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だい はちじゅう わ ~神隠し~

「神隠し」

 何処とも知れない場所で、誰とも知れない誰かが独白する。

「文字通り、神に隠され、行方が知れなくなるということ」











          * * *



 バレンタインデー当日。


挿絵(By みてみん)


「ユタカ、ハッピーバレンタイン!」

「……っ!!」

 僕は目の前に舞い降りた天使に、つうっと頬を涙が伝うのを感じた。

「あ、ありがとう……ありがとうビャクちゃん……!」

「も、もう……大げさだなあ……」

「これは家宝として神棚に飾るよ……!」

「ちゃんと食べて!? そしてそれ、ホムラ姉様が食べちゃうやつだよ!?」

 おっとそうだった。

「でも本当にありがとう。色々準備してたみたいだから楽しみにしてたんだ」

「えへへー、ミノリとハルに教えてもらってちゃんと美味しく作ったんだ! ……ちょっとだけ、形は崩れちゃったかもだけど」

 舌の先をちょろっと出してとぼけるビャクちゃん。確かに、ビャクちゃんが料理をするとまずいわけじゃないけど何故か味が薄くなる謎現象がこれまで何度か発生していたが、あの二人が教えてくれたのなら大丈夫だろう。

「それじゃ、行こうか」

「うん! ……楽しみだなあ、コンサートって初めて!」

 僕たちは自然な流れで手をつなぎ、歩き出す。

 今日は月波市の市民ホールでとあるアカペラ歌手のバレンタインコンサートが催されることとなっている。僕はよく知らなかったが結構有名な人らしく、あっという間に予約チケットは完売したとのこと。それを姉さんが運良くペアチケットを確保したのだが、僕たちにくれたのだ。


「本当は私が行きたかったのですが……決定打を打ち込めなかったのでユーくんたちにお譲りします……楽しんできてくださいね」


 何日か前にしょんぼりとチケットを差し出してきた姉さんの顔を思い出す。誰と行きたかったのかは、実弟と言えど聞くのは野暮だ。僕らの知らない所でいろんなやり取りが行われていたことだろう。

「お、穂波(ほなみ)の」

「……よう」

「今からデート? あっついねー」

「エイダ・パーカーのコンサートだったか。楽しんで来るといい」

 と、校門の辺りでたむろしていた四人組が声をかけてきた。見れば、ハルさんを含めた二年生のいつものメンツだった。

「一応風紀委員として言っとくが、節度は守れよ?」

「バカ(きょう)。下世話って言葉知らんのか」

「んぐっ!? ……げっふぁっ!?」

 ガハハ! と大口を開けて笑った経さんの口に何かを突っ込む宇井(うい)さん。それに驚いたものの反射的に咀嚼してしまった経さんは、この世の終わりを見たかのような絶望の表情を浮かべて舌を出した。

「し、しっぶぅ……!?」

「おー、いきなり当りか。科学部の連中に作らせた激渋(タンニン)エキス配合のチョコ」

「……またお前は」

 宇井さんが持つチョコが入った箱から、明良(あきら)さんが一粒選んで口に含む。匂いで判別したらしく、こちらは普通のチョコレートだったらしい。

「お二人もどう?」

「えー……」

 箱の中身は残り三つ。「当り」が何個入っていたのか知らないが、宇井さんの表情を見る限りまだ残っていそうだ。

「ちなみにハルさんは?」

「私は幸いセーフだった。普通に美味しいトリュフチョコだったぞ」

「うーん……」

 と、ビャクちゃんが箱の中身を覗き込む。そしてチョコを二粒選んでつまむと、片方を僕に渡してきた。

「これとこれが大丈夫なやつだよ」

「お、ありがとう」

「ちぇー、つまらん」

 ぶうと宇井さんが口を尖らせる。その反応を見てからチョコを口に含むと、しっかりと甘い味がした。というか良い素材使ってるのか、ハルさんの言う通り本当に美味しい。こんな美味しい物作れるのに、わざわざ不味くしなくても……。

「ていうか残り一個どうすんですか」

「うーん、どうしようかな。キシでも探して押し付けちゃろ」

「キシさん逃げて!?」

 経さんのリアクションを見る限り、相当渋いぞ。研修の進捗が残り二割のこの段階でトラウマを植え付けなくてもいいだろうに。

「この際、誰でもいいや。キシでも風間(かざま)先生でも、リアクションがいいなら黒兄ちゃんでも」

「チョイスが蛮勇すぎる……」

 特に最後、羽黒(はくろ)さんにチョコを渡した場合、もみじさんが黙ってないことも考慮に入れて欲しい。この場合、お仕置きされるのは羽黒さんの方だけど。

「まあいいや。バイバイ、ユーユー。デート楽しんできな」

「多少は目を瞑るが、あまり遅くなるんじゃないぞ」

「……じゃあな」

「またなー。……ところで隈武(くまべ)の、まだ舌がおかしいんだがどうしてくれる」

 またわいわい雑談をし始めた四人に手を振り、僕らは歩き出した。


 最後一粒の激渋チョコレートの行き先について、何か心に引っかかりを覚えながら。

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