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だい ろくじゅうきゅう わ ~逢魔時~

 体育祭の打ち上げで美味い肉を食うべく、生徒会で揃えた最強メンバーを全滅させるため、あたしが30分間暴れまわるのに課せられた条件はほぼ全ての術式の封印だった。


 八百刀流「瀧宮」固有の妖刀はもちろん使えない。

 元々それほど得意ではないが、探知術も使えないため目視と聴覚しか頼れない。

 その目視も魔導具(サングラス)によって若干視界が狭くなっているうえに、対戦相手がどこの誰なのか分からなくなっている。

 身体能力強化はある程度は許されているが、妖刀の力を使った瞬間移動などもっての外。

 ついでに諸々の制限を課すために着用しているスーツ型の拘束具もまあまあ動きにくい。

 つまり何が言いたいかというと。


 ――ベストコンディションだ。



          * * *


「――――!?」

「……! ……!!」

 視界に入ったモブ十数人が何か声を掛け合いながら一斉にあたしに銃口を向ける。

 銃口の奥から魔力弾が放出される直前、上半身が床すれすれになるまで身を低く屈めて両脚に力を籠める。普段と比べると大分加減された身体強化術ではあるが、全く持って問題ない。


 ――――――――――――――――――――ッ!!


 動体視力の制限はされていない。この程度の銃弾の雨、白羽(しらは)ちゃんの演武に比べたら止まっているようなものだし、ユーちゃんの弾幕からすると笑ってしまうくらい薄い。

 回避するための道筋がよく見える。

「――っ!? ……!!」

 まずは一人。

 どこの誰とも分からないモブに肉薄し、右手の魔導具の刃を腹に押し当てて擦れ違いざまに挽く。


 ――ピチュン!


 転移魔方陣が発動し、斬り倒したモブが姿を消す。

 それには目もくれず、あたしはすでに次の標的の懐に潜り込んでおり、左手の魔導具を突き出した。


 ――ピチュン!


 また一人消える。

 その繰り返しである。

 いかに生徒会で戦闘慣れしているメンバーを揃えたサバゲーでも、さらにその中から生き残った精鋭であっても、本職からすれば赤子の児戯も同然。


 バチィ!


 とは言え油断もしてやらん。

 たまに急所目がけて飛んでくるラッキーパンチ的な弾丸もある。そういったやつは落ち着いて魔導具で払いのけ、威力を相殺する。


 ――ピチュン、ピチュン!


 間抜けな転移音が幾度も響く。

 出陣前に確認した各陣営の生き残り数を超える一団がさらに後方に控えているのが見えた。どうやらあたしが来るのを見越してあらかじめ協定でも結んだのか、一丸となって出迎えてくれている。

 そして確信する。


 この集団の中に、ウッちゃんとユーちゃんはいない。


 あたしが敵が多ければ多いほど燃えるタチであるとあの二人は知っているから。

 もちろん、もしかしたら知っている奴も混じっているかもしれないが――甘い。

 徒党を組んでいる時点で、烏合の衆でしかない。


 ――ピチュン!


 ――ピチュン、ピチュン!


 ――ピチュン、ピチュン、ピチュン!


 ――ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン!


 ――ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン!


 ――ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン!


 ――ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン!


 ――ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン!


 ――ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン!


 ――ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン!


 床を蹴り抜き、壁を駆け、天井を跳ぶ。

 あらゆるものを足場として敵を翻弄し、一刀一刀心を込めて薙ぎ倒す。


 ――ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン、ピチュン!


 ――ピチュン!!


「……ふう」

 その場にいた約百人の精鋭は綺麗さっぱり消え去った。


『あ、圧倒的ー!! あまりにも圧倒的! これが月波市を長きにわたり守護してきた八百刀流陰陽師の実力かー!!』

『まったく。これで全力じゃないんだから僕のような弱小妖怪はビビっちゃう。友達で良かったと心から安堵するよ』

『ていうか散々言ってますが生徒会の皆さん、殺意高くないですか!?』

『もちろん。殺るからには徹底的に殺るのが僕たち生徒会役員だよ。今日の打ち上げは豪勢になりそうだ』


 特に制限の対象となってはいない校内放送に乗って流れる実況と解説が耳に届く。

 もちろん発端はもみじ先輩が持ってきた打ち上げのお誘いだ。あたしら食べ盛りにとって美味い飯は至高の報酬である。

 しかし、それはあくまで切っ掛けに過ぎない。

 自分たちで丹精込めて選別したサバゲー参加者を自分たちで蹂躙するというのは――尋常ではなく、愉しかった。

 とは言え。


『し、しかしこれでゲームは終わりではありません。瀧宮(たつみや)さんの蹂躙を止められるだけの猛者がまだ残っております!』

『そう。それがネックだ。もうこの際だから僕も解説という立場を捨てて生徒会役員として語らせてもらうけどあの問題児コンビをどうにかすることができなければ僕たちは勝てない』

『開幕と同時に味方を背後から爆殺し、さらに支給の魔導具を地雷に魔改造して隠密しながらポイントを稼ぎ続けた、隈武(くまべ)さんと穂波(ほなみ)さんペア! 彼らは未だにカメラに映らない何処かに潜んでいます!』

『元々僕らはあの二人が組めば派手な戦闘が巻き起こって画面が盛り上がるだろうなってくらいの認識だったんだけどね。いやまさかこんなガチで勝ちに来るとは思わなかったよ。とは言えもうそろそろ隠密も厳しいんじゃないかな――3分後にエリア制限だ』

『今このタイミングで!?』


 事前の打ち合わせ通り、沙咲(ささき)ちゃんがエリアの制限を宣言する。

 あたしが投下された時点で既に中央棟二階しか残されていなかった。それがさらに半分まで収縮される。制限されるのは中央棟東側の半分――あたしが今いる場所の反対側だ。

「……ふん」

 二刀の魔導具を構え、壁を背に立ちじっと廊下を見る。

 エリア制限が完了するまでに出てこなければHPが減少し、自滅によりあの二人は転移される。もちろんここまで戦い抜いてきたあの二人が自滅によるポイント保守に走るとは考えない。もし出てこなければあたしがいる西側に潜んでいると判断し、こちらから探しに行く。


『――3、2、1、0! 3分が経過しました! これより中央棟2階東側半分が制限エリアとなります! 踏み入るとHPが減り始めますのでご注意を!』


 アナウンスが入り、エリア制限が完了する。

 しかしあたしはすぐに動かず、しばし様子を見る。

 制限エリアにいてもすぐに退場となるわけではない。最大HP状態からであれば死亡判定が下るまで約1分かかる。あの二人ならば退場ぎりぎりまで粘って、探索を開始したあたしの背後に回ってズドン! と仕掛けて来てもおかしくない。であればこっちもギリギリまで粘って本当に出てこないかを確認してから動くこととする。


『……瀧宮さん動きませんね。これはどういった意図があるのでしょうか』

『おそらくは制限エリアに二人が潜んでいると考えているね。背後から撃たれないように自滅回避のために出てくるのを待っているんだ』


 しれっと沙咲ちゃんがあたしの意図を解説する。

 本当なら作戦バラすなと苦言の一つでも言ってやるところだろうが、どうせ意味がないので黙って自滅までの猶予時間をカウントする。どうせウッちゃんにはあたしの作戦なんて読めているだろうし。


『エリア制限から1分が経ちました』

『東側には潜んでいなかったようだね』

『実は既に自滅している、という可能性はないのでしょうか』

『ないね。高等部校舎三棟全体のチェックは防護魔術の施されたリストバンドを通して藤村(ふじむら)先生がチェックしている。具体的にどこに誰が残っているかは公平のために僕らにも伏せられているけども。全滅したら連絡が来る手はずになっているよ』

『なるほど』

『では瀧宮ちゃん。西側に潜んでいると考えてそろそろ探索を開始しようか』


 もはやあたしに指示を出すような口調となる沙咲ちゃん。普段から飄々として掴みどころのない彼女だけど、やっぱり肉は楽しみらしく今回はかなり協力的だった。

 とりあえず、手近の教室から索敵を開始する。

 連中が中央棟2階の教室に仕掛けられていたトラップは全て発動しているというのは確認している。その後もトラップを仕掛けた形跡がないことも分かっているし、堂々と侵入する。


 ――かちっ


「…………」

 床を蹴り、即座に扉と対極の位置まで跳ぶ。

 その瞬間、扉の周りが爆音と同時に青い煙幕で覆われた。

「……まだ残ってたの?」

 確かあれはウッちゃんが最初に選んだ手榴弾タイプの魔導具だ。通常の銃火器タイプの魔導具を魔改造して地雷に仕立て上げるような奴がこっちを使わないなんてないとはないとは考えてはいたが、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。

 おそらくは手榴弾は手榴弾用に発動条件を調整しているのだろう。今までずっと発動せずに残っていたのを運悪く踏み抜いてしまったのか。

「用心しないと」

 気を取り直して索敵を再開する。

 この教室は一般的な学級形式の造りをしている。隠れられる場所は限られる。教卓の下と掃除用ロッカーくらいか。

 手始めに、教卓の下から覗いて


 ――かちっ


「はあっ!?」

 慌てて跳び退き、教室の反対側まで逃げる。そして次の瞬間には教卓の周囲が青い煙幕で覆われた。

「そ、そんなところまで仕掛ける!?」

 念のため覗こうとしただけで、普通教卓の下には隠れんだろ!? 手榴弾には限りはあるし、わざわざそんなところを覗き込むことで発動するよう仕掛けるか!?

「道中で手榴弾タイプを回収して回って手持ちに余裕があるのか? だとしても慎重すぎるでしょ……」

 とは言え、一つの教室に二つも仕掛けたらもういいだろう。念のためにロッカーの方も調べてはみるが


 ――かちっ


「…………」

 流石に今回は冷静に回避することができた。

 ロッカーを開けた瞬間、こちらを小馬鹿にするように降ってきた手榴弾を引っ掴み、教室の反対側目がけて放り投げる。

 展開される青い煙幕を眺めながら、あたしは血の気が引いていた。

 手榴弾タイプの魔導具はピンを抜いてから爆発するまでの時間を使用者が入力することで調整できる仕様になっている。基本的に投げてすぐ爆発することを前提にしているが、特に時間の制限は設けていなかった。


 ちらりと見えた、ピンを抜いてから爆発するまでの設定時間が1時間27分30秒という中途半端なものになっていた。


「あたしが最後の鬼役で投入されるのを見越していたのはともかく……!」

 彼女であれば、それくらいの思考追跡はできるだろう。

 けれども!


「最後のエリア閉鎖区画も予想して、あたしがこのタイミングでこの教室に入るのを予想して、あたしがどこを探索するかまで予想して、それに合わせて手榴弾――時限爆弾をセットした……!?」


 ふざけるのも大概にしろあの戦闘狂(サイコパス)! そんなんだから監視役の「大峰」を差し置いて本家含めた八百刀流他四家から「最も敵に回したくない家第一位」とか言われるんだよ!

「……すぅっ……ふうー……」

 大きく深呼吸をする。

「隈武」の予言レベルの下準備は今に始まったことではない。相手のことをよく調べ、よく識り、どう動くかを徹底的に予測してフィールドを作り上げる。その異様なほどの注意深さがあるからこそ、あたしらみたいな特攻主義者一族が今日まで生き永らえているのだ。普通に考えて、こんなバカ丸出しの異能集団、各家の当主がいくら優秀だとしても隈武家がいなければすぐに滅ぶ自信がある。


 それが今この時に限り、その猛威があたしに向かって全面的に襲い掛かっている。


 下手には動けない――否、この「動けない」という状況も、彼女の予測の範囲内と考えるべき。

 で、あればやれることは一つしかない。


「真正面からぶつかって全部のトラップをぶち破る!」


 脳筋(本家)には脳筋(本家)なりの矜持がある。

 あたしもう次期当主でも何でもない一介の術者だけどな!!

「っしゃあオラァ! ぶっ飛ばす!!」

 あたしは教室を飛び出し、次の扉を遠慮なく開く。


 ――かちっ

 ――かちっ

 ――かちっ


 立て続けに三発の時限爆弾が発動する。

 それを駆け抜けて躱し、教室内の目ぼしい潜伏場所所候補を荒く蹴って確認する。その際に当然のように追加の爆発が起きたが、端から来ると分かっていれば如何様にも対処できる。

 あたしは二つ三つと教室を踏破していき、そして制限エリアとの境目にある最後の教室に足を踏み入れた。

「観念せいやあああああ……あぁ?」

 変な声が漏れる。


 教室には誰もおらず、中央の机の上にありったけの魔導具のが山積みとなっていた。


「……っ!!??」


 ――かちっ


 ちゅどおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!


「あぐっ!?」

 寸でのところで廊下へと跳び退く。

 しかし教室全体を巻き込む規模の大爆発の勢いは完全に受け流すことはできず、防御用のリストバンドの魔導具を確認すると設定されたHPの半分が削られていた。

 しかし今はそんなことはどうでもいい。

 ここは活動可能エリアの最後の教室。道中の教室にはあの二人はいなかった。

「ど、どこに!?」


『せ、制限時間、あと10分となりました!』


「くそっ!?」

 競技終了までのカウントダウンが始まった。

 あと10分――もう一度今来た教室を確認するには問題ない時間だ。しかしどうにもそれは徒労に終わる気がしてならない。恐らく、あの二人は活動可能エリアにはいない。しかし制限エリアで今なお生き残れる理屈が分からない。

 何か、見落としがあるはずだ。

 あたしらはこの競技のエリアに関するルール、どう設定した?

 まずスタート時の活動可能エリアは高等部の校舎三棟全てとした。これは文字通りの意味で三棟全てをエリアとして使うという意味であり、裏も何もない。校舎全体に対する防護魔術も同時に施している。

 次に活動制限エリア。こっちは時間経過の都度、区画を指定してそこに踏み入れるとHPが減るという設定を上書きした。人口密度を一定以上に保ち、競技が活発になるよう設けたルールだが――穴をつかれたとしたら、こっちか。

 真っ先に思い付いたのはトイレとその周辺の不戦地帯だ。

 確かにあの辺りはエリア制限後も特にダメージが入るわけではない。しかし、その代わりに化狸の昭義(あきよし)くんと彼をを経由して加牟波理入道やら花子さんやらトイレに所縁のある野良妖怪たちに過度な引き籠りがいないかチェックを頼んでいた。彼らから特に報告がない以上、トイレに引き籠っているということはないだろう。

 と、なるとまた別の場所ということになるが、パッと思いつかない。

 とりあえず、あの殺意の塊みたいな爆弾の山の部屋に戻る。

「パッと見、何もないけど……」

 校舎にかけられた防護魔術によって机や椅子は微動だにしていないが、爆弾代わりに使われた魔導具がその辺に散らばっている。ざっと数えただけで三十個はあるが、いくら何でも殺意高すぎだろ。あたしらが言えたことじゃないが。

「……ん?」

 違和感。

 確かに、この部屋のトラップの殺意は高かった。しかしよく考えたら中途半端だ。本気でこっちを屠るつもりなら、教室に入った瞬間に廊下側で爆破を起こして確殺範囲に誘い込み、それから爆破を起こすはず。

「それができなかった?」

 もしかしてあの百人近いモブ連合、ウッちゃんが先導したんじゃなかろうか。

 この部屋の準備をするために――しかし、思いのほかあたしが手早く片付けてしまったもんだから、中途半端にしか用意できなかった。

「だとしても、どこに潜んでいる?」

 この教室の中にはいないはず。あの規模の爆発が起きてしまえばロッカーに潜んでいたとしても余裕で貫通される。あたしと一緒にまとめてドカン! なんて真似をするなら、爆弾抱えて突っ込んでくればいいだけだ。

「あたしが他の教室を探索している間に別の教室に移った?」

 無理だ。ここから一番遠い最初の一部屋こそ時間を多少かけたが、その後は一部屋に10秒もかけていない。流石にどこかでエンカウントするはずだ。

 だとすれば――


 ――ひゅうっ


「!!」

 教室に秋の涼しい風が吹き込む。

 その際、ばさっとカーテンが大きく揺らいだ。

「外!?」

 カーテンをめくると、窓がしっかりと閉まっておらず、わずかに開いていた。

 大きく開き、首を差し込んで周囲を見渡す。しかしそれらしい人影は見つけられず――壁の排水管伝いに足跡が残されていた。


 ――かちっ


「……!」

 加えて、ピンの抜けた手榴弾が上から落ちてきた。

 爆発までの設定時間は――1秒。たった今引き抜かれたことを示していた。


「屋上かあああああああああああああああっ!?」


 手榴弾の爆発を紙一重で回避し、教室を飛び出す。

 競技エリアは()()()()。昨今の学校事情では珍しく、月波学園は特に屋上は閉鎖されてはいないが、天文部が代々根城としていて何となく入りにくい雰囲気となっており、真っ当な月波学園生徒であれば「屋上に行く」という発想がない。

 当然、カメラも仕掛けていないから映らない。

 完全に盲点を突かれた。

 だが待てよ、とほんの数秒逡巡する。

 今、あたしのHPは約半分まで削られている。そして屋上に行くまでにはどうしても制限エリアを駆け抜けなくてはならないが――制限エリアのスリップダメージは生徒会にも適用される。

 では二人に倣って排水管を足場に登ってやろうかと思ったが、さすがに身体能力強化が制限されている状態で壁登りは危険だ。屋内だからこそ跳んだり跳ねたりして敵を翻弄できたが、もしえっちらおっちら登っている時に上から撃たれたら即死だ。

「……はっ!」

 一般生徒よりもHPは高めに設定されているとはいえ、既に半分失っているうえに、2階から屋上まではどんなに頑張っても40秒はかかる。流石にそれで自滅ということはないが、一発でも喰らったら即敗北となるだろう。

「だからどうしたよ!」

 本来戦場なら一発でも貰ったら即、死を意味する。

 一発も喰らえない状況なんて、死ぬほど味わって来てんだ、今更何だってんだ。



          * * *



『瀧宮ちゃん瀧宮ちゃん。映画研究会の撮影ドローンが屋上に待機しているよ。いつでも突入して大丈夫――最終決戦楽しみにしているよ』


「…………」

 屋上へと続く階段の踊り場で立ち止まって息を整えていると沙咲ちゃんから連絡代わりの校内放送が入った。確かに屋上でバトるには別のカメラを用意しなければならない。手配の手際の良さに感服しながら、あたしはドアノブに手をかける。


 ――ぎぃっ……


 トラップはかかっていなかった。

 それでもいつでも跳び退けるよう準備しながら慎重に扉を潜ると、モブが二人、屋上に立っていた。


『瀧宮ちゃん。そのサングラス外していいよ。今更贔屓禁止のための個人特定防止も何もないしね』


「…………」

 言われた通り、サングラスを外す。

「やっほー」

「……よう」

 多少クリアになった視界の中、モブが見慣れた二人に姿を変えた。

「ったく、ホントやってくれたわあんたら」

「おやおやあ? これはアズアズが望んでいたことじゃあないのかにゃあ?」

「うっさいわね、ここまで良くも悪くも引っ掻き回されるとは思ってなかったのよ」

「うーん、わたしとしては普通にサバゲー愉しんでただけだけどね」

「「普通?」」

 あたしとユーちゃんの声が被る。普通にサバゲーやってる人は支給の武器ぶっ壊して爆弾に魔改造しない。

「ていうかそっちこそ、やけに殺意高いじゃない。普通は参加者に負けてあげて画面を盛り上げるんじゃないの?」

「そうもいかなくなってね」

「代わりの打ち上げの店、紹介しようか?」

「…………」

 まあ、当然知ってるよね。

「ってことは負けてくれる気は当然ないわけだ」

「もちろん♡」

 ポンとユーちゃんの肩を叩き、ウッちゃんは後ろに隠れる。そしてゴソゴソと背後にあった魔導具の山を漁り、二つをユーちゃんに手渡した。

 拳銃タイプとサブマシンガンタイプの魔導具だ。一発一発が安定した威力と射線の拳銃タイプと連射速度と弾数に秀でたサブマシンガンタイプ――サブマシンガンで足止めして拳銃でトドメって感じかな。

「んじゃ、ま」

 サクッと殺るか。


 どんっ!


 床を蹴り抜き、ユーちゃんに接近する。

 当然というかなんというか、多少制限されているとはいえあたしの動きをしっかりと目で追い、サブマシンガンを発砲してくる。下の連中とは大違いだ。

 適当にばら撒いているように見えて一発一発的確に最も広い的である胴体目がけて飛んでくる。

「ちっ」

 流石に全ての弾丸を弾くことはできず、横に移動して避ける。

 当然ながらユーちゃんもあたしが動く方向目がけて弾丸をばら撒いてくる。多少なりともエイム精度は落ちてしまっており、あたしは最低限の動きで避けつつ速度を上げ、接敵する。

「くそっ!」

 ユーちゃんの悪態が聞こえる。

 しかし口とは裏腹に、もう片手に握られた拳銃の銃口はしっかりとこっちを捕らえている。

 あたしは引き金の動きに合わせて右手の魔導具で振り払――おうとした。


    ぞ く り


 言いようのない冷気。

 突如雪中に放り込まれたかのような寒気に一瞬だけ動けなくなる。

「ぐぅっ……!?」

 凍える体を無理やり昂らせ、その場から離れる。

 距離にして二十メートル以上。またもやユーちゃんの得意な距離を与えてしまったが、そんなことよりもあの場にコンマ一秒でも留まっていた方がよっぽど危険だった。

 距離を置いたことで再びサブマシンガンの絶え間ない発砲が始まる。

 それを退きながら避け、あたしは先ほどまで立っていた場所を注視する。


 青白く輝く陽炎のような冷気を発する、巨大な氷柱がそびえ立っていた。



          * * *



『ほ、穂波さんの放った銃弾が床に撃ち込まれた瞬間、巨大な氷の塊が!? あ、アレは一体何なんでしょう!?』

『……流石にこれは僕にも分からないな。普通に考えれば氷雪系の魔術か妖術なんだろうけども。しかしそれにしては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『……え、あ、はい! ただいま、その辺を歩いていたというホムラ様から情報提供がありました!』

『あの神様なんでその辺ほっつき歩いてんの』

『アレはどうやら1年F組の穂村(ほむら)(びゃく)さんの力のようです……須々木さん、ご存知でしょうか?』

『もちろん知っているよ。そしてなるほど合点がいった。ご存知の人も多いとは思うけども穂村ちゃんは穂波くんのフィアンセなわけだけども』

『仲良いですよねーあの二人』

『ついこの前なんだけれども。その穂村ちゃんが可愛さと色気と母性を兼ね揃えた最強の美少女に進化したついでに本来の妖怪としての力をきちんと取り戻したらしいんだ』

『逆では?』

『彼女は元来とても力が強い遣い狐だという話を聞いたことがあるよ。その力が復活したんだ。その副産物とでも言おうかな。穂村ちゃんの庇護下にいる穂波くんの異能に変化が起きていてもおかしくはない。例えば「彼女の異能の一端を行使できる」とかね』

『そんなことは可能なんでしょうか!?』

『前例がないわけじゃないよ。今彼と対している瀧宮ちゃんだっていつかのお家騒動の際に一瞬だけホムラ様の庇護下に入ったことがある。その時にホムラ様の力の一端を毟り取っている。あと有名どころだと瀧宮ちゃんの兄の瀧宮羽黒と我らが生徒会長の白銀先輩もそうだね。人と妖怪の契約の際にあまりにも妖怪側の力が強い場合は人間側にも何らかの影響が出る。出ない方がおかしい』

『し、しかしそうだとしても、何故ルール違反扱いで転移されないのでしょうか』

『これはあくまで僕の予想でしかないんだけども――おそらくはベースの魔力はあくまで魔導具の物なのだろう。魔導具内蔵の魔力を隈武先輩が弄繰り回して地雷に魔改造していたけれども。同じ要領で穂波くんを通して穂村ちゃんの力の影響が出るように弄っていると考えられる』

『む、無茶苦茶だ……!』

『それができるのが隈武先輩――「隈武家」だよ。でもまあ。全くのノーリスクというわけではなさそうだ』



          * * *



 ユーちゃんが拳銃を捨てた。

 片手のサブマシンガンは未だ健在で銃弾を吐き出し続けているのに、たった一発しか撃っていない拳銃を早々に放棄した――さもありなん。ただでさえユーちゃんを介して発現しているビャクちゃんの異能だ。それをさらに魔導具という媒体を挟んでいるんだ、燃費は最悪だろう。

「ほいほいっと」

「ありがとうございます」

 ……まあ、そのためのフォローに徹するウッちゃんと略奪した魔導具の山なんだろうけども。

 再度手渡された魔導具はリボルバータイプ。装弾数は少ないが一発の火力が同じサイズの拳銃タイプと比べて桁違いだ。あれをまとめて狐火ならぬ狐氷(きつねび)として撃ち込まれたら相当な威力を――


 ――ズガァンッ!


「普通に撃ってきたし!?」

 誰でも扱えるように調整されているとはいえ、ほどほどに反動のあるはずのリボルバーを当たり前のように片手撃ちしてきやがる。

 と、気付けばサブマシンガンの弾幕がなくなっている。今がチャンスと突っ込もうと両脚に力を籠めようとして、即座にウッちゃんが空いた手に拳銃タイプを握らせていた。

「全然スキがねえなクソが!」

 いつもの身体強化状態であれば余裕とは言わないまでも、一太刀くらい入れられるのに!

「あはは、まだまだ行くぜ!」

 ウッちゃんが愉しそうに笑い、次々とユーちゃんに魔導具を手渡していく。その間、ユーちゃんは一歩も動くことなく、固定砲台に徹している。

「あ”-もうイライラしてきた!」

「悪いねアズアズ! 速度制限食らってるあんた相手なら固定砲台で十分なのだ!」

「舐めんなよクソが!」

 今一度、接近するために速度を限界まで上げる。それと同時に銃口をよく観察する。

 その銃弾が牽制用なのか本命狙いなのか、瞬時に判断する。

 例えば、今ユーちゃんの左手に握られているアサルトライフルは火力的に本命――と見せかけて、銃口はあたしに向いていない。牽制用だ。

「おらぁっ!!」

 右手の拳銃タイプが本命と踏んで、右手のみに注意して突っ込む。

 が、一発しか撃っていないはずのアサルトライフルが破棄された。

「くっ!?」

 速度が乗りかけた体を捻り、横に跳ぶ。

 するとさっきまであたしがいた場所目がけて背後から氷の槍が突っ込んできた。

 危ねえ!


『ぼ、防戦一方です! あれほどの数を蹂躙して見せた瀧宮さん、近寄ることも出来ない!』

『噂には聞いていたけれどもこれはすごい。純粋なタイマンなら互角ないし瀧宮ちゃんが優勢という意見が多いけれども……背後に隈武先輩がいるというだけでこうも形勢逆転するものかね』


 実況と解説がわずかに耳に届く。

 うるせーまだまだこれからだと怒鳴る暇もなく、再び牽制と本命が入り混じった銃弾が雨霰と降り注ぐ。

「これは……」

 これは、もう、一撃も喰らわないとか、甘いことも言ってられないようだ。

 差し違えるくらいの気持ちでいかなければダメだ。

「…………」

 そう一度でも思考すると、急に頭の血が下りてきた。

 もちろんこのまま突っ込むのは愚策。

 相手は二人いるんだ。どちらか一方でも先の倒すのが必須条件であり、当然狙うはウッちゃんの方だ。相手を二人と考えてはいけない。奴らは統率のとれた軍である。数で勝る軍を覆すには、まずは兵站を絶つのが先決である。

 しかし接近することも困難。

 で、あれば。

「だったら!」

 幾度目か分からないが姿勢を低くし、突撃の構えを取る。

「……!」

 ユーちゃんが足元に銃弾を一発撃ち、魔導具を捨てる。

 あたしが突っ込んで来たらそのまま串刺しにでもするつもりだろうが――惜しい。

 空いた手にウッちゃんが魔導具を手渡すその瞬間、

「っしゃあ!!」

 あたしは片方の手に握っていた魔導具をウッちゃん目がけて投擲した。

「げっ」

「くそっ!?」

 ユーちゃんが慌てて片方の手に握っていた魔導具で叩き落とす。

 一瞬だけ、弾幕が途絶える。


 その一瞬を待っていた。


「――クスクスっ♪」


「「――っ!!」」


 二人の懐に、初めて潜り込めた。


「おらァっ!!」


 横に大きく薙ぐ。

 刀剣タイプの魔導具の腹がウッちゃんの脇腹に喰い込んだ。


「あはは、やるじゃん」


 ――ピチュン!


 ウッちゃんが消える。

 転移が発動した。

 しかし勢いを緩めることなく、ユーちゃん目がけて逆袈裟に斬り上げる。


 ()()()


「――っ!?」

 何かが砕ける手応え。


「……危ねえ」


 ユーちゃんの声。

 それと同時にユーちゃんの姿が消える。

 転移ではない。


 ユーちゃんが氷の塊のように砕け散り、あたしの間合いの外に再び姿を現す。


「ビャクちゃんの氷像……!!」

「リストバンドを認識するサングラスつけたままだったら幻覚には惑わされなかっただろうけどね」


 たんっ


 銃声。


「……クソが」

 あたし目掛けて飛んでくる魔弾をじっと見つめ、悔しさやら何やらもうわけがわからず、ただただ短く悪態を吐くしかできなかった。



          * * *



 TIME……02:58:25

・赤組……265点(生徒会被撃破44人:没収170点)

・青組……630点(生徒会被撃破9人:没収30点 生徒会撃破1人:加算100点)

・緑組……260点(生徒会被撃破39人:没収170点)

・黄組……225点(生徒会被撃破36人:没収125点)



          * * *





















「まだ終わりじゃないですよ?」





















          * * *



 倒され、生徒会室へと送還されたあたしの目の前に、スーツとサングラスをかけたもみじ先輩が立っていた。

「……え?」

「これでも私、ものすっごく楽しみにしていたんですよ――皆さんと一緒にご飯食べに行くの。羽黒とのディナーをキャンセルするくらいには」

 凛と響くソプラノが、うっすらと笑みを浮かべた口元から零れる。

「沙咲さん、お願いしますね」



          * * *



「逢魔時」

 夕焼けで赤く染まる生徒会室の中で、ぽつりと呟く。

「昼と夜との境目の時分。陰に潜んでいた鬼たちが目を醒まし、夜闇へと溢れ出す頃合い」


『――鬼。解放』


 月波学園全体がざわっと震える気配がした。


 それは高揚であり、羨望であり――恐怖である。


 彼女の枷は、あたしなんかと比べることも出来ない数になっていた。


 変化の禁止。

 異能の禁止。

 視覚の制限。

 嗅覚の制限。

 聴覚の制限。

 身体能力の制限。

 設定HPを最低値とすること。

 出現場所は西棟1階とすること。

 エトセトラ、エトセトラ。


 それでも。

 それでも彼女にとって枷として機能しているかは――甚だ疑問だが。


白銀(しろがね)さん、満を持して参戦! しかし多数の制限が課せられている上に競技時間は残り1分! その上、スタート地点は屋上まで最も遠い位置です!』

『ま。問題ないね』


 校舎に仕掛けられたカメラが、転移完了と同時に手近の窓を開け放って外に飛び出すもみじ先輩の姿を辛うじて捉えた。

 そこから先は映研提供のドローンの映像に切り替わる。

 定点カメラではないため風に揺られて画面は若干ブレているが、なんだあれ……。


『し、白銀さん、当たり前のように壁を走っています!』


 しかもただ壁走りしているわけではない。

 屋上からはヤケクソになったユーちゃんが、地雷に魔改造した残りの魔導具手当たり次第に放り投げているのだ。

 魔導具の魔力残量によって規模が変わる爆発を一つ一つ見極めながら丁寧に、それでいて視認限界ギリギリの速度で避けながら屋上めがけて駆け上がっている。

 ……もしこれが、生き残ったのがウッちゃんの方だったら一個くらいは被弾して、ダメ押しのボーナス加点をくれてやっていたかもしれない。

 けれでも、その相方も今はいないわけで。


『白銀さん、屋上に難なく到達! HPはスタート段階から最低値に設定されているとのことで、弾丸一発かすりでもすれば即転移の危険なロッククライミングを突破しました! しかしそれを待ち受けるは我らが八百刀流五家が「穂波」の次期当主!』

『「隈武」がセットだったら危なかった。けれども彼女のフォローを失った穂波くんでは流石に白銀先輩の相手は荷が重いと思うけどね』


 もみじ先輩が到着する少しの間にユーちゃんは屋上に魔導具を散りばめ、距離をとっていた。そのうちの最ももみじ先輩に近い一つに向けて発砲。


 ちゅどおおおおおおおおおおんっ!


 衝撃で爆発する魔導具。


 ちゅどおおおおおおおおおおんっ!

 ちゅどおおおおおおおおおおんっ!

 ちゅどおおおおおおおおおおんっ!

 ちゅどおおおおおおおおおおんっ!

 ちゅどおおおおおおおおおおんっ!


 さらに五つの魔導具が立て続けに誘爆する。

 カメラの画像が爆風と煙幕によりほとんど使い物にならなくなったが、不思議と、その中を駆け抜ける夜空色の影はひどくはっきりと目に入った。


『突破! 白銀さん、地雷原を駆け抜けました!』


 無意味に爆発を続ける魔導具群を背後に、もみじ先輩がユーちゃんに肉薄する。そしてその白魚のような指が刃物のような鋭さでユーちゃんの胸元めがけて突き刺さる。


 パキン


 砕ける氷像。

 しかしそんなことなど意に介さない刺突は勢いを落とさず、背後に出現したユーちゃん本体目掛けて突き出された。

 カメラが、全てを諦めたように苦笑するユーちゃんを捉えた。


 ――ピチュン!


 転移が発動する。

 それを確認し、誘爆が続く屋上の中でもみじ先輩が優雅な動作でサングラスを外した。


 終わりましたよ、とカメラに映るもみじ先輩が口にする。


 ようやく終わった。

 どっと肩の力が抜ける。

「っしゃああああああああああああああああああああっ!!」

「肉だああああああああああああああああああああっ!!」

「うおおおおおおおおおおっ! 隈武ざまあみろ!」

 雄叫びが木霊する生徒会室。そんな中、あたしは小さく溜息を吐く。

 正直、大分反則気味な手を使った自覚はある。

 それもこれも、参加者が――ユーちゃんとウッちゃんコンビが想像以上の下衆い活躍をしてくれたせいだから罪悪感は薄いが、それでももう少しやりようはあったと反省すべき個所はいくらでも


『白銀先輩! まだだ! 終わってない!』


 校内放送で、沙咲ちゃんの緊迫した声が響いた。


 競技用の時計を見る。


 TIME……02:59:55

・赤組……265点(生徒会被撃破44人:没収170点)

・青組……730点(生徒会被撃破11人:没収650点)

・緑組……260点(生徒会被撃破39人:没収170点)

・黄組……225点(生徒会被撃破36人:没収125点)


 競技全体を把握する藤村先生が管理している時計が――まだ、止まっていなかった。


 ――ピチュン!


 カメラ越しの転移音。

 一瞬、自分に何が起きたのか理解できない顔をするもみじ先輩が映ったが、即座にその姿も消え失せる。


「……あら、まあ」


 生徒会室に、呆然とするもみじ先輩が送還されてきた。


 カメラを確認すると、画面端に姿消しの魔術と幻術を解除した黒髪眼鏡の少女と白髪狐耳の少女が映りこむのが見えた。



          * * *



・赤組 基本得点265点

    生徒会被撃破44人:没収170点

    計95点

・青組 基本得点630点

    生徒会撃破2人:加算200点

    生徒会被撃破11人:没収650点

    生存ボーナス100点

    計280点

・緑組 基本得点260点

    生徒会被撃破39人:没収170点

    計90点

・黄組 基本得点225点

    生徒会被撃破36人:没収125点

    計100点


 高等部混合団体戦結果

1位……青組(生存者2人)

2位……黄組(生存者0人)

3位……赤組(生存者0人)

4位……緑組(生存者0人)



          * * *



「まああの二人が最初の爆撃に巻き込まれてなかったのは見えてたからね。あのドサクサに紛れて魔術と幻術併用して隠密し始めたから、何か考えがあるんだと思って放置したのよね。ユーユーに知らせなかったのはそっちの方が顔に出ないと思ったから。いやでも、まさかずっとわたしらの後ろをくっついて歩いて機を窺ってたとは流石に思わなかったね。うーん、わたしもまだまだだね! あはは!」

『『『……』』』

 紹介された個人経営のファミレスのテーブルに生徒会全員で突っ伏していると、ウッちゃんがファミレスの制服姿で水を持ってきた。

 あんたのバイト先かよここ。

「いやでも面白い結果だったよな。もみじさんにとどめ刺したビャクちゃんのボーナス200点分がなかったら僕ら青組が最下位だったわけだよね」

「えへへー、マナの魔術があったからずっと隠れられたんだよ」

「もみじさんに気付かれないか最後の方本当に冷や冷やしてたけどね……上手くいってよかった」

「いやあんたらもおるんかい」

 あたしの後ろのテーブルから聞こえてきたクラスメイト三人の声に思わず突っ込む。

 くそ、揃いも揃っておちょくりよって!

「いやそうは言うがねアズアズ。あんたらがうちの飯目当てに突っ込んでこなけりゃ、わたしだってもう少し手加減したんだよ」

「ダウト。あんたはどうしたってアレくらいのことをやらかしているはず」

「そうかもね」

 あっさりと認め、メニューを置くウッちゃん。

「予算一人2000円程度の大皿コースだけど、追加したいならご自由にどうぞ~」

「くそっ……本当なら隈武屋で食べ放題だったのに……」

 颯太先輩がパラパラとメニューを眺めながら愚痴る。一般的なファミレスと比べると比較的安い価格の品が並んでいるが、品目としてはごく有り触れたものばかりだ。

 からからと笑いながらウッちゃんが颯太先輩の脳天をぐりぐりと指で押す。

「確かに我が家と比べりゃ見劣りするかもしれんがね、うちは2000円で3000円分の満足感を提供するをモットーにしてるから期待してくれていいんだぜ」

「今考えたろ。あと頭押すのやめろ! 下痢になるだろ!」

「小学生の迷信かよ」

 呆れるも、ウッちゃんは可笑しそうに笑う。

「もちろん、それくらいの料理は出すから楽しみにしてな」

 言って、ウッちゃんは去っていく。

「……ふふっ」

 と、もみじ先輩が小さく笑った。

「予定のお店には行けなかったですけど、こういうのもありですね」

「はん、予定通りの店に行けなかったのはテメーが最後油断したから――ぐっ!?」

「何か?」

 珍しく打ち上げにも参加していた尊先輩が頭を氷で打ち抜かれて短い悲鳴を漏らした。氷は砕けず、めり込むように額に残されているがどういう力加減をしているんだ。

「まあまア、結果として体育祭は大盛り上がりだったんだからいいでしョ?」

「混合団体戦が盛り上がりすぎて総合結果あんま覚えてないっスけどね」

「緑組が優勝だっけ。アタシんとこの」

「違います……黄組が総合優勝です……ボクのとこの」

「MVPは俺たち青だったがな!」

「そのMVPは混合団体戦で勝った穂村ちゃん朝倉ちゃんありきの賞でしたよね。やはり他団体戦三種目で活躍した僕たち赤組が真のMVPですよ」

 急に全員が顔を上げ、やいのやいのと言い争いを始める。言われてみれば確かに、混合団体戦の準備と後片付けが忙しくて全体の結果ってあんまり覚えていない。あたしが閉会式で発表したはずなのに。

「ふふっ……でも」

 もみじ先輩が小さく漏らす。

「生徒会としての最後のお仕事、ちゃんと終えることができて良かったです」

『『『……』』』

 その一言に、あたしら一・二年ズが沈黙する。

 そうか……今までなんとなく考えないようにしていたけど……。

「本当に引退しちまうんすね……」

「あとのことは任せましたよ、日野原生徒会長」

「……針ヶ瀬」

「副会長兼応援団長、任せてください!」

「マサシ、書記から会計へのジョブチェンジになるけど、分からないことはレオナに聞いてネ」

「……うっす」

 三年生から二年生へ、言葉が贈られる。併せて、あたしら一年組も顔を突き合わせる。

「そうだ、あたしらも役職決めないと」

「まあそうだね。今まで何となくの想定はしてきたけれどそろそろちゃんと決めないと」

「……瀧宮が副会長……須々木が会計でいいじゃん……ボクら一年の役職変更に係る承認選挙なんて、早々流れない――」


「いた! 瀧宮の、白銀さん、ちょいといいっすか!?」


 がらんがらん! と大きな音を立ててファミレスの扉が開かれる。

 一体何事かと思い立ち上がり、入口の方を見ると、息を切らせた(きょう)先輩がこちらに向かって歩み寄ってきた。

「あれ、どうしたんです経先輩」

「お店の中ではお静かに」

「はあ……! あ、すんません……はあ、はあ……!」

「ほら、水」

 ウッちゃんが水の入ったコップを差し出す。それを経先輩は氷ごと口に放り込んでボリボリと咀嚼し、ふうと一つ息を吐いて近くの空席に腰掛けた。

「すんません、ちょっと羽黒(はくろ)さんに連絡とってもらえますか?」

「兄貴に?」

「あら、お店の方にいませんでしたか?」

「留守でした。少しばかり急ぎというか、俺じゃあどうしたらいいか分かんねえ事態になってまして……」

「おい藤原、まずは説明しろや」

「あー、まず何があったん?」

 颯太先輩と正志先輩が呆れ顔で突っ込む。それを聞いてようやっと二人もいたことに気付いたらしい経先輩はポリポリと居心地が悪そうに頭を掻き、「なんつーか……」となおも歯切れの悪い言葉を漏らす。

「まず、見てもらった方が早いというか……」

「? 何をです?」

「今来ますんで」


 カランカラン


 再びベルが鳴り、扉が開かれる。

 そちらに視線を向けると、普段から経先輩とつるんでいるハル先輩と相良(あらい)先輩、明良(あきら)先輩、そして最近一緒にいるのを見かけるエルフのライナが店に入ってきた。

 しかし、あたしらの視線は先頭を歩く相良先輩――の、全身にまとわりついているソレに集中していた。

「おわあっ!?」

「な、なんじゃソレ!?」

「香川アンタ、なに連れてきてんの!?」

「お、おれだって分かんないって!?」

 二年ズが悲鳴を上げる。

 さすがの三年組は落ち着いて――いるように見えて、三人ともどう反応したらいいのか分からずポカンとしているだけだった。それはあたしら一年陣も同じだが。

「……とりあえず、外すのに手ぇ貸してくれ」

 明良先輩が相良先輩の体に巻き付いているソレの端を掴み、解こうとしているがまるでビクともしないらしい。後からついてきた女性人二人はどうしていいのか分からず、おろおろと二人と()()?を眺めていた。


「エストスド シャシャ! ルポヨンポヨンププズル! ミスルピファジス 羽黒 フス!」


 相良先輩を絞め殺さんばりに巻き付いている半人半蛇の少女は、あたしらには理解できない言葉を発する。しかし不思議と、クソ兄貴の名前だけははっきりと聞き取れた。

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