と帝国の希望と

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19

「おはようございます、ハル様」


 ドラニアスでの朝の目覚めは、侍女の声から始まる。


「ハル様、朝ですよ」


 侍女は五人全員がハルについている事もあれば、他の仕事をしていたり休憩を取っていたりで、一人か二人しかついていない事もある。

 けれどぐっすり眠っているハルを起こし、顔を洗わせ、着替えをさせて髪を整えて、という朝の支度には人手がいるらしく、毎朝五人が揃ってハルを起こしに来る。


「ハル様」


 侍女の一人のマキナが、ハルが被っている毛布をどけた。


「見て、この可愛らしい寝顔を。画家を呼んで絵に描いてもらいたいわ」

「本当ですね」


 侍女たちは半分冗談半分本気の口調でそんな事を言いながら、ハルの寝顔を覗き込んでいる。


「うう……」


 ハルは不穏な空気を感じ取って目を覚ました。間抜けな寝顔を絵に描くとか、そんな恐ろしい話が聞こえた気がする。


「あら、おはようございます」


 マキナはうふふと笑って、他の侍女たちと一緒に体を引いた。


「おはよう……」


 ハルはのっそり起き上がって挨拶を返す。枕元で丸まって寝ていたラッチもごそごそと起き出した。

 あくびをしながらベッドから降りると、侍女たちに素早く周りを囲まれて、朝の支度を整えられていく。すごい連携技だ。


 今日もドラニアス風の詰め襟の衣装だが、昨日と違ってワンピースタイプで、スカートは膝丈。色はラッチの体色のような橙色だった。

 髪は左右で二つに分け、三つ編みにしてもらった。

 そして身支度が終わると、今度は朝ごはんだ。寝室の扉を開けて居室へ入ると、クロナギとアナリアがそこで待機していた。


「おはようございます、ハル様」

「おはよう、クロナギ、アナリア」


 ハルは挨拶をしながら、観察するようにじっと二人を見た。疲れている様子はなく元気そうだが、一つ疑問に思う事があったのだ。


「二人とも、いつ休んでるの? 昨日の夜、私が寝室へ入る時にもこうやってここで見送ってくれたのに」

「ご心配には及びません。ハル様がぐっすり眠っておられる間に、我々も休んでいますから」


 クロナギは朝日を浴びながら爽やかに笑った。ハルがどれだけ熟睡しているかを知っているような口調だ。深夜に寝顔でも覗かれたのかもしれない。

 

「アナリアとオルガ、ソルとヤマトは交代で護衛につきますが、基本的に俺はハル様が眠られた後に寝て、ハル様が起きられる前に起きるようにしますので、日中はずっとお側にいますよ」


 竜人の睡眠時間は人間よりずっと短くて済むので、それも可能なのだろう。

 クロナギが休んでいる間は、ヴィネスト残りの四人のうちの誰か――最低でも二人――が居室の方に控えていて、さらに廊下にはジラスタの竜騎士が警備に立っていてくれているらしい。


「そうなんだ。ちゃんと休んでるならいいよ。でも、丸一日休める休日もしっかり作ってね」


 クロナギの体を気遣って言ったが、クロナギは「はい」と返事をする事なく、相変わらず爽やかにほほ笑むだけだった。休日なんていらないと思っていそうな顔だ。


 仕方がないなと思いつつ、朝食を食べるため、気を取り直してテーブルに座る。

 バルコニーに続く硝子扉から外を見れば、青い空には今日も野生のドラゴンたちが飛んでいた。

 と、その中から赤と黄色の飛竜がぐんぐんと禁城に近づいて来るのが見えた。きっとラッチの両親だ。

 

「ラッチをバルコニーに出してあげて」


 侍女たちにそう頼む。

 この日の朝食は、ラッチが両親と戯れているのを見ながら楽しく食べ終えた。


 その後、アナリアが休憩に入り――アナリアは昨晩、夜通しで警護についてくれていたらしいのだ――代わりにオルガがやって来る。ちなみにソルはまだ寝ていて、ヤマトは即位式の準備を手伝っているらしい。

 オルガがハルの三つ編みをいじってくるので、それに反撃をしながら軽く体を動かす。オルガとじゃれ合っているとちょうどいい運動になる。

 

「ハル様、そろそろ八賢竜が来られますよ」


 ハルがいい汗をかき始めたところで、クロナギが言った。


「あ、そうだった」


 今日の午前中は、八賢竜の一人にドラニアスの歴史を教えてもらうのだ。ハルはドラニアスの事をあまり知らないので、即位式までに少しでも知識を入れておきたかったから。

 けれど即位式が終わった後も勉強は続け、歴史だけでなく、この国の政治や法律、地理なども教わらねばならない。勉強はハルの毎日の仕事の一つになるだろう。

 

 ハルの教師を買って出てくれたのは、八賢竜たちやナルフロウの将軍のサザ、それにサイファンだ。

 行儀作法の教師は、上級貴族であるクロナギの両親に頼む事になった。まだ会った事はないがクロナギに似ているのだろうか。ハルもそうだが、向こうもハルに会うのを楽しみにしてくれているらしい。


 と、そんな事を考えていると、廊下の扉が二度ノックされた。侍女が扉を開けると、八賢竜の三人が、孫に会いに来たおじいちゃんのような笑顔を浮かべてハルに挨拶をした。


「あれ? 三人もいる」

「今日の教師はベアズ老だけの予定ですが」


 ハルが首を傾げ、クロナギが注意するように言う。


「ここへ来る途中でばったり会ってな」


 ベアズというらしい比較的小柄な老人が苦笑いし、年の割に体の大きい残りの二人は、「いいじゃないか」と誤魔化した。


「勉強するのに教師が増えて困る事はないだろう」

「さぁ次代よ、さっそく勉強だ。美味しい羊羹を持ってきたから、食べながらやるといい」

「ヨーカン?」


 羊羹を知らないハルを連れ、八賢竜の三人は朝食の片付けが終わったテーブルに座ると、控えていた侍女に声をかけた。


「マキナよ、お茶を四人分淹れてくれ」

「じいさんたち、ここに茶を飲みに来たのかよ」


 自分たちのペースで話を進める三人に、オルガが呆れたように言ったのだった。



 その日は特に変わった事もなく、のんびりと時間が過ぎていった。

 相変わらず空ではドラゴンたちが飛んでいるし、城の外ではハルの噂を聞いて駆けつけたドラニアスの国民たちの姿も見え、少し騒がしかったが。

 彼らは、混血の皇帝なんて認められないと即位式の準備を邪魔しに来たのではないかと思ったが、門を越えて敷地内に入ってくる事もなく、ハルのいる禁城の最上階を大人しく見上げていた。


「私が皇帝になっても、ぼ、暴動とか起こらないよね?」


 バルコニーに面した硝子扉の端に立ち、そっと地上を見下ろしながらハルが言うと、クロナギはくすりと笑った。


「起こりませんよ。皆、ひと目ハル様の顔を見たくて集まっているだけです。即位式の後で、ハル様にはこのバルコニーに立って国民への顔見せをしていただくのですが、それを待てないのでしょうね」

「そうなのかな」


 ハルがカーテンから顔を出すと、門の外にいた国民たちがワッと歓声を上げた。竜人は目がいいので、この距離でもハルの姿を確認できるようだ。

 ハルは慌ててカーテンに隠れると、困った顔をしてクロナギを見上げる。


「どうしよう、緊張してきた。明後日の即位式、ちゃんとやれるかな。途中で転ばないようにしなくっちゃ。それに顔見せって、バルコニーに立って何をすればいいの?」

「集まった民衆に手を振るだけですよ。大丈夫です」


 即位式に来るのは、主にドラニアスの貴族たちだ。ルカの事も招待しようかと思ったが、今は忙しい時だろうし、元々ドラニアスの即位式では外国の人間は呼ばないので――そう決まっているわけではなく、単に外国とほとんど交流がなかったから呼ぶ人がいなかったというだけだが――国内の要人だけを集めて行う事になった。


 そして即位式が終わると、今度はバルコニーに出て、集まった民衆に手を振る。この日は正面の門が開放されるので、一般国民も禁城の広場に入る事ができるのだ。

 そして即位式の日の夜には、禁城の一階で夜会が開かれ、ハルは貴族たちと挨拶を交わす事になる。

 

「即位式の日は、私は三つ任務をこなさないといけないって事だね。即位式と、国民への顔見せ、貴族たちとの夜会」


 ハルは指を折って数えながら言った。

 クロナギは難しい事は何もしないから大丈夫だと言うが、その三つが無事に終わるまで、緊張は解けそうになかった。



 翌日、ハルは即位式の予行をしたり、衣装の最終的な調整をしてもらったりしながら一日を過ごした。

 息抜きがてら途中で竜舎に行き、クロナギのドラゴンであるヨミや、アナリア、オルガ、ソル、ヤマトのドラゴンたちの世話をしたり、昨日来たベアズたちとは別の八賢竜たちがお菓子を持って部屋を訪ねてきたので一緒に休憩を取ったりした。

 レオルザークや四将軍たちは即位式の準備で忙しいようで、日中に顔を見る事はなかった。

 

 夜になるとハルはそわそわと落ち着かない気分のまま寝室に入ったが、やはりすぐには眠れず、いつの間にか一時間ほど時間が経ってしまった。

 枕元ではラッチがいびきをかいて呑気な寝顔を晒している。ハルはそれを羨ましく見つめた後、もぞもぞと寝返りを打つ。


 するとその後すぐに、居室につながる扉からクロナギが顔を出した。

 居室の方からは蝋燭の揺れる灯りが漏れてくるが、それほど眩しくはない。


「ハル様? 眠れないのですか? 先ほどからよく寝返りを打っておられますが……」


 そう言いながらクロナギは寝室に入ってきた。隣の部屋にいるのに、寝返りの音までよく聞いているなとハルは思った。

 

「緊張して……」


 ハルが起き上がると、クロナギはさっと上着を羽織らせてくれる。


「クロナギは寝ないの? 私が寝てる間に眠るんだって言ってたのに」

「もう少ししたら自室へ戻ろうかと思っていました。ですが俺もまだ眠くはないので、ハル様が眠りにつかれるまで付き合いますよ」

「ありがとう。ねぇ、そっちの部屋に行ってもいい?」


 ハルは居室の方を指差して言った。暗い寝室でベッドに寝転がっていても、即位式でヘマをしないかとあれこれ考えてしまって眠れそうにないからだ。

 

「ええ、構いませんが……」


 クロナギと一緒に寝室を出る。居室にいるのはアナリアと夜勤の侍女一人くらいかと思ったが、ヤマト、オルガ、ソルもいたし、他に予想していなかった人物たちもいた。

 レオルザークとサイファン、そして四将軍たちだ。


 蝋燭を挿した燭台をいくつか置いているだけのぼんやりと明るい部屋の中で、テーブルを囲んで何やら話をしている最中だったようだが、ハルが姿を見せると皆こちらを振り返った。

 ヴィネストのメンバーとサイファンは立っているが、レオルザークと将軍たちはソファーに座っている。


 居室にはテーブルセットが二つあって、一つは奥のバルコニー側にあるハルが食事をしたりする時に使う足の長いテーブルと椅子のセットだが、今、皆が使っているのは、廊下側にある足の短いテーブルとそれに合わせたソファーの方だった。

 テーブルの上には禁城の見取り図と、侍女が淹れたお茶が人数分置いてあり、湯気が立っていた。


「皆、何してるの?」

「申し訳ありません、煩かったですね」


 サイファンが謝ってくるが、ラッチのいびきにかき消されていたのか話し声はほとんど聞こえてこなかったし、彼らが居室に入って来た事さえ気づいていなかった。

 

「明日の即位式の警備について、最終調整をしていたんですよ」


 サイファンはそう言いながら、ハルの背をそっと押してソファーに座らせる。ソファーはテーブルを囲むように三つ置いてあったが、レオルザークの横しか空いていなかったのでそこに座った。

 レオルザークはハルが夜中に起きてきた事にいい顔をしない。それほどひ弱ではないけれど、ちょっとでも寝不足になれば体調を崩すのでは? と思われているみたいだ。


「緊張して眠れないの」


 小言を言われる前に先手を打ってそう宣言すると、レオルザークは諦めて、ハルに厳しい視線を向ける事をやめてくれた。

 レオルザークの眉間にはいつも皺が寄っているが、今、険しい顔になっているのはハルの事を心配しているせいだろう。


 クロナギは冷静にハルの体調を見極めてくれるが、レオルザークはまだハルがどれほど睡眠を取ればいいのか、どれくらい無理をすれば体調を崩すのかが分かっていないようで、ハルが健康的な規則正しい生活を送っていないと不満そうな顔をする。

 一見そうは見えないが、実は誰よりも過保護なのかもしれない。


 一方グオタオやラルネシオは、今から緊張しているハルに対して、クロナギと同じような事を言ってくる。


「次代よ、緊張などする必要はないぞ」

「そうさ、気楽にしていればいい」

「気楽になんてできないよ。かしこまった儀式とか慣れてないんだもん」


 ハルはスリッパを脱ぐと、ソファーの上で小さくなって自分の膝を抱えた。


「失敗しても誰も笑わん」

「そうとも。即位式に来るのはドラニアスの国民だけ。つまり味方ばかりなのだから、あまり気負わずに」


 ジンは腕を組んだまま、サザは穏やかに笑って励ましてくれた。

 皆からそう言われると、何だか大丈夫な気になってくる。玉座に上がる時に転んだって、オルガが笑ってくれるだろう。

 将軍たちやレオルザークはまた警備の話に戻ったので、ハルは皆の話し声を子守唄の代わりにして、そっと目を閉じたのだった。




 即位式の当日、朝起きるとハルはちゃんとベッドで眠っていた。昨夜はソファーに座ったままいつの間にか寝てしまったはずだが、クロナギあたりが寝室へ運んでくれたのだろう。

 しかし部屋に入ってきた侍女たちに訊くと、運んでくれたのは確かにクロナギのようだったが、その前にハルはちょっとした事をやらかしてしまっていたようだ。


「え? 昨晩ですか? 昨晩はハル様、レオルザーク様の膝で眠ってしまわれたんですよ」


 眠ってしまったハルが体勢を崩し、隣りにいたレオルザークの方へ倒れ、そのまま固い膝を枕にしてしまったらしい。

 

「レオルザーク様ったらすごく困惑されていて……笑ってはいけないと思うのに、オルガ様やラルネシオ様が笑われるので……ふふっ、私も笑ってしまって」


 言いながら、思い出し笑いをしている。よっぽど面白かったんだろう。


「私も見たかったな」

「貴重な光景でしたよ」

 

 そんなお喋りをしながら、いつものように彼女たちに手伝ってもらって身支度を整える。

 今日の衣装は少し光沢のある布で仕立てられていて、色は落ち着いた緑色だ。廊下に飾ってある肖像画の、歴代の皇帝たちの髪色のように綺麗な色だった。

 また、金糸を贅沢に使って刺繍がされているので、この衣装をこの三日ほどで完成させたのだとすると、お針子たちは大変だっただろうと想像せずにはいられない。アナリアは、ちゃんと十分な報酬を仕立屋やお針子たちに渡してくれただろうか。

 足りないようなら、自分の少ない貯金の中から特別報酬を渡してあげないといけないなと考えながら、ハルは呟いた。


「本当に素敵な服だもんね」


 独り言のつもりだったが、侍女たちも「そうですね」と同意してくれた。

 ひらひらの襟が特徴的な白いブラウスの上には、緑色の軍服のようなかっちりした上着を着込む。下のズボンも上着と同じ緑色で、丈は太ももが出るくらい短い。

 ジジリアでも家の仕事を手伝わなければならない農民の子は長ズボンを穿き、王族や貴族の子どもは半ズボンを穿いたりするが、ドラニアスでもそうやって身分を表す事があるのかもしれない。


 ブーツは軍靴のようなしっかりした作りのものを履かされたので、歩くと少し足が重い。即位式で転ぶ可能性がちょっとだけ高まってしまった。


「今日も髪を結ぶ?」


 ハルが尋ねると、マキナは優しくほほ笑んで答えた。


「今日はそのままでいきましょう」

「うん。分かった」

「けれど、前髪のその寝癖だけは直しておきましょうか。それはそれで可愛らしいですけど、即位式にはちょっと……」


 髪を綺麗に梳いてもらい、準備を整え、寝室を出る。

 居室では、ヴィネストの五人がきっちりと軍服やマントをまとい、控えていた。

 クロナギは黒い長剣、ソルは二本の曲剣、アナリアは鞭、オルガは鋼の改造籠手と、それぞれ愛用の武器を身につけている。


「皆、格好良いね」


 見知った顔なのに、違う人を見ているような気分だ。


「ハル様、俺は?」


 ハルの視線が自分に向いていない事に気づいたヤマトが言う。ハルは笑ってヤマトの事も褒め称えた。


「ヤマトも格好良いよ」


 顔が地味なので若干衣装に負けている感じはあるが、それは今日のハルも同じなので言わないでおく。

 ちなみにヤマトの愛用の武器であるナイフは、腰に控えめに携えられていた。


「ハル様も、よくお似合いです」


 感無量といった様子でクロナギが言う。

 最初は皇帝になるのを嫌がっていたハルが、こうやって即位式に臨もうとしている姿を見て、何か感じるものがあるのかもしれない。ご立派になられて……などと言い出しそうな雰囲気だ。


 即位式は午前中に行われるが、まだ時間に余裕があるので、衣装を汚さないように首元と膝の上にナプキンを掛けてもらってから朝食を取る。

 その後、もう一度即位式の流れを予習しながらラッチと戯れ、ソファーでごろごろしていると、あっという間に時間になってしまった。


「支度は整いましたか?」


 サイファンが呼びに来たので、もう一度髪を侍女に梳いてもらい、服に皺ができていないかチェックしてから部屋を出る。

 即位式は禁城一階の大広間で行われるので、クロナギたちと一緒に階下へ降りた。ラッチは部屋で留守番をしてもらおうと思っていたのだが、ついて来たそうにしていたので、サイファンに抱っこしていてもらう。

 

「うう、ダメだ。やっぱり緊張する」


 ハルは廊下を歩きながら唐突に言った。

 城の中の空気もいつもとは違い、静かに興奮しているようで落ち着かない。視界に入る使用人たちは皆、慌ただしく動き回っている。

 顔見せまではまだ時間があるというのに、城の門の外ではすでに民衆が集まっているようで、ざわめきがここまで聞こえてきていた。

 ドラニアスの貴族たちも、もう大広間に入っているはずだ。

 ドキドキと高鳴る心臓を押さえてハルが不安な顔をしていると、後ろにいたオルガが呆れたように口を開いた。

 

「総長の膝枕で寝てた奴が、即位式の何を怖がるんだよ」

「そう言われると、そうかも」


 息を吐いて気持ちをほぐし、ハルは禁城の広い階段を降りていった。


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