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だい ろくじゅうなな わ ~ふらり火~

「ふらり火」

 生徒会室の誰かがそう口にした。

「江戸時代から語られる炎を纏った鳥の妖怪だが、大きく分けて二パターンの逸話が存在する。一つは殺された女とその一族の怨霊の集合体。そしてもう一つはインドの聖獣ガルーダと同一視する話だ。美しい赤い翼を持つ者、鳥の王、インドラを滅ぼす者――色んな異名を持つガルーダと同一視されるあいつは、普通につえーぞ」

 この祭りが終わった後を想像でもしているのか、声の主は楽しそうに楽しそうに、笑った。



          * * *



『――鬼。解放』


「炎の塊が突っ込んで来るぞぉぉぉぉぉっ!?」

「いや、違う!? あれは火達磨の鳥だ!!」

「ふらり火――生徒会副会長の日野原(ひのはら)か!!」

「あいつレフェリーじゃなかったのか!?」

「おい、中継画面! 針ヶ瀬(はりがせ)が審判についてるぞ!?」

「いつの間に!?」

「てか、あの熱量まずい!? 近くにいるだけでHP削れていってるぞ!?」

「ぎゃあああああああああっ!?」


 TIME……01:10:00

・赤組……80点(生徒会被撃破4人:没収5点)

・青組……600点(生徒会被撃破0人:没収0点)

・緑組……145点(生徒会被撃破4人:没収10点)

・黄組……100点(生徒会被撃破12人:没収40点)



          * * *



「っしゃあ! 結構狩れたんじゃないか?」

「いや全然。10人ってなんなん、やる気あんの?」

「マジで何なんだよお前、ふざけてんの? あと倍は狩ってくるって計算だったのにどうしてくれんだ」

「何だその言い方、厳しすぎねーか!? てか針ヶ瀬、テメェと数は同じだろうが!」

「アタシは狩りすぎないように遊びながら調整してたし。対してアンタは10分もあったのに全力でやって10人よ。舐めてんの?」

「あーあ、こりゃ後続の負担が無駄にデカくなるー」

「同僚が辛辣すぎる!?」

 生徒会室に帰ってきた颯太(そうた)先輩を審判席に行儀悪く胡坐をかいて座っていた玲於奈(れおな)先輩と正志(まさし)先輩が野次る。生徒会ではごく見慣れた光景だが、今日は一段とピリピリしているように感じる。

「まあ……仕方がないと言えば仕方ないですよ……」

 と、高等部校舎の見取り図を映し出すプロジェクターをボーっと眺めていた昭義(あきよし)君が欠伸交じりにこちらを振り返った。

「一時間経って人数も減ってきて……警戒心も上がって……しかもボクらが襲ってくるって分かって……軽々に廊下に出なくなっちゃった……」

「そうネー。廊下のカメラがほぼほぼ機能してないわネ」

 隣でカメラのチェックをしていたナンシー先輩も苦笑を浮かべる。

 確かに、全ての廊下が見渡せるように配置したカメラにはほぼ人が映っていない。そもそもこのカメラは競技参加者も覗けるものだし、目立つ行動をとってヘイトを集めるよりも隠密に徹底した方が良いと判断しているのだろう。

「でも教室の出入りはある程度はあるし、選手同士の撃ち合いも全くないわけじゃないから、競技としてはギリギリ成立してる感じかな」

「カメラに映らなきゃ意味ねえだろ! あいつら、これが全校生徒が見てるバラエティー番組だって意識ねえだろ!」

「ないだろ、そりゃ。あと一部生徒はカメラの死角を把握して移動してるっぽいねー。得点上位陣が軒並み行方不明な件」

「なんで一介の高校生がカメラの死角なんて把握できんだ!?」

「そういう連中をチョイスしちまったからな、オレらが」

「チクショーめ!」

 吼える颯太先輩と苦笑する正志先輩。確かに競技を選定した後、中継が盛り上がるようにこの手の競技に慣れているメンバーが選出されるように各クラスに働きかけたのはあたしたちだ。なんなら、各々のクラスが所属する陣営が有利になるようガチパを揃えたまである。

 その結果、競技参加者の半数がちょっとした裏組織程度であれば潰せそうな面子になってしまい、本格的過ぎて実に静かな屋内戦が繰り広げられることとなった。

「でもマー、そろそろ何とかしなきゃネー」

 と、ナンシー先輩がおもむろにケータイを取り出し、ポチポチと弄る。するとするとほぼタイムラグなしでピンポーンとチャイムが鳴った。


『はいはい皆さんお疲れ様ですよ。そんなに警戒しないでも大丈夫です。鬼の追加じゃありませんよー。今回はルール追加のお知らせです』


 放送室で解説を担当している沙咲(ささき)ちゃんだ。相変わらずアクセントのない掴みどころのない喋り方だ、声だけで分かる。


『今から約5分後の午後3時15分に高等部校舎全三棟の一階を閉鎖しますよ。これにより一部移動に制限が発生するので注意してくださいね。10分経っても一階に残っている参加者のHPは減り始めますのでお気をつけて』


 ざわ、と校舎全体がにわかに殺気立つ気配がした。

 今校舎内に生き残っているのは精鋭がほとんどだ。この階閉鎖が一回っきりの特殊イベントではないというのは想像に難くはなかったのだろう。今まである程度のポイントを保有して時間いっぱいまで隠密し、生存ボーナスを得るつもりでいた連中もこれには動かなければならない。

「お、動き出したネー」

「てか、一階こんなにいたのか」

 と、ナンシー先輩と玲於奈先輩が苦笑いを浮かべながらカメラの画面を注視する。

 さっきのアナウンスに呼応して今まで隠れていた連中が我先にと二階へと避難を始めていた。一階は調理室や裁縫室などの実習教室が多いために隠れる場所が多かったのだろう。今までカメラの死角になっていたところから虫の子のようにワラワラと飛び出してきた。

 そして途端にエンカウント率が跳ね上がり、開戦時のような派手なドンパチが再び始まった。

「おーおー、いい感じだな」

「やっぱこうじゃないとなー。……よし、次の閉鎖エリアは30分後に四階な」

 そしていい感じに密度が上がった戦場を見つめながら、うずうずと体を揺さぶっていた巨体に対し、ナンシー先輩がにっこりと笑みを浮かべた。

「アナタの出番は3時半ネ。そろそろ待機お願いネ」

「……かははっ」



          * * *



『――鬼。解放』


神崎(かんざき)だ! 神崎が出たぞ!!」

「アイツが学園祭に引き続き体育祭参加!? 明日は槍が降るぞ!?」

「逃げろ逃げろ! 勝てるわけがねえ!」

「いや待て、相手は喧嘩しか取り柄がねえヤンキー、こっちは飛び道具で武装した集団!」

「これは好機ではないか!?」

「っしゃあ! やり返すチャンスだ! 全員構えろ! 迎え撃て!」

「お、おい! 最初にエンカウントして残念賞部屋行きになった奴らから連絡だ! あいつ、『声』に攻撃判定が――」


     挿絵(By みてみん)


 TIME……1:35:00

・赤組……125点(生徒会被撃破20人:没収30点)

・青組……640点(生徒会被撃破1人:没収10点)

・緑組……210点(生徒会被撃破16人:没収35点)

・黄組……140点(生徒会被撃破22人:没収85点)



          * * *



「お疲れさマー! いい感じじゃなイ!」

「ふん。もっと時間をよこせば、あんな連中半壊させられたものを」

「いや、ミコト。こんな前半で半壊させちゃダメでしョー。ワタシたちはあくまで競技のバランスをを見ながら()()()()()()を目指さないとなんだかラ!」

「ちっ……めんどくせえ」

 不満の裏側に公然と暴れまわることができた開放感を滲ませながら、(みこと)先輩が椅子に深く腰掛けて眠りにつく。このヒトに与えられたのは5分とごく短い時間だったが、スコアは39人ととんでもない人数を蹴散らしてきた。まあこのヒトに5分以上自由を与えたら本当にプレイヤーが半壊させられかねなかったので我慢してもらう。

「けどさ、思ったより没収点は少なかったな」

「基本的に廊下をほっつき歩いてた連中を一掃した感じだもんなー」

 うんうん唸りながら額を突き合わせる二年男子二人。そこに全カメラを眺めていた昭義君が顔を上げた。

「それもありますけど……ある程度稼いだ奴らが自殺を始めてる……生徒会に点取られるくらいなら生存ボーナスも諦めてさっさと死んで確保するって腹積もり……ルール違反でもないから注意もできない」

「軟弱な! 俺らを狩って名を上げようって奴はいないのか!」

「まあリスクデカすぎるんだよなー。トップランカーなんかは突っ込むメリットがないしな」

 とは言え、それは作戦としてはアリだ。フレンドリーファイアと自殺によるデメリットを設定してなかったあたしらにも非はあるが、ここまで雰囲気ががらりと変わるとは思わなかった。

 上位陣は画面映えなど一切気にせず、ガチ隠密で得点を稼ぎまわっているし、中堅勢は稼いだポイントを徹底的に保持しようとさっさとリタイアするため画面がいまいち盛り上がらない。

 そしてこの流れを作ってくれたペアというのがまた――

「ホント宇井(うい)の奴らはどこにいんだ?」

 と、玲於奈先輩が眉を顰めながら目を皿にして画面に食いつく。

 確かに、あたしもずっと画面で探しているのだが、開幕に見方を背後から()()してからとんと姿を見ない。それでいてアプリでの集計では順調にポイントを稼ぎ続けている。既に全ポイントの半数近くを稼いでおり、現段階でポイント確保に走って自殺しても問題ないはずなのに。今生き残っている参加者全員が生存ボーナスを得ても逆転できない点差を見せつけてなお、狩りを続けている。

 だがカメラには一切映らないのだ。

 いや、あの二人を組ませたのはあたしだし、あの二人ならこれくらいやれる――やらかすのは分かっていた。

 けれど今回はそれが完全に裏目に出てしまった。

 なんとしてでもあの戦闘狂(トリガーハッピー)戦闘狂(サイコパス)を止めなければ!


 今夜の生徒会打ち上げで美味い肉を食うために!!



          * * *



「お肉を食べに行きましょう」

 体育祭三日前の打ち合わせ――もみじ先輩が唐突にそう口にした。

「え、肉ですか?」

「はい、お肉です。体育祭が終わったら打ち上げに行きますよね? その時に普段なかなか行けないお店に行きましょう」

 各競技の最終確認を行っていた颯太先輩が首を傾げながら聞くと、何とでもなくそう返ってきた。

「ちょっとした伝手がありましてね。いいお肉を格安で提供してくれるお店を知っているんですよ」

「へー、そうなんスか。ちなみにどこですか?」

「『隈武屋』です」

『『『…………』』』

 その店名を聞いた瞬間、もみじ先輩の「伝手」とやらが何なのか生徒会室にいた全員が理解した。どうせクソ兄貴である。

「え、いえ待ってください。『隈武屋』つったら俺たち学生が軽々には入れる店じゃないっスよ!?」

「紹介状がないと入れないとか食事代が後日請求書で届くとか、いろいろ聞きますよ!?」

 颯太先輩だけでなく正志先輩も顔を青くする。確かにこの二人は、当の隈武の一人娘とも普段から絡みがあるだろうし、そういった情報が何となくだが入ってきてるんだろう。

 しかしもみじ先輩は小さく笑いながら首を振った。

「それは本館の方ですね。今回行こうと考えているのは分館の方です」

 確かに隈武屋は本館と分館で出てくるメニューが異なる。本館の方は八百刀流(あたしら)の幹部連中が会合や商談に利用するような店で、極上の美食の代償として目玉が零れ落ちるような金額が請求される。

 一方で分館の方は一階にはカウンターテーブルや小上がりもあるような比較的入りやすい雰囲気になっている。本館には見劣りするものの出てくる料理は当然一級でありながら値段はそれほど高くはない。

 とは言え、やはり高校生が入れるような店ではないことは確かだ。普段から3000円以下の食べ放題にすら躊躇する財布事情の高校生からするとやはり敷居は高い。

「ええ、ですから伝手を使って口利きをしてもらえることになりました――予算4000円で、隈武屋分館のメニューを90分食べ放題、です」

 ざわ、と生徒会室の空気が変わった。

「隈武屋分館の単品メニューは一皿1000円から2000円程度。高い物はもう少ししますかね」

 と、もみじ先輩がさらに燃料を投下する。

 隈武屋の値段設定からすると90分4000円とは尋常ではない破格であった。

 だがしかし、その裏にいるのはあのクソ兄貴なわけで、そうそう上手い話があるはずがない。

「もちろん、口利きしてもらうためには条件があります」

 確認すると、案の定もみじ先輩がその条件とやらを並べ始めた。

「まず第一に、競技中の特殊イベントとして私たちが乱入して選手を妨害することになっていますよね。その際、最終的に選手を全滅させ、生徒会の力量を知らしめること」

「お、それじゃあ簡単じゃないっスか」

「それ本気で言ってます……?」

 颯太先輩が生徒会室のメンバーを見渡しながらお気楽なことを口にし、昭義くんがドン引きしながら問い返す。

 確かに、あたしやもみじ先輩であればたかだか480人程度のガチの戦闘慣れしてない学生の群れなんか瞬殺である。加えて、公然と暴れられると分かれば、当然のように打ち合わせをサボっている尊先輩も出てくるだろう。あたしたちの勝利は揺るがない。

 だがしかし、相手はズブの素人集団なんかではない。

「目立つところはやっぱり穂波くん隈武先輩ペアだけれどもその他にも色々と手強いメンバーがそろっているよね。二年の藤原(ふじわら)先輩狛野(こまの)先輩の脳筋ペアとか。三年の長谷川(はせがわ)先輩(たちばな)先輩のアーチェリー部ペアとか。あはは。他にも色々いすぎて挙げてたらキリがないね」

 出場者一覧をペラペラ眺めながら沙咲ちゃんが無アクセントで笑う。

「まあ無理もないよね。僕たちが選りすぐったメンバーばっかりだもん。確かに今期生徒会メンバーは武闘派技巧派勢揃いだけどもこのメンバーを相手に余裕は無理だね」

「ぐっ……だ、だけどよ、会長がいるじゃねえか!」

「第二に、妨害行動に制限をかける」

 当然、この条件が出てくる。

「モミジ、具体的にはどう制限されるノ?」

「そうですね……あくまで適正な制限かどうかは先方が判断するので、あくまで予想ですが――例えば、神崎さんや(あずさ)さんのように個の戦闘力が分かりやすく高い方の場合、活動時間の短縮や武器の縛りが挙げられるかと」

「あー……」

 正志先輩が顎に指を添えながらしばし考え、ぽんと手を叩く。

「神崎副会長は何言っても勝手に暴れまわるでしょうから、5分の制限なんてどーでしょ。瀧宮(たつみや)の場合は制限時間は多めにとる代わりに、術の使用禁止とか。一番最初に出す妨害役は針ヶ瀬が人化を解いて時間短めに暴れまわってインパクト重視。あと、俺と日野原がテキトーに妨害すればゲームバランスを取りながら全滅狙えると思います」

 生徒会メンバーの戦闘力を考えながらスラスラと案を口にする。即座にこういった提案をできるあたり、普段ふざけてるくせに流石である。

「もみじさんは出さねーの?」

「出してもいいけど、制限時間1分とかじゃなきゃ許可出ないと思うなー」

「あー……」

 玲於奈先輩が渋い顔をする。

 確かにもみじ先輩を妨害役として出すのは心強い――というか、それこそ勝確だが、兄貴がそれを軽々に許可してくれるとは思えない。あたしら他の生徒会メンバーが妨害役で出るために制限時間1分というのは、案外妥当な時間な気もするが、流石のもみじ先輩も1分じゃどうしようもないだろう。

「じゃあとりあえず、白銀会長は計算に入れない編成を考えるとして、さっきも言った通り一発目は針ヶ瀬な。やっぱキマイラはインパクトデカいからな」

「ういーっす」

「次にインパクトデカいで言えば、やっぱ神崎副会長。あのヒトは真ん中で出すと競技が引き締まると思うんだ。んで、瀧宮が最後。時間たっぷりとるから一人残らず狩り尽してくれ」

「マサシマサシ、ワタシは? 言っとくけド、ワタシは戦えないわヨ?」

「大丈夫っス。全員が全員妨害役に回すわけじゃないんで。ってか、多分全員出せるほど時間はないんで、30分経過ごとに5人が限界かと。進行役とか審判も必要なんで」

「ソ。それならワタシはレフェリーに回ろうかしラ」

寺田(てらだ)須々木(すずき)は予定通り審判と進行を頼む。審判残り一人は針ヶ瀬と日野原が交代でやってくれ」

 その辺にあった裏紙にメモを取りながらテキパキと指示を出していく正志先輩。このヒト、書記にしておくのはもったいない指揮っぷりである。これが毎日1時間という限られた時間しか許されていないゲーム時間を、いかに効率よく使うために鍛えられたのだとすると何だか泣けてくる。

「てか、あれ、もみじさんはどうすんの? 妨害役は保留なんっしょ?」

 と、玲於奈先輩がメモを覗き込みながら尋ねる。

 確かに、この配役だともみじ先輩に仕事はほぼない。

「白銀会長には店の話持ってきてもらったし、他にも色々裏で働きかけてもらったからなー。当日くらいはゆっくりしていてくださいよってことで」

「うーん……そうですね」

 にこにこと笑みを浮かべながら話を聞いていたもみじ先輩が頬に手を当て、しばし考える。程なくして小さく頷き、「それではお言葉に甘えましょうか」と返した。

「うっし! じゃあ当日の作戦を改めて練るとするか!」

「ああ、何としても肉を食いに行くぞ!」

『『『おーっ!!』』』

 颯太先輩が声高らかに宣言する。

 かくしてここに自分のクラスを裏切り、ルール策定者というポテンシャルをフルに活用し、肉のために全力で作戦を練る第三勢力が誕生したのだった。



          * * *



『――鬼。解放』


「……ん? 何か視界が霞んで……?」

「お、おいどういうことだ? 屋内に、霧……?」

「さっき鬼追加のアナウンスもあったし、注意――(ピチュン!)」

「え?」

「な、なんだ!? なんで今転移が発動し――(ピチュン!)」

「どうなってんだ!?」

「この霧、もしかして鬼の攻撃か!?」

「まさかこれ白川(しらかわ)――煙々羅か!?」

「あいつ今日の晴れ係だったよな!?」

「雲食って巨大化してやがる! この階全部、白川の腹の中――(ピチュン!)」

「ま、まずい……だ、誰か! 俺とペア組んでくれ! どんどんHPが減ってい――(ピチュン!)」


 TIME……02:15:00

・赤組……205点(生徒会被撃破26人:没収75点)

・青組……700点(生徒会被撃破3人:没収20点)

・緑組……230点(生徒会被撃破25人:没収70点)

・黄組……160点(生徒会被撃破25人:没収90点)



          * * *



「どうだった!?」

 学園周辺の雲を欠片も残さず喰い尽し、縦にも横にも巨大化していた正志先輩が脂汗を流しながら生徒会室に帰ってきた。それをタオル片手に出迎えたナンシーさんが渋い顔を浮かべる。

「スコアは19人ヨ。良くも悪くも想定内って感じネ」

「あー、クソ!」

 椅子に座れないためどっかと床に腰を下ろし、悔しそうに舌打ちをしながら汗を拭う正志先輩。

「でもこれで三階に潜んでた奴らのほとんどが退場したことになるな。エリア閉鎖もあるし、だいぶ舞台は整ってきたんじゃないか」

「けど残りの人数は103人だってさ。密度上がってお互い撃ち合うのも考えても、あと70人は狩る必要があるんだぞ」

 チラリと玲於奈先輩がこちらに視線を向けるのを感じた。

「残るエリアは東棟と中央棟の二階だが、もうすぐ東は封鎖するから中央二階だけだ。そこに約100人というなかなかの人口密度になるが、ここまで生き残ってる連中が積極的に打ち合いするとは思いにくい。しかもさっきの絨毯爆撃を掻い潜って当たり前みてえに生き残りながらトップ独走してる穂波隈武ペアの他にも、やべえ連中がウヨウヨいやがる」

 と、歯軋りのような音を立てながら重く颯太先輩が口にする。

「制限時間はラスト30分フルに使うことになる。瀧宮、負担がデカくなっちまって申し訳ないが――」

「クスクスっ」

 笑う。

 今の今までずっと体力を温存していたのは何のためか。

「余裕ですよ。皆で肉、食べに行きますよ」

 立ち上がり、得物として選んだ刀剣型魔導具を二本携える。

 あたしはスタート地点への転移魔方陣に向かって一歩踏み出した。



          * * *



『――鬼。解放』


 TIME……02:30:00

・赤組……245点(生徒会被撃破26人:没収75点)

・青組……730点(生徒会被撃破3人:没収20点)

・緑組……240点(生徒会被撃破25人:没収70点)

・黄組……210点(生徒会被撃破25人:没収90点)

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