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時間は少し戻って、ハルがウラグル山脈で赤い飛竜に攫われた直後、オルガとソルもラマーンへ入っていた。砂漠を超えてドラニアスへ向かうためだ。
ハルを探すため、クロナギはウラグル山脈周辺を、アナリアとラッチはラマーンを、オルガとソルはドラニアスを当たる事になったのである。
しかし、ハルを捜しつつラマーンを西に移動していたオルガとソルは、一日経ってもまだこの国を抜けられないでいた。
走っても砂に足を取られてスピードは出ない上、無駄に体力を削られ、さらにこのぎらぎらとした太陽が気力を奪っていくのだ。
「暑ぃ……」
砂漠に照りつける暴力的な日差しには、さすがのオルガもうんざりとした声を上げた。
上半身は服を脱いで裸になっていて、腕につけていた鋼の籠手も取り外してリュックに仕舞ってある。目玉焼きが作れそうなほど熱くなってしまうからだ。
いくら暑いからといっても、人間ならば日焼けでは済まない火傷を負う可能性があるので、この日差しの下で素肌を見せるのは肌の強い竜人でなければ自殺行為になる。砂漠の厳しさを知っているラマーン人やサイポス人が見たらぎょっとするだろう。
ソルは服こそ脱いでいないが、汗で髪をしっとりと濡らしながら、いつも以上に言葉少なに黙々と砂丘を登っていた。
環境に合った服や装備なしに砂漠を横断すれば、さすがの竜人でも疲れてしまう。
「方向こっちで合ってんのかよ」
「知るか……」
四方を確認しても延々と黄色い砂漠が続いているだけ。目のいい竜人でも蜃気楼の奥までは見通せない。
「飲みもんも、もう全部飲んじまったしなぁ」
オルガは呑気に言った。人間ならば死亡が確定するような状況だが、竜人の二人にまだ危機感はない。
しかしさすがにもう砂漠には飽きてきた、とオルガが唸りそうになったところで、運の良い事に救世主が現れた。
オルガたちの前方の空を、四人の竜騎士がドラゴンに乗って飛んでいたのだ。
四人もこちらに気づいていて、怪しい奴らだと思ったのか近づいてくる。砂漠で上半身裸になっている男がいれば、確かに異常だ。
「お、ラッキー」
オルガは手に持っていた上着を振って竜騎士の到着を待った。
四頭のドラゴンが砂漠に着地すると、騎乗していた竜騎士たちもその背から地面に降り立つ。いずれも若く、男が三人に女が一人、全員軍服を着用している。
「お前たち、ラマーンの人間じゃ――……ない?」
その中の一人がオルガとソルを見て、ぽかんと口を開けた。
「……え? オルガさんと、ソルさんですよね? “紫”の……」
他の三人もオルガたちの顔を知っていたようで驚いた顔をしている。紫のメンバーは、ヤマトを除いてドラニアス軍の中では有名なのだ。
こちらの事を知っているなら話は早いと、オルガは悪い笑みを浮かべた。
「よう! いいところで会ったぜ。お前ら見回りの最中か? 行方不明の王子を探してんだろ?」
親しげにガシッと肩を組まれて、若い竜騎士は緊張ぎみに体を縮こませた。
「は、はい。そうですが……」
「実は俺らも人探ししてんの。急いで見つけてやんねぇと死んじまうかもしれねぇんだよ」
「はぁ」
「だからな、ちょっとお前のドラゴン貸してくれ」
「え、あ、ちょっと!」
勝手にドラゴンの背に乗って手綱を握ったオルガに、竜騎士は慌てて声を上げた。オルガの隣では、別のドラゴンにソルもちゃっかり騎乗している。
「困りますよ!」
「いいだろ貸してくれたって。あと二頭いんだから、お前らは二人乗りすりゃいいし。じゃあな!」
自分がソルと二人乗りして借りるドラゴンの数を最小限で抑えようという気はさらさらないオルガが言う。
しかしこうして、オルガは持ち前の強引さで竜騎士からドラゴンを二頭借りたのだった。ほぼ強盗のような手口なので、奪ったという方が正しいが。
ドラゴン二頭は困惑して主人を見ながらも、長い物には巻かれろ精神でオルガとソルに従う事を選んだようだ。二人の合図に従って空へと飛び立つ。
残された竜騎士四人はオルガたちからドラゴンを奪い返すほどの勇気はないようで、「何なんだ……」と呟きながら呆然としていた。
「よし! これでさっさと砂漠を越えられるぜ」
オルガとソルはそれぞれが乗っているドラゴンに速度を速めるよう指示を出すと、風に髪を煽られながらラマーンの空を横断していく。
ドラニアスから出てくる時にも、オルガとソル、アナリアはドラゴンに乗って海と砂漠を超えてきたのだが、ジジリアでは目立ち過ぎるからと、クロナギやハルを見つける前にドラゴンだけドラニアスに返していたのだ。
たまにラマーン上空で見回り中の竜騎士と擦れ違って目を丸くされつつ、しばらく砂漠の空の旅を続けると、やがて大陸の終わりが見えてきた。
その奥には紺碧の海が広がっており、さらにその向こうには、岩山が目立つ大きな島も確認できる。
あれがドラニアス帝国だ。
「よし、いいぞ。スピード落とすなよ」
ドラゴンの首を軽く叩いて叱咤すると、オルガはドラニアスを見据えて口角を上げた。時折吹く海上の強い風にも負けず、ドラゴン二頭はぐんぐんと前へ進んでいく。
「ハルを攫ったのは赤い飛竜だったよな」
「ああ、“赤”だろうな……」
ドラニアス軍は東・西・南・北・中央で五つに組織を分けているのだが、飼育されている飛竜の色もそれぞれ青・白・赤・黒・黄で違うのだ。
東の青に所属する竜騎士たちが乗るのは青系のドラゴンだが、例えば緑のドラゴンなどは青みが強いと東に配属されるし、黄みが強いと中央の黄に移される。また黒にも見える濃い深緑色なら北の黒に行く事になるだろう。
つまり軍で飼育されている飛竜は、体色を見ればどこの組織で飼われているドラゴンかが分かるのである。
ハルを攫った飛竜は鮮やかな赤い鱗を持っていたので、南の赤に所属する個体で間違いない。
オルガは手綱を操って、ドラゴンの鼻先をドラニアスの南へと向けた。
ドラニアスは海に囲まれているため、国境警備にはそれほど人員を割いていない。船で海を渡ってくる者は警戒されるが、ドラゴンに乗ってくる者はいちいち調べられたりはしないので、オルガとソルは誰に止められる事もなく、ドラニアスの上空へと入った。
ドラニアスには緑も多いが、赤茶けた岩石地帯も多い。平地では竜人たちが町をつくって生活しており、鋭く尖った岩山では野生の岩竜、飛竜たちが生息している。
ドラニアスの真ん中、黄が管理する中央地区にそびえ立つ建物は、政治の拠点でもあり皇帝の住居でもある禁城だ。
白と渋い緑と赤で塗られたこの城は、ジジリアにある白亜の城やラマーンの派手派手しい宮殿とはまた違った趣きのある建物だった。
今は皇帝という主がいないという事もあって、どこか寂しい雰囲気をまとっている。
オルガたちはそんな禁城を横目に、南を目指して飛んで行く。
すると一時間以上経った頃、やっと赤の要塞が見えてきた。
要塞といっても、ドラニアスに攻め込んでくる他国の人間などいないので戦争で使われた事はない。
しかしずっと昔、まだ皇帝が現れる前のドラニアスでは国は五つに分かれていて、竜人同士で戦争を繰り返していた歴史がある。
その時に建てられた要塞はさすがに残っていないものの、同じ場所に竜人たちは要塞を建て直したのだ。
オルガとソルは石の要塞に近づくと、そこに併設されている竜舎に降り立った。
軍人ではない竜人が勝手に入らないように見張りはいるものの、やはり敵がいない島国という事もあって要塞の警備は緩い。
エドモンドがいた頃の禁城などはもっとしっかり守られていたのだが、軍人ばかりが仕事をしているこの要塞では、重要書類くらいしか守るものがないのだ。
オルガ、ソルが竜舎に近づくと、そこでは軍服を着た十三歳ほどの少年が二人、赤いドラゴン三頭をなんとか竜舎の中に入れようと奮闘しているところだった。
「もう! 言う事をきけって!」
「こら、引っ張るなよー!」
どうやらドラゴンたちはまだ遊びたいようで、綱を引かれても体を押されても、その場で踏ん張って竜舎に入るのを拒否している。
少年二人は竜騎士見習いだろうが、ドラゴンたちは頭がいいので彼らがまだ半人前である事を分かっているのだ。それで少年たちをからかうように尾を振りながら抵抗している。
「おい、遊んでんじゃねぇぞ」
「あ、申し訳ありません……!」
上着を羽織りながらオルガが凄むと、少年二人はハッとこちらに気づいて顔をこわばらせた。オルガとソルは軍服を着ていなかったが、その体格や雰囲気から竜騎士だという事は分かったようである。
「お前らに言ったんじゃねぇよ。ドラゴンに言ったんだ」
オルガは少年たちに向かって気軽にそう返すと、一番前にいたドラゴンの綱を引いた。
「おら、さっさと入れ」
「ぎゃう……」
ドラゴンはオルガには敵わないと感じたのか、拗ねたように鳴きつつもすごすごと竜舎の中に入っていく。そして他の二頭も慌てて前の一頭の後を追った。
「あ、ありがとうございます」
「おう」
調教師は別にいるものの、ドラゴンたちの世話や竜舎の掃除は基本的に竜騎士見習いが担当する。全ての竜舎でそうなので、見習いがドラゴンに遊ばれて困り果てている姿は、東西南北・中央、どこでもよく目にする光景だった。
オルガは少年に軽く手を上げながら、ソルと二人で広い竜舎の中を調べていった。
竜騎士とラマーンへ出ている者が多いのか、あるいは放牧中の者がいるのか、中に残っているドラゴンはまばらだ。
「あのー、何か御用でしょうか?」
「ちょっとな」
後ろをついてくる少年たちに適当に答えつつ、オルガはハルを攫った赤い飛竜が戻ってきていないか探した。
「おい、奥の……」
ソルに言われて、一番奥の角で疲れたように眠っている真っ赤なドラゴンに目をやる。赤茶色や赤紫、濃い橙色といったドラゴンたちが並んでいる中で、一際目を引く鮮やかな赤色だ。
「あいつに間違いないな」
その体色と、まだ子供っぽさの残る丸い顔を見てオルガが断言する。人間には難しいかもしれないが、ドラゴンと接する事の多い竜騎士ならばだいたいの見分けはつく。
「起きろ」
鼻筋をパシパシと叩いて声を掛けるが、気持ちよさそうにまぶたを閉じたまま起きないので、今度は体を揺すってみる。
「おい! ハルをどこへやったんだ――……ってお前、怪我してんのか」
「……んぎゃ?」
やっと目を覚ました赤いドラゴンの片翼には包帯が巻かれてあった。
オルガは少年二人の方を振り返って訊く。
「こいつどうしたんだ? いつ戻ってきた?」
「えっと、しばらく行方不明だったんですけど、昨日ふらっと帰ってきたんです。どこかで攻撃されたみたいで、翼に矢が刺さったまま戻ってきました。先生に診てもらって、怪我は大した事ないみたいです」
「こいつ一頭だけで戻ってきたのか?」
「はい、一人で」
「おいおい、どこで誰に攻撃されたんだ? ハルは無事だろうな。あいつをどこに落としてきたんだ、お前は」
ドラゴンの頬をぐにぐにと伸ばしながらオルガが尋ねても、「ぎゃうぎゃう」という文句が帰ってくるだけだ。
「俺たちも……ラマーンに戻って探すか? ラマーンで落としてきた可能性が高いだろ……」
ぼそっとソルが喋ると、オルガは苦い顔をして答えた。
「そうだな、けど俺らだけじゃ人手が足りねぇよ。ラマーンは広いんだ。ハルの奴、生きてんだろうな。海に落とされてなきゃいいが」
焦燥感から、イライラと歯噛みする。
そして少年に向かって「将軍はどこだ?」と尋ねると、
「ここにはいらっしゃいません。今日は確か禁城に……」
彼が最後まで言い終わらないうちに竜舎の外に飛び出した。
「ドラゴン二頭借りるぞ」
「え、あの、上官に訊いてこないと……!」
ここまで乗ってきたドラゴンはオルガたちが急がせた事もあって疲れを見せ始めていたので、ここで新たに借りる事にしたのだ。
「お、俺たち怒られちゃいますよー!」
「オルガ・エルナンが無理矢理借りてったって言っとけ。それからこっちの二頭に水をやって休ませてやってくれ」
オルガはソルと共に新たなドラゴンに手早く鞍を取り付けると、だらんと舌を出して『疲れたぁ』という顔をしているドラゴン二頭を少年たちに任せる。
そして新たに借りたドラゴンに再び騎乗すると、オルガは中央地区に向かって飛翔させる。ソルもそれに続いて空を急いだ。
また一時間以上かけて空を飛び、禁城に着くと、オルガたちはその辺にいた警備兵にドラゴン二頭を預けた。
「あれ? オルガさん? なんだか久しぶりにお顔を見たような……」
「ちょっと出ててな。こいつら頼む」
「あ、はい。了解です」
禁城は六階まであり、近くで見上げると迫力を感じる大きさだ。一階が一番広く、瓦の屋根を挟んで上に行くにつれ、少しずつ狭くなっていく。
皇帝が住まうのは一番上の六階だが、今はそこは空っぽだ。
禁城を歩いている竜騎士たちや文官、貴族たちも、心なしかやる気のない、気の抜けた顔をしている。誰のために頑張ればいいのか分からないといった表情だ。
オルガとソルは禁城前にある石の階段で立ち止まって、作戦を練った。
「で、ここで何する? ハルを捜させるために、誰か竜騎士をラマーンへ一緒に連れて行くのか……?」
「いや、一人二人連れてったってあんま意味ねぇからな。上に訴えて軍を動かしてもらおうぜ」
「上? ……総長にか?」
「総長が俺らの頼みを聞いてくれるわけねぇだろ。将軍のおっさんたちにハルの存在をバラして頼むんだよ」
ドラニアスには四人の将軍がいる。北の黒、南の赤、東の青、西の白をそれぞれ束ねる、経験豊富な熟練竜騎士だ。
正確に言えば中央の黄を統べるレオルザークも将軍という事になるのだが、彼は軍の頂点にいる最高司令官でもあるので『総長』や『軍団長』などと呼ばれる事が多く、あまり『将軍』とは呼ばれない。
しかし東西南北四人の将軍たちはレオルザークよりも歳上という事もあって、彼でさえも気を遣わねばならない相手なのだ。
「あのおっさんたちがハルの存在を知ったらどういう行動を取るかは分からねぇが、四人ともが総長と同じようにハルを危険視するとは思えねぇ。誰かはハルを受け入れようとするだろ、きっと。昔から総長含めて五人揃っても、意見が別れる事が多かったしな。それに将軍たちが独自に動けば、総長でもそれを止めるのは難しい」
「確かに……」
ソルが小さく頷いて同意したのを確認すると、オルガは四人の将軍たちを探すべく禁城の方を振り返った。
が、その途端、虚を突かれて目を見開く事になった。
予想していなかった人物がそこに立っていたからだ。
「――将軍たちに何をバラすと?」
獅子のような金色の目でこちらを射抜いていたのは、ドラニアス軍の最高司令官レオルザーク・バティスタだった。
肩の辺りまで伸びた金髪と竜人らしい鍛え上げたれた身体を持つ彼は、目つきの鋭さも相まって、まとう雰囲気には威圧感しかない。彼の前に立てば、大抵の者は萎縮してしまうだろう。
背の高さは、二メートル近い身長を持つオルガに負けず劣らずで、竜人の中でも体格に恵まれている方だ。歳は七十八だが、見た目は四十に見えるかどうかといったところ。
融通のきかない堅物――というのはオルガがレオルザークに持つ印象だが、厳格であるのは確かだ。何よりも自分に厳しいが、他者にも厳しく、部下には規律と命令の遵守を徹底させている。
つまりマイペースなオルガやソルとは性質の違う、古いタイプの竜人だった。
「げ、総長……」
オルガはレオルザークを怖がったりはしないが、不意打ちで登場されるとさすがに冷や汗をかいてしまう。
「それにサイファンまで……」
レオルザークの斜め後ろに控えているのは、彼の補佐官であり幼馴染でもあるサイファン・ミラーだ。
白色の長い髪を背に垂らした細身の竜人で、肌の色が白く、レオルザークの隣ではかなり華奢で若く見える。衣装は聖職者が着ていそうな丈の長い祭服を着ており、その色も白色だ。
彼はいつもレオルザークから一歩引いて影のように付き従っているが、時には独裁的なレオルザークを上手く諌めたりもしてくれる調整役だ。
しかし今は、どうもレオルザークを止めてくれそうにはない。
「よくのこのこと帰ってこれたものだな、オルガ、ソル」
「お前たちは昔から騒動ばかり起こすのですから」
低い声でレオルザークが言い、サイファンも蛇のような目を細めて皮肉っぽくため息をつく。
「そろそろ本格的な処罰が必要か」
背負っている大剣を抜くと、レオルザークはゆっくりとこちらへ近づいてきた。
「ちょ、待った! 緊急事態で今は処罰を受けてる暇はねぇんだよ! ハルが行方不明になった」
緊張を滲ませるオルガの言葉に、レオルザークは一瞬動きを止めた。そしてほんの僅かに目を見開いたが、次の瞬間にはいつも通りの厳格な顔をして静かに言う。
「……そうか、しかしそれは私には関係のない事だな。そしてドラニアスにも」
「あんた、いつまでそうやって――うおッ!?」
瞬時に一歩下がると、レオルザークが振った大剣はオルガの胸すれすれを横切っていった。
「お前たちにはしばらく牢の中で反省してもらう」
レオルザークが攻撃を始めると同時に、禁城の中からぞろぞろと彼の部下たちが姿を現した。黄の精鋭竜騎士たちだ。
ほとんどはオルガやソルも知っている顔見知りで、「悪いな」というふうに肩をすくめつつも、こちらの実力を知っているだけに本気で攻撃を仕掛けてくる。遠慮していてはオルガたちを拘束できないと分かっているのだろう。
「クソッ、籠手つけとけばよかったぜ!」
「くっ……!」
さすがのオルガとソルでも、十人以上いる手練の竜騎士とレオルザーク相手に勝ちを取るのは難しい。
「ああ、石段が……。修理費はレオルザークのお給料から引いておきましょう」
サイファンは嘆いた。レオルザークが派手に大剣を振り回すが、オルガやソルはそれを避けてしまうので、代わりに剣がぶち当たった石の階段がおもちゃのように破壊されていくのだ。
「荒れていますね」
レオルザークは、オルガやソルに対する怒りを爆発させているのではないだろう。
エドモンドが死んでから自分の中に溜まっていた鬱屈とした感情、自分に対する憤りが漏れでてしまっているようにサイファンには見えた。
実直で不器用な幼馴染を見つめながら、サイファンは行方不明だという少女の事を想う。
(どうか無事で……彼に再び生きる目的を与えてやってください)




