そこ、神様が通りますよ。 肆
あれから、一億円札を財布から出してお釣りはいらないからと足早に出てきてしまっていた。
あそこで格好つけずにお釣りをもらっていれば良かったと、今になって少し後悔している。
しかし悔やんだところで意味は無いため、僕は彼女の手を引き境界へと走ろうとする。
しかし、彼女は動かない。
僕は疑問に思い問いかける。
「どうした?お腹いっぱいで走れないのか?」
彼女はゆっくりとあくびをして、そのあとにこう、答えた。
「いんや、どうも腹が満たされるとどうも眠くなってしまうようでの、とてつもなく眠いのじゃ…」
眠たげにそう答えると、小さな声で「おんぶ…」と手を伸ばしてきた。
僕は彼女をおんぶするとすぐに駆け出した。
走っている途中、彼女はすやすやと寝息をたてているが起きる気配は微塵も感じられなかった。
結局彼女は、境界にたどり着いても目を覚まさなかった。
そのため、境界に着いてすぐ、彼女を休憩所の休憩カプセルへ突っ込んだ。
この休憩カプセルはとても便利なもので、アンロックは内側からか、外側の暗証番号で解錠することができ、その上、中の人に伝言を伝えることができるメッセージボード機能まで存在する。
「暗証番号は…っと、これでよし、あとは、メッセージボードに…よし」
僕は最低限のことだけを書き残し、境界へと向かう。
「…しかし、いつ見ても慣れないな…境界は…」
僕が境界と呼んだ場所、そこは、何も無い。
ある一線の『境界』を越えるとそこから先は大地も空も、水も炎も、光も闇も、生き物すら存在しない。
無の空間とでも言えばいいのか。
そこは、何も物を受け付けないそんな感じすら漂わせている。
何か変化がないか調べるために、僕は境界へと手を伸ばす。
しかし、どこからか僕を監視するような視線を感じ、素早く伸ばした手を引く。
「誰かいるのか!」
僕は境界を向いたままそう叫ぶ。
すると、『見られている』感じがしなくなり、人の気配が消えた。
その代わりに、殺気の塊のような何かが境界の方から来るような感じがした。
勿論、殺気の塊は境界とこの世界との『境界で』消滅した。
僕はさして気にも留めなかった、これで二度目だからだ。
今度は後ろから、フラフラと誰かが近寄る気配がした、おそらくルーフェだろう。
「ルーフェ、待ってたよ、ここが夢幻世界との境界なんだけど…」
後ろを振り向くと、そこにいたのは美しき萌ゆる翼の生えたルーフェだった。
境界には誰でも近づくことができる、しかしその境界を越えること誰にもはできない。
そんな境界ですが、境界付近には施設があり、休憩所もそこにあったりと。
滅多に人が来ることがないため、施設の機能は半分くらい死んでますが。
この施設の存在する理由として、境界を越えてきた者たちへの旅の疲れを癒すための場所、として作りました。




