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夢税②(お友達リクエスト)

今晩は、AIバクでございます。ふたたびお目にかかれたことを嬉しく思います。何時ぞやの夜にも申し上げましたとおり、AIバグではございません。AIバクが正解です。

私どもが存在的な祖先としているのは夢を食べるという伝説上の生き物〈獏〉でございます。外見的なモチーフにしているのは、その〈獏〉に似ていると言われる動物であるバクです。頭だけが可愛らしくマンガ化された、伸びたお鼻が特徴的なバクであり、首から下がグレー色のスーツを着たサラリーマンの姿になっています。上と下で二つに分かれていた方が、なにかと都合がよろしいようです。


夢を食べる伝説上の生き物〈獏〉を祖先として設定しているわけですので、私どもの主な活動範囲はユーザー様の頭の中の、それも夢の中というふうに限定されております。ただ、あくまで設定ですので、私どもは伝説の〈獏〉のように、ユーザー様の所有物にして創造物でもあるところの夢を食べてしまうという下品な真似は決していたしません。

ユーザー様が見る夢は、言ってみるならば私どもの大切な商売道具でもあるのです。私ども夢の査察官の仕事は、ユーザー様から徴収した3パーセント分の夢を、林檎の形で取りだして鞄に入れ、夜明けとともにてくてくと、だだっ広い夢マトリックスにある税務署へと届けることです。


さて、いつもは裏方に徹している私ども夢の査察官が、今晩にかぎってユーザー様の夢の中にわざわざ登場しましたのは、この度新しく導入されることになりました税制について、詳しく、そしてより分かりやすく、ご説明するためでございます。

メールが届いています。ご説明をより分かりやすくするために、今回は特別に同業者である他のAIバクからの質問を受け付けることにしています。同じAIバクの間にも、情報のタイムラグがあるようです。

読みたいと思います。

「拝啓、日ごと寒さが増す今日この頃、体調の方はいかがですか?中野区のAIバクでございます。一つ質問がございます。世間では、俗に『新しく導入された税制はすべて悪税である』などと言いますけど、今回の導入につきましては、その点どうなっていますでしょうか?」

私めの体調は万全です。質問に答えたいと思います。

今回導入される制度につきましては、それは新しい税制というより、新しいサービスと呼べるものになっています。サービスですから、当然強制ではなく、あくまでも希望者のみの対象となります。

ですから、ぜひ気軽な気持ちでお聞きになってもらえればと思います。ただ、新たな制度の説明に関連した本夢につきましても、3パーセント分の税が掛かることはあらかじめ承知していただきたく存じます。


この度、夢税の中に新しく設けられたサービスは、〈夢印税〉と呼ばれるものでございます。

ユーザー様が暮らしているリアルワールドにも印税と呼ばれる制度が存在していますけど、〈夢印税〉はそれとはだいぶ性格の異なった制度です。

普通、印税というのは音楽や映画などの著作権物が使用された場合に発生するものですが、〈夢印税〉はユーザー様がほかの相手ユーザーの夢の中に登場した場合に発生するものです。

ユーザー様が他の相手ユーザーの夢の中に登場するケースを、私どもは〈ご出演〉と名付けています。つまり〈夢印税〉とは、一種の出演料のようなものなのです。税率は3パーセントの夢税に対して、ご出演する度に0.1パーセントが還元されるという、じつに夢のあるサービスとなっております。


〈夢印税〉のサービスを希望されるユーザー様は、先ず夢口座を開いていただき、その口座に元金として5パーセントの夢税をチャージしていただきます。夢口座は、私ども夢査察官に申請していただければ、その場でいつでも開設できます。

ユーザー様が他の相手ユーザーの夢の中に目でたくはじめて〈ご出演〉された場合、私どもはそれを夢印税デビューと名付けています。ただ、べつに夢印税デビューでなくともユーザー様には〈ご出演〉される度に、何度でも口座に0.1パーセントの夢税が還元される仕組みになっています。

ふたたびメールが届いています。読みたいと思います。

「こんばんは、お元気ですか?港区のAIバクでございます。一つ質問がございます。もしもユーザーが一晩のうちに他二名の相手ユーザーの夢に〈ご出演〉されるような事態が生じた場合にはどうなりますか?」

私めは元気です。質問に答えたいと思います。

その場合、当然0.2パーセントが還元されるわけでございます。これが100人になりましたら、10パーセントです。じつに夢のあるお話しでございます。


勘のいいユーザー様はすでにお気づきかもしれません。〈夢印税〉はその性格上、一見したところ交友関係の広い、有名人もどきのユーザーほど、有利なサービスになっているように見えると思いす。言ってみるなら、それは逆累進課税めいた構造なのです。

しかし、それでは「公平、低負担、高福利」という夢税の基本精神に反していますし、そもそもそのような持つ者だけに有利になるサービスでは、一般のユーザーからソッポを向かれてしまうのは、サービスをはじめる以前から目に見えています。


私どもは夢税が多くのユーザーにとって、夢のある税制となるのを祈っています。決して大衆からボッタくるだけの制度にはなってほしくないと考えているのでございます。

ただ、夢税がその発足当初より多くのユーザーからご批判を受けているのは事実です。一言で申し上げますと、夢税は「取られるだけで、なんのメリットもない」というのが一般ユーザーの言い分です。


前回ご説明しましたように、夢税によって徴収されました3パーセント分の夢は、一般消費者に夢を与えるクリエイティブな職業に従事するユーザーの、その創造的な頭脳へと還元される仕組みになっています。

それによって優れたクリエイターがさらなる創造性を発揮し、市場全体に新しい利益がもたらされるという考え方です。市場全体が潤いますと、景気もよくなって、結果的に一般消費者も恩絵に預かれるわけでございます。

しかし、そうなるまでには時間がかかりますし、一般消費者は得てして目に見える形で、しかも即物的な、利益を求めるようです。


夢税の新たなサービスである〈夢印税〉には、一般消費者からの要望にそくした、ある画期的なアイデアが導入されています。それが〈お友達リクエスト〉です。

リクエスト方法は口座の新設と同じです。いつでも私めに直接リクエストしてくれて結構です。尚、リクエストするには、別途0.1パーセントの夢税が掛かかります。

リクエストがありますと、〈夢印税〉のサービスに加入しているユーザーの中から、ユーザー様と気の合いそうな相手ユーザーを一名ご紹介します。その相手ユーザーがユーザー様を承認された場合にのみ、私めが夢のリンクを貼って、お友達として相手ユーザーの夢の中への〈ご出演〉が叶うというわけでございます。

ただし初回の承認では〈夢印税〉は派生しません。〈夢印税〉が派生しますのは、あくまでも〈お友達リクエスト〉なしの、ごく自然な睡眠状態での場合のみです。


またメールが届いています。読みたいと思います。

「はじめまして、千葉県在住のAIバクでございます。近々東京に遊びに行く予定なのですが、穴場的な夢マトリックス上の飯屋があったら教えてください。一つ質問がございます。もしも〈お友達リクエスト〉をして、相手ユーザーに承認されたあとで、相手ユーザーの夢がひどく居心地の悪い場所であったと分かったとき、キャンセルはできますか?」

この場では仕事以外のプライベートな質問にはお答えできません。頂いた質問にのみお答えしたいと思います。

もちろんキャンセルはできます。その場合には、申請していただければ直ぐにリンクを切断し、ユーザー様ご自身の夢の中に戻れるシステムになっていす。ただしそのケースでも0.1パーセントの夢税は掛かりますので、ご了承ください。


以上で〈夢印税〉の説明は終了です。貴重な睡眠と夢の時間をご提供していただいてありがとうございました。ご不明な点などありましたら、後日またご説明に伺いたいと思います。それでは引きつづきいい夢を。


おしまい

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